呪術 | ナノ
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※スピネル
※夏油生存教師IF


呪術師として、言えばごく普通に、ちょっと大げさに言えば順風満帆に生活していたある日の事。
いつものように待機からの任務、その任務が悪かった。本当に、本当に悪かった。
相手は特級呪霊。1級の呪術師数人では到底勝てない相手だった。幸いにも私は命からがら、いや瀕死の状態で何とか回収されて一命はとりとめたものの呪術師として活動するには体が不自由になってしまった。一般的な生活には支障はないが、呪術師として活動するには身体的な理由でほぼ不可能だ、とまで硝子に言われたのだ。
ではどうするか?田舎に帰る?無理無理無理!!絶対に嫌。
東京で一般就職?いや、無理でしょ。だって今までずーっと呪術師の世界にいたのだから今更一般の世界なんて覚えていない。
じゃあもう、補助監督になるしかないか。

「いや、教師目指そうよ名前」
「嫌です」
「なーんでー?」
「そうだよ、私たちと一緒に若い呪術師たちに未来を!」
「うーっわ、嫌だわー無理だわー。それなら京都校に行って学校事務員した方がいいわ、うん。それがいいかもしれない。硝子に相談しようかな」

あははは。と冗談の様な本気のような、そんな曖昧な感覚で誤魔化す。
でも補助監督の他にも呪術師の世界に関わる仕事はある。今言った学校職員、他に補助監督もあるが、それをサポートする事務員やら色々。
自分の経験を生かすには特級の同期2人が言う通り教師が良いのかもしれないが今更教員を目指すのも色々面倒で自分の性格を考えれば「無理」の一言。というか、特級が教師して何のとりえもない私が一緒に教師なんて肩身が狭くてつぶれてしまう。助けて日下部さん状態だ。
騒ぐ同期は授業の時間だと離れていき、私は待機する呪術師や休憩している人がいる部屋に向かう。一応はまだ1級の呪術師なので問題はない、はず。

「苗字さん?もういいんですか、出てきて」
「あ、七海くん。お隣いい?」
「ええ、どうぞ」

備え付けてあるコーヒーメーカーを使ってカップにコーヒーとミルクをひとつ。
それをもってソファに腰かけていた七海くんの隣の1人掛けのソファに座る。

「実はね、私呪術師辞めることになるんだけど」
「はい?」
「ほら、この前私任務で瀕死になったでしょ?硝子に治してもらったけど呪術師続けるには難しいんだって。医者がいうんだし、そうなんだと思うんだけどさ」
「……呪術師、お辞めに、なるんですか……?」
「んー、そうなる、かも?」
「そんな…辞めないで、ください…と言いたいですが、続けるのが難しいとなると、言えませんね…」
「七海くん…」

私は感動している。こんなイケメンが私の心配をしてくれているのだ。ついでに呪術師としてパッとしない私に辞めてほしくないというじゃないか。本心でなく社交辞令だとしても本当にうれしい…今まで生きてきた甲斐があった、本当にマジで。

「五条さん達はどう言っているんです?」
「…なんで五条くん?」
「同期大好きじゃないですか、あの2人」
「大好き?」
「ええ、大好きですよ。それで、辞めてしまうんですか?」
「呪術師は難しいらしいからね。でも、今更一般職は難しいし、補助監督か高専の事務員とかかなーって思ってる。募集あるかわからないけど」
「運転免許があるので補助監督が良いと思います、そうしましょう」
「補助監督推すじゃん…どうしたの?あ!もしかして私を補助監督にして特級専用にしようと…?」
「そんなバカな事考えるとお思いですか。結界術に秀でている名前さんが事務員?それよりも補助監督の方が存分に能力を発揮できるでしょう?」
「五条くんと夏油くんには先生にならないかって言われた。断ったけど」
「賢明です」

思わず笑ってしまう。
七海くんもあの2人には辟易しているので、それに一番巻き込まれやすい私を心配してくれたんだろう。硝子に関しては学生の時から一貫してドライなのであの2人におちょくられることはほとんどない。私がその分犠牲になっているが。

「しかし名前さんが補助監督となると…必然的に特級担当になってしまいそうですね」
「やだー!」
「私だって嫌です。名前さんの帳は精度がいいですからね、補助監督は戦闘行為禁止なので一番欲しい部分に来てもらえないのは痛手です…もう結界術オンリーの呪術師でいきませんか?私が守りますから」
「きゃ!大胆。担いでもらうとか?」
「厳密にはどのように悪いのですか?走るのが難しいとか、ですか?」
「長時間の激しい運動?なんか心臓があんまり?みたい」
「ご自分の身体の事でしょう?どうして曖昧なんです」
「硝子が詳しく教えてくれなくて」
「家入さんが?」
「うん」

