呪術 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

※スピネル
※高専

私は今、教室の自分に宛がわれた席でこの時期にある悩みに直面している。
朝のホームルームで「名前、お前だけ未提出だから明日には出せよ」と言われたこの紙切れ一枚。
進路調査票。
悩む理由がある。なんとなくスカウトされて、なんとなく呪術師になるのだと思っていた。
しかし私には硝子の様に誰かに反転術式を使えるわけでもなく、五条くんや夏油くんの様に特級で特別でもない。七海くんみたいに術式があるわけでもない。
あるのは結界術が上手いだけ。結界術って術式に当てはまる?なんとか術式、とか、ほにゃらら呪法でもないから違うのかな。あと同級生のおかげで呪具の扱いがそれなり、ということ。
言えば呪術師に向いているわけでもないが、それなりに戦えるだけの技術と知識がある。その程度なのだ。
そして悩んでしまった原因は、補助監督さんの一言だった。
「苗字さん補助監督なんてどう?君結界術得意なんでしょ?帳なんて私達より上手じゃないか。ぴったりだよ」と言われたことにある。
我ながらそんな一言で揺れてしまっているのは笑えるが、でもそれと同時に「確かに、そうかも」と思ってしまったから。
提出用紙を机の上に出して、第一希望の欄にシャーペンでトントンと何度も黒点をつけては消してを繰り返している。

「何してんの名前」
「え、あ…五条くん…」
「進路希望?なに?呪術師じゃねえの?」
「ん……ちょっと、迷ってて」
「迷う?」

私が座っているのに向き合うように自分の椅子を持って来て座る五条くん。
勝手に人のペンケースを漁ってボールペンを取り出し、綺麗な字で第一希望の欄に「呪術高専の教師」と入れてしまう。

「え!?ちょっと!??」
「僕の第一希望」
「……先生、するの?」
「そ。名前も一緒に先生しよーぜ」
「先生は……無理、かな」
「なんでだよ!」
「そういうのは、ちょっとね……二重線で訂正でいいかな。五条くんの字だし、先生わかると思うけど…」
「なんで?」
「え?」
「なんで先生駄目なの」

なんで。と言われても…と言うのが正直な感想。
いえば今までの選択肢に先生という職業は私の中になかったから、だと思う。
五条くんに言われたからといって「いいね!私も先生になる!」と言えるほどもう単純な性格ではなくなった。子供ならまだしも、あと数年で成人になるのだ。
それに夜蛾先生の苦労を見ていると、それが自分にできるとは到底思えない。まあ特級なんていう想定外すぎる人間がまた来るとも思えないけれど。

「夜蛾先生見てて、私にできると思えない。から、かな?」
「できんべ」
「………ちょっと、相談?というか聞いてほしいんだけど、いい?」
「ああ」
「あのね、私補助監督さんに『補助監督にならないか』って言われたの」
「あ?名前が?」
「うん」
「それで迷ってんの?」
「う、うん…ほら、私、結界術が得意でしょ?帳とか補助監督さんより上手って、言われたりして、さ…」
「それで迷ってんの?」
「う、うん……」

五条くんの唇がだんだん尖ってくる。
面白くない。と態度で言っているのが良くわかる。
でもそんな面白くないと言われるような事を言っただろうか。別に七海くんの様に呪術関係者にならない、と言うわけではない。確かにその手もあるが、田舎に帰るという選択は今のところない。

「でも呪具使えるじゃん」
「え、あ…ん、ま、まあ…」
「名前くらいじゃん、結界術使って呪霊捕まえて呪具で叩くの出来るの」
「………う、ん」
「名前みたいな補助監督いねーし」
「補助監督は戦闘行為禁止だよ」
「知ってる。そんな名前が補助監督じゃ宝の持ち腐れだろ、それなら教師がいい」
「先生にはならないってば」
「じゃあ呪術師じゃん」
「…………んー、」
「なに?じゃあ一般就職すんの?七海みたいに」
「そういう、わけじゃ、ない。けど…補助監督さんに言われて、ぐわーってしてるから」
「誰。オマエにそんなこと言ったやつ」
「え?」
「誰だよ」
「えっと…?」
「オマエのせいで名前が悩んでるんだけどって文句言ってやる。言えよ」
「そ、そんなことしなくていいよ!だって、『あ、そんな進路もあるな』って思っただけだから」

