呪術 | ナノ
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※夏油妹主
※呪霊が見える


「お前が傑の妹の名前?」

そう五条が声をかけると夏油によく似た黒い髪の女児がゆっくりと目線をあげる。
不細工で大きなぬいぐるみを膝ごと抱え、不格好な椅子に座っている女児。
名前を夏油名前。先日離反した特級呪詛師の妹。両親を殺され、その死体を目撃した、今はまだ一般人。情報としては呪霊が見えているので一般人と言っていいかは不明ではあるが、それでもあの特級であった夏油の今は唯一の血縁者である。

「誰?」
「俺、五条悟。お前の兄ちゃんの親友」
「…お兄ちゃんは?」
「今はいない。お前今の状況わかる?」
「お父さんと、お母さん、誰かに殺されたんでしょ?このぬいぐるみくれた、おじさんが言ってた。わ、たしが、死体をみて、かわいそう、にって」
「効率が悪いから俺は事実を言う。お前の兄ちゃんは特級の呪術師だったけど離反して呪詛師ってのになった。んで、お前の両親を殺した。お前が助かったのはお前にも術師としての素質があるのと、まあ運だわ。お前友達の家に泊まりに行ってたから助かったんだろうな。じゃなきゃ殺されてたか一緒に連れていかれて呪詛師まっしぐらだろ」
「…お兄ちゃん、お父さんとお母さん殺した犯人なの?」
「事実だけを言うならな」
「……なんで?」
「さあ?俺も知りたい。俺も教えてほしい」

再度「なんで?」と問いながら持っていた不細工で大きなぬいぐるみに顔をうずめて泣き始める名前。
そんなこと俺だって教えてほしいよ。とつぶやいて不格好な椅子の前に胡坐をかいて五条は泣いている名前を眺めて考える。
夏油は以前「妹がいるんだ。呪霊が見えて怖がっていて可哀想で、この術式で害がないように守らせているんだよ。前は怖がって泣いてばかりだった妹も今は見えないからって喜んでいるだ」と言っていた。
保護された当時は夏油の呪霊の気配はなく、警察から呪術高専へと身柄が渡されてきた。
「可愛いんだよ」と言っていた妹。見逃された妹、見放された妹。
上層部は夏油が妹を可愛がっていたことなど知らないし、ただ血縁者であって素質があるというだけで処分だと喚いている。
それは五条と夜蛾が今徹底的に抗っている状態だ。
夏油傑の血縁者で素質があっても、夏油傑ではない。むしろ保護すべき存在である。と。

「…お兄ちゃん、わ、わたしも、ころし、に、くる?」
「……多分、それはないと思う。傑は妹の事可愛いって言ってたし、いつか高専にくるかもしれないって言ってたし。傑はお前を殺しには来ないよ」
「お、おかあさ、ん、と、お、おとう、さ…に、会いたい……」
「…もう火葬してあるから骨だぞ」
「お、おがあ、ざ…おどう、ざ…」
「お前はどうしたい」
「……わ、わがん、な…」

俺だってわかんないのに、お前はもっとわからねえよな。と頷く。
悲しいから泣いている。シンプルなそれだろうというは五条にもわかる。突然両親が死んで、いや殺されて犯人が実兄なのだ。高学年とはいえ小学生の子供がすぐに受け入れて今後の身の振り方なんてわかるはずもない。保護者という人間がいてやっとどうにかできている時期なのだ。
今の状況で小学校に行くのは無理だろう。マスコミやら近所の目だけではなく、クラスメイトやそのほかの事がある。
親、親族が死ぬのは珍しい事ではないが、殺されたとなると話は別である。そしてその殺され方がマスコミによって面白おかしく書かれているのだ。生き残った娘、行方不明の息子。恰好の餌食だ。

