呪術 | ナノ
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「……なにしてんの、名前」
「あ、五条くんおつー」
「なにしてんの?」
「寮母さんごっこ!」

まあ五条くんがポカンとするのも当たり前。
私が学生寮でウロウロしているからだ。私も逆の立場だったら目を丸くするだろう、五条くんアイマスクがあって見えないけど。あ、でも五条くん先生だから居ても特に変ではないけど学生たちが嫌な顔はしそう。

「りょ、寮母さん、ごっこ?」
「学長から聞いてない?ほら、今私療養中?というかお休み中でしょ?」
「うん、それは知ってる」
「で、呪術師は難しいって硝子が言ってたでしょ」
「うん」
「相槌が多いな…んで、今後どうするかなーって思って、学長に相談したら」
「こうなった?」
「そういう事」

寮母と言っても特にすることは多くない。
学長からは学生のメンタル面のケアを頼みたいと言われたが、私にそんな知識はない。
ただ話を聞き、辛そうな学生がいれば気にかけ、早い段階で専門機関に誘導する、のが私にしてほしい事らしい。
まあ実際同期でヤバイやつがいたのも事実、見つけるだけなら、できるかも?と思っている。故に“ごっこ”なのだ。

「え…じゃあ寮に戻ったら名前がいるの?」
「まあ、基本的には学生の帰還やらのチェックとかあるからね…」
「えー!いいなー!!傑と硝子に連絡する!!」
「な、なにゆえ…」

ポケットに手を突っ込んでスマホを出してタップする。さすがに文字を打つにはアイマスクは邪魔なのか片目だけだしてタタタタタと文字を打ち込んでいく姿はなかなか面白い。
指が止まったと思うと私のポケットに入れていたスマホがブルリと震える。何か受信したらしい。天気?落ち着いてるし…何かお知らせだろうか。

「…五条くんか…」
「そうだよ!僕だよ!」
「硝子知ってるし夏油くんだけで良くない?」
「え、硝子知ってんの?」
「知ってるよ。あ、ほら硝子から『知ってる』って来た」
「なんで硝子は知ってんの?」
「だって、一応私を診た医者だし、呪術師はちょっとなーって言った本人よ?」

あ、そっか。と納得した様子。
立ち話もアレだなーと思い、何か用事があったのかと聞けば用事があったわけではないらしい。いいのか特級…。
とりあえず寮の応接室でお茶でも飲む?と聞けば元気よく頷く。

「寮の応接室なんて久しぶり」
「わかる。私も学生以来」
「この部屋何のためにあるかわかんないよね。相変わらず」
「え?わかるよ?寮の修繕の打合せとか、学生のご家族の面談とか、面談は学校でもあるけど、ここも使われるよ。たまーに」
「へえ、そうなんだ」
「基本学生自体が少ないから基本死に部屋だけどねー。コーヒーがいい?紅茶?緑茶?」
「ココア!」
「ないのでコーヒーにミルク増し増しのお砂糖つけてあげる」
「お菓子は?」
「ないよ」
「じゃあ持ってくる!」

わー!という声が付きそうなほど急いで出て行き、とりあえずコーヒーの準備をしていると「ただいま!」とお菓子が入っているだろう袋を持ってきた。
実際ここはあまり使われることのない部屋なので、日持ちしないお菓子類はない。
備品であるコーヒー類も補助監督らが使うもののおこぼれを貰ったに過ぎない。
だって本当にここに部屋は基本使われないのだ。最後に使われたのは数年前の学生の救護だというのだから笑える。医務室に行け。

「わ、どこのお土産?」
「仙台」
「……これだと緑茶とかの方がいいんじゃない?」
「いーの!」
「……ふうん?そう?」

案の定そのお土産は私にひとつも分け与えられることもなく、パリッと個包装を向いては大きな五条くんの口にポイと投げ込まれていく。
元から期待はしていないし、諦めているとこもある。夏油くんの教育はここまで行き届かなかったらしい。まあ夏油くんは五条くんのお家の人ではないから彼が教育する理由はないのだけれど。

「あ、名前も食べる?ひとつあげる」
「ご、ごじょくん、が…私に?」
「何その反応」
「いや、今までそういうのなかったし…もしかして私、死ぬ?」
「死なねーよ」

ほい。とひとつ投げて渡されたお菓子。銘菓だ。
有難く「いただきます」と手を合わせて口に運ぶ。自分のお茶も入れておけば良かったと思って湯呑に緑茶のティーパックを入れてお湯を入れ、超簡単お茶を淹れてまた座っていた場所に戻る。

「で、名前どうするのこれから」
「お!面談ぽいね!さすが五条先生」
「僕としてはー教師を推すんだけどー?」
「先生は無理です。寮母さんになるか、補助監督かな?七海くんには補助監督推されたし」
「僕より七海の意見取るわけ?僕五条家当主よ?」
「別に呪術界から離れるわけじゃないんだし、よくない?」
「よくなーい。絶対名前は先生に向いてると思うんだけど!1年の副担やろーよー!今教師男が多くて女子の相談とかさー」
「それはこちらのお仕事に含まれております」