ふーん?と面白くなさそうにする五条くん。
別段仲が良いわけでもない同級生の進路にどうして口をだすのだろう。
確かにしっかりとわかる硝子とは違い、曖昧な私の進路が面白半分に気になった、と言うのであれば話は分かる。多分それだ。

「五条くん、先生になるの?」
「あ?」
「先生、教師?なるの?」
「おう」
「へえ…凄いね、先生」
「名前もなろうよ」
「私は無理だよ。そういうの」
「なんで?」
「なんで……好きじゃない?から?かな」
「好きじゃない?」
「誰かに何かを教えるのって、結構大変でしょ?そういうの、あんまり向かないかなって、思って」
「ふうん?」

もう興味がない。のだろうか。私の答えには興味がなさそうに「ふうん」ときた。
何でもできる五条くんにはわからないんだ、なにもない私の苦悩は。でも逆五条くんは出来ない苦悩を知らない、ともいえる。そんな人が教師になれるのだろうか。
いや、教師には資格を取ればなれるが、本当の意味で教師になんてなれるのか。

「でもさ、名前恵に懐かれたじゃん」
「…なつかれて、は…いないと思うよ?」
「名前と手繋ぐじゃん。津美紀も」
「アレは…、五条くん…うん……」
「なんだよ」
「うん…」
「なーんーだーよー!」

バンバンと机をたたく五条くん。そういう所だぞ。
きっと男性から見ても大柄な五条くんは普通サイズの私や子供の2人からは巨人なわけで。そのサイズ比較が分かっていないのだ。
ついでに手を繋いだというが、アレは1人で危ないと思った私が「私迷子になりそうだから手繋いでくれる?」という悪まで“私が迷子になりそうで不安”という体で言ったから。あのくらいのお年頃はそういう言い方がいいのだと、何かで見た気がする。
実際私は迷子になる要素はないし、目立つ五条くんがいるのだから目印には困ることはなかった。あの2人がちょろちょろして迷子、というよりも純朴な子供を狙う卑劣な奴対策なんだけど。

「第一希望は呪術師で、第二に補助監督にしようかな…」
「僕と教師!」
「教師は無理だって。自分の事で精一杯だもん」
「わかってんじゃん」
「…もしかして、ケンカ売ってる?買わないよ?勝てないもん」
「売ってねえよ。名前、オマエ自分の限界が分かってんだろ?じゃあそういうの、わかるだろ。何が出来て何が出来ないか」
「………?」
「人を見れるんだよ、名前は」
「………」
「だから一緒にこのクソみたいな呪術界かえようぜ」
「あ、そういうのはいいです…私、そういうのは、はい…」
「なんでだよ!人が優しく言えば!名前は、僕と一緒に教師になる!!はい決定!!」
「何騒いでる悟…と、名前も」
「私は騒いでいません」
「そうだな。ああ、進路の。書けたか」
「今書きます」

夜蛾先生が見回りに来た。
五条くんが騒ぐこの教室に顔をだして、やっぱり五条くんの名前を呼ぶ。私は大きな弧を出していないので、まあ五条くんの他に誰かいると思っていたとは思うけど。
ゆっくりと近づいてきて進路希望の用紙を覗き込んで、ん?という顔をしてから五条くんの頭に鉄槌が下る。
私の用紙に五条くんの字で『高専の教師』と書いてあったからだろう。自業自得だ。

「いって!!」
「人の用紙に書くな」
「暴力反対!」
「先生、今渡していいですか」
「ああ…………無理に第二まで書かなくていいんだぞ」
「一応です、一応。補助監督さんに言われたんです、補助監督にならないかって」
「……そうか?」
「名前も教師になれよー」
「無理だよ…」
「先生も説得してよ、名前に教師になれって」
