呪術 | ナノ
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「七海くんめっちゃ紳士だった」

名前は伊地知の運転する車の後部座席に乗り、隣に乗り込んだ七海に笑って話す。
記憶が後退している時の話だ、五条とは違い大人の対応をとった時の話を実に楽しそうに始めたのだ。

「大人ですので」
「七海くんモテるね、あれは確実にモテる男だった」
「七海さんですから」
「さすが!子供ながらときめいた。五条くんとは別の整い方してるじゃない、顔」
「学生の時から美人ですからね」
「伊地知くんわかる?わかる?私の気持ち」

見た目は15歳ではあるが名前の中身は元に戻っている。
あのしおらしい少女の姿でいつもの名前は不思議な感覚を覚える。七海が名前と出会ったころとはまた違う、幼いが精神は十分大人で絶望を嫌というほど味わっている。そんなギャップがありすぎる歪な存在は七海の隣で何故か自分の事を褒めているのだから意味が解らない。

「じゃあ名前さん、今は私にときめかないんですか」
「どうしよ伊地知くん。モテる男の言い方ですわ」
「ははは、そうですね」
「あ、七海くん。任務終ったらまた高専?」
「ええ。ついでに前回までの報告書を出すのと、時間さえあれば今回もまとめて」
「わかった」
「何かありましたか」
「ん?ううん、聞いただけ。一度家には戻るけど用事足したら高専戻るからさ」
「では迎えに伺いますね」
「ううん、すぐ戻るから大丈夫。戻るときは電車使うし」
「乗れるんですか」
「乗れるよ!」
「何か不都合があれば連絡ください、すぐ向かいますので」
「伊地知くんまで!ひどくない!?」
「今は子供じゃないですか」
「15歳そこまで子供じゃないでしょ!恵くんと同い年!」

むしろ精神的には十分大人なんですけど。と不満そうにする名前。
そんな事は二人はわかっているし理解している。心配なのは肉体がまだ子供であるということだ。名前は15歳の高専1年であるなら一般人により近い、今現在の名前とは違って言えば弱い部類なのだ。
名前自身それがわかっているのかいないのか。名前がどれだけ努力しても15歳から今になるまでの努力の積み重ねの差を埋めるには戻るまで待たなければいけないのだ。
15歳ならば15歳に適した敵の対応があるように、肉体の年齢にあった対応をしなければいけない。
そんな心配を後目に名前の借りているマンションにつけば「ありがとね」と名前は軽く礼を言って走って姿を消した。




「あ、七海くんと伊地知くんお疲れ」
「戻ってらしたんですね」
「まあね。大丈夫だったでしょ?」
「そうですね、ご無事で何よりです」
「これ二人にこの件のお礼ね」
「お礼?」
「そ。迷惑かけたから。お酒にしようと思ったけどこの姿じゃ買えない事に気づいてさ、迷ってブランデーケーキにした。よかったら食べて」
「私までいいんですか」
「伊地知くんには私の任務調整に協力してもらったし、七海くんは心配かけたし。あとは学長と硝子の分」
「一人足りないのでは」
「五条くんは普段私迷惑を掛けられているので」
「そうですか」
「でも大丈夫ですか?五条さんですよ」
「私は名前さんですよ、大丈夫です」

無駄な自信を持っている名前に二人は我慢ならずに笑う。
実際名前は五条には能力も技術も何もかも敵う物は持っていない。しかし五条は名前に対しては他の人間に見せる横暴はなかった。それは学生の時からである。それに対しては五条に関わる人間の謎であった。
しかし当時を知る人間であれば夏油傑が名前にしていた事と同じことをしているだけだと気付いた。ただ五条悟という人間は夏油傑の真似をして名前に対しているのだと。最近ではそれだけではない「甘え」が出ているような気もするが、基本は当時と変わっていない。

「では、お言葉に甘えて」
「私にまですみません」
「ふふん。私の代わりに頑張ってくれた後輩へのご褒美ですからね。本当ならお酒の1本でも良かったんだけど、なにせ15歳に酒は買えなかったのよ」
「もうそろそろ復帰できるといいですね」
「そうだね、記憶戻ったしそろそろじゃないかなって思ってるけど」

じゃあね。と手を振って寮に向かう名前を見送る二人。
持たされた可愛らしい紙袋の中には名前が言っていてた通りケーキが2切れほど見える。二人は顔を見合わせて「なんだか気恥ずかしいですね」と七海が言えば「すこし」と伊地知も同意していた。




「お!クッキーがある!」
「おつかれー。皆で食べるんだよ」
「どうしたんですか」
「ん?皆に迷惑かけたお礼」
「え…じゃあ、俺……」
「虎杖くんも食べていいんだよ」
「でも」
「名前さんが食べていいって言ってんだから食べろや」
「脅さない野薔薇ちゃん」
「それ名前御用達の店のクッキーじゃん」
「パンダちゃんも狗巻くんも真希ちゃんも食べてね」

共同スペースのテーブルに乗るクッキーの入った箱。実に愛らしい包装がされて見ている分にも楽しめるし女性受けが良さそうである。
パンダが言う事もあり、その店は名前が気に入っている店で手土産にはそこを使う。商品展開も幅広く、子供向けから大人向け、甘いものが好きでない人の為に酒だって取り扱うという店だ。店自体はお菓子屋さんという括りだと客の多くは思っている。

「あ!これ名前さんがよく買ってくる店のクッキーじゃん!僕も僕も」
「五条くんのはありませーん」
「は!?なんで!?名前さん僕がこの店のクッキー好きなの知ってるのに?酷くない?」
「うるさいな。とか言いつつもう食べてるじゃん!別にいいけどさ」
「だってクッキーが僕に食べてって」
「クッキーが喋るわけないだろ」
「え、あ…すみません」

冷静な突っ込みに急にビビる五条。
釘崎と虎杖が「え」という顔をしているのに気づいたパンダがそっと耳打ちをする。
「悟はなんか知らないけど名前には逆らえないんだよ、不思議と」と。

「まあ不本意ではあるけど五条くんにも一応世話になったから仕方がない、不本意だけど本当不本意だけど」
「そこまで!?」
「五条くんはちゃんと先生しようね、あれじゃダメだよ」
「急なダメだし…」
「3人が可哀想で。まあ五条くんが先生してる時点でアレなんだけどさ」

と名前は諦めたような顔で同情した眼差しで1年生を見ていた。
翌朝には身体も戻り、借りていた部屋を掃除と使っていた布団をクリーニングに出して寮を出た。

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