お茶を飲む。
まあ、先生という立場ではないがこの寮母(仮)も先生の立場に近いと言えば近い。
今朝からそういうことになっているので学生たちは知っているし、虎杖くんには早々「え、じゃあ呪術の勉強おせーて!」と可愛らしい顔で言われたので断れなかったわけだが。
私も一般家庭の出身で大変だったこともあり、力になりたいと思うのは悪い事ではないはず。助けを求められて無視するなんて、先輩としては見過ごせないだけ。うん。それに先生ではないから責任もないしね。

「ん?」
「どした」
「傑がくる」
「特級暇なの?」

ダダダダダダ、と大きな足音がしたかと思えばバンと大きな音を立てて開かれる扉。
古い建物なんだからもう少し優しくだな…

「名前!」
「あ!ちょっと夏油くん!!」
「どういうことなんだ!!」
「土足!靴を脱げ!!誰が掃除すると思ってんの!!!」
「傑にさせれば?」
「それもそうね。掃除して」
「え」
「掃除して」
「…はい」

掃除用具の場所は学生の時から変わっていない。
大人しく掃除を始めるあたり、夏油くんは良い子……いや、アラサーに良い子はアレか、いい人だ。
正直五条くんにも見習ってほしい部分はあるが、まあ五条家のご当主さまなので、彼は彼のままがいいのだろう。一族の頂点に立つ人間がそんな掃除をするのは一族的に良くない気がする。

「終わったよ」
「もう土足で来ないでよね」
「うん。って違うんだよ、違うんだ名前…」
「違う、そうじゃない」

こういうやつ。と某CDジャケットのマネをする五条くん。
それを見て私が笑うのを見て、夏油くんは「そんなのどうでもいいんだよ!」と大きな声を出して五条くんの隣に座る。あれか、私コレから説教されるのか?説教されることがないからそれはないか。
珍しく冷静さがない。なにかあったのか?と思っていると五条くんが茶化すので、まあやはりそうらしい。

「なに?寮母って!名前は私専属の結界作ってよ!」
「なんでだよ」
「名前の結界本当精度いいから呪霊ピンポイントで動きとめられるし、硬いからちょっとやそっとの呪霊の攻撃も受けられるし。私と相性いいだろ?」
「七海くんにも勿体ないっていわれたんだよね、補助監督になってくれたら嬉しいって」
「七海に?」
「そう!七海くん。七海くんにね、呪術師辞めないでって言われたの!」

嬉しかったなー。とお茶が入っている湯呑をくるくると揺らす。
まあ社交辞令的なものなのはわかっているので、『きゃ』と年甲斐もなく喜んではいた。
いや、実際嬉しかったんだけど。何のとりえ…いや、もしかして結界術ってとりえなのか、も?夏油くんも、なんか、そんな感じだし…?

「…もしかして」
「もしかして?」
「私の結界術、案外凄いの?」
「凄いよ」
「え、無自覚?うそでしょ」
「ちょっと皆より上手なだけな意味合いで言われていると思っていた、けど?え、本当私もしかして凄い系?」
「まあ普通名前みたいに結界術バンバン使って呪霊祓うなんてしないからねー」
「基本的に術式と呪具だったりするからね。そうか…無自覚だったか…まあこんな化け物がいたら感覚狂うよね」
「なに?それ僕の話?傑も十分化け物だからな?」
「私は一般家庭出身だから名前と感覚は近いよ」
「だって。どう思う名前」
「私から見ればどっちも化け物ですわ」

特級と一緒にするな危険。と言いたかったが、言ったところでこの2人にはわからないだろう。
いや、むしろ今五条くんがしっかりと「夏油傑は一般家庭出身だからと言ってそちら側ではない」と明言したことに驚く。一般家庭出身なのは事実だけど、確かに夏油くんは私側の人間ではない。
五条くんの言葉を借りるなら「呪術師はイカレてないとできない」ので、私も十分イカレているが夏油くんはその上を行っている。

「あ」
「どうかした?」
「お茶飲む?」
「え、あ、じゃあ、うん」
「名前ー、僕コーヒーおかわりー」
「まだ飲むの?」
「いいじゃーん」
「またお砂糖沢山いれるの?五条くんが来ただけでお砂糖なくなりそう」

これはもうここの備品として申請上げた方が早そうと思う反面、五条くんが来なければ減らないんだよな…とも思ってしまう。
別に申請が悪いわけではないし、申請したところでケチもつけられないだろうけど。申請が面倒だ、といえばそうだけど。
お砂糖と適当に、ミルクもついでに適当に。夏油くんは私と同じお茶なので手間はかからない。

「サンキュー!もっと砂糖入れて!」
「げえ…」
「わかる…私もこれ見ただけで口の中甘くなる…」
「で、僕名前を教師に誘ってるんだけど、傑はどう思う?」
「私専属の結界師になってほしい」
「……名前、やっぱり教師がよくない?」
「うーん、どっちも却下で。今のところは寮母さん(仮)をする予定だし」
「やだやだやだ教師!」
「私専属!!私と組めば呪霊が護衛できるから絶対にいいって!!呪術師続けていいって!!」
「うわ地獄じゃん」

ポケットからスマホを取り出して伊地知くんに電話を掛ける。
焦った声で『はいっ!?』というので「五条くん探してたら学生寮の応接室にいるよ」と言ったら『あああああありがとうございます!!』と言われたので色々察した。
暇じゃねえじゃねえか、お前。

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