硝子曰く「名前は危険のボーダーラインを曖昧にしておかないと、そこまで攻める可能性があるからな」だって。と言えば七海くんは妙に納得した顔をする。納得しないでほしい。私はそこまで真面目に任務はこなしていない、はず。いや、それもどうなんだろうとは思うけど。

「今日は待機ですか?」
「ううん、お休み。というか、無理?」
「そうですね、瀕死でしたからね」
「そう瀕死だったから。あーあ、これからどうしようかな…補助監督?高専の事務員?」
「すぐに答えが必要なんですか?」
「わかんない」
「呪術師はクソですが、そこまで悩むこともないでしょう」
「七海くんはそうでも、私はそうじゃないからな…」
「まあ苗字さんは選ばないと思いますが、呪術師と結婚もありますよ。1級ともなれば家系で呪術師している人であれば嫁に欲しいと申し出があるかもしれませんよ」
「うわー絶対やなパターンだな、それ…でも、1級ってだけでそんな話が来るならとっくに来てない?」
「あくまで、たとえ話です。そういう家系の人はやはりそういう家系の人をやりとりするでしょうし」
「意地が悪いなあ七海くん」
「無用な心配をしているので、ありえない話をしたまでです」

少し笑ってコーヒーを飲む七海くんは様になる。
お互い一般家庭出身者なので正直五条くんのような呪術界の御三家と呼ばれる世界の事は表面上しか知らない。呪術師から確実に呪術師が生まれるか、といえば確実ではない。
まして御三家の様に相伝がある家系にもなると確率は低くなるだろう。
京都校の加茂家嫡男もやっとだと聞いたし、禪院の家系だが禪院ではない恵くんがいい例だ。

「あーああ、七海くんがイジメるし帰ろうかな」
「心外です。でも私としては苗字さんには呪術師を辞めてもらいたくないですね、苗字さんの結界術には助けてもらっていましたし」
「式神の勉強して移動とか攻撃を式神にしてもらうとか?あー!でも式神使いの知り合いいないし…夏油くんは呪霊操術だし恵くんは相伝だしな…こうなったらやっぱり京都校か?」
「京都校だとこちらとは違う呪術師がいますからね…庵さんに相談してみてはどうです?教師をなさっているから顔も広いでしょう」
「五条くんじゃないあたり七海くんを感じる…私も七海くんの立場ならそっちをお勧めするわ」
「あの人は駄目でしょう。同期大好き人間なのでまず京都なんて行かせないと思いますし、下手したら自分がもらうとか言い始めますよ。御三家当主ですからね、正妻は良いところのお嬢さんだとして、愛人くらいにはされそうです」
「あー」

妙な説得力というか、具体的というか。
五条くんも夏油くんも学生の時から結構女性関係派手だったもんな…と思わず思い出してしまった。いや、私に関係のないところで起きていた事ならいいが、任務に行った時一緒に歩いていただけで「何なのよこの芋女!!」と胸倉掴まれた時は本当もう勘弁してほしかった。
泣きながら「た、ただの同級生です!!ごめんなさい!!」と無駄に謝ったし。いや芋ってなんだ、いや芋だったけど。

「いや、五条くんの性格を考えてやっぱり私が愛人という線はないわ」
「そうですか」
「あんだけ顔が派手なんだから、嫁も派手でしょ。統計的に似た顔の人とパートナーになる確率が高いって聞いたことある。私芋だし」
「卑下は良くありませんよ」
「事実ですので。かーえろ。任務頑張ってね、七海くん」
「お大事に」

使い捨てのカップをごみ箱にINして部屋を出る。
そもそも本日は硝子に自分の様子を診せるために来ただけのようなもの。瀕死の状態だったが故に休みも長く与えてもらっている状態。まだ休暇中?なのだ。いや、これ休暇?療養中?の方が適切かもしれない。
すれ違う仲間には「大丈夫?」と聞かれるたびに「まだわからない」とだけ答える。
実際わからないんだから仕方がない。硝子が濁すから悪い、というよりも硝子もわからないのかもしれない。これから回復するかもしれないし、ダメかもしれない。
反転術式は万能でも私の身体がもう駄目だ、反転術式をしても効果がない。という可能例もゼロじゃない。まあ瀕死の状態に陥った相手が悪い可能性も十分にあり得る。半永久的に私の身体を蝕む系の、そういうの。

「あーああ、どうするかなー…」

前途多難、そういう感じか。

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