「悟!お前何してる」
「先生」
「どうした、泣いて。あいつに何かされたのか」
「事実を教えただけですけど」
「お前…まだ子供だぞ、わかっているのか!?」
「子供だからって知らないより知っていた方がいいでしょ。両親と兄貴の事。まして素質があるんだ、上だけじゃない、呪詛師も、傑だって狙ってくるかもしれない。自分の知らない危機は自分を守れない」
「だが!」
「名前、お前には呪術師の素質がある。まだ素質だけだ、このあとどうするかはお前次第。上はお前を殺せと言っている。俺と先生は反対してる」
「………」
「お前は今理不尽な状況で理不尽に殺される決定を待つしかない。俺は呪術師の御三家である五条家当主になる、そっちのおっさんは学長になる予定。その2人がお前の処分に反対をしているってことは、スゲー事なわけ。そんでお前はここまでくると呪術師を目指すか、駄目で補助監督を目指す以外には道はない。特級の血縁者だから禪院か加茂あたりがお前の身受けを申し出るかもしれないが、まあ地獄だろうな。呪術師の家系では男尊女卑が強いから。お前は子供を産むだけの扱いを受けるだろう」
「悟!」
「お前は普通に生まれて普通に生きてきただけで落ち度はない。これも事実。だがしかしお前の人生は兄貴の傑によってその人生とはサヨナラしないといけない。ここで死ぬか、御三家のどこかに行って胎だけを求められるか、呪術師になって自立するか、だ」
「…な、い」
「あ?」
「な、に…いってる、か、わか、んな……わかる、よう、に言ってよお……」

意味わかんないよお…と、今度はわんわん泣き始めた。
これには五条の誤算だろう。相手は小学生、特級の親友の妹ととはいえ一般家庭の子供だ。呪術師の家系でなければ難しい言葉ともまだ縁が遠い。
コツンと五条の頭を小突いた夜蛾はわんわんと泣いている名前の前で目線を合わせて頭を撫でる。

「わからない事ばかりで申し訳ない。君のお兄さんの悩みに気づけなかった私の責任でもある、許してほしい」
「ゆ、ゆるした、ら、おにい、ちゃん…かえって、くるの?」
「………すまない」
「すまな、いって、なに?おとう、ざんと、おがあ、ざん…もう、骨、だから……おにい、ぢゃんも、がえって、ごない、の」
「……」
「わ、たし…しぬ、の?ころさ、れるの?うえの、ひとの、めいれい、で」
「俺と先生が反発してるからすぐにはない。結局はお前がどうしたいか、が一番重要になる。このまま言われるままに死ぬか、俺らと同じ呪術師か補助監督になるか、だ」
「難しくてわか、わかんないって!言ってるの!!じゅじゅつ、し、とか、ほじょ、監督って、なに!!ばか!!」
「はー!?馬鹿ってなんだよ、馬鹿って!こっちが親切に教えてやれば!」
「悟!!相手は小学生だぞ!馬鹿はお前だ、誰もがお前みたいに頭がまわるけじゃないんだ!」

その言葉に五条はぐっと黙るしかない。
似たような言葉をつい最近言われ、どうにも答えることができなかった。
五条にとっては簡単な話だった、今すぐ名前が呪術師になると言えば五条家が手を回して保護という形がとれる。六眼、無下限がある五条悟の発言力は大きいのだ。
ここで禪院やら加茂が名前を欲しがっても近しい五条が最有力。他の相伝持ちより五条の力が強いのだ。

舌打ちをした五条をキッと睨みつけた夜蛾は名前に今名前が置かれている状況、その状況はかなり悪いという事、五条が言うように選択次第では名前は殺されてしまう。
そしてそれを回避するには呪術師、もしくは補助監督という職業につかなければ難しいという事を。
まず、呪術師とは、補助監督とはを説明する。

「わかったか?」
「前、私もその、呪霊を見えてて、お兄ちゃんも、見えってて…でも、お兄ちゃんが、呪霊、使えて、それが、いつもほかの、食べてくれてた」
「悟」
「本当。前傑言ってたから、妹に護衛につけてるのがいるって。今回はなんでいなかったかわからねえけど。俺はどんなの付けてたかまでは知らねえ」
「お兄、ちゃん…みたいなこと、できない」
「あったりまえだろ。呪霊操術がほいほい出てきてたまるか」
「悟!名前の持っているその可愛いぬいぐるみ、それは呪骸と言ってな」
「…かわ、いい?」
「んぐぶ」

ごちん。と五条を殴った音が響く。
これに関しては俺は悪くない!と唸るように抗議したが、またごちんと一発。
どうやら名前のセンスからは五条と同様にそれを「可愛い」という判断はしなかったようだ。
軽く目がイっているぬいぐるみは女児から見ても可愛くないらしい。ここは普通にクマあたりにしておけばまだ救いはあった、と五条は思う。まあ夜蛾の普通はあの不細工なぬいぐるみなのだろうが。
また名前がそのぬいぐるみを抱えなおし、顔を確認して、やはり頭を傾げる。
その動作がまた面白くて吹き出せば、再び鉄槌が落ちた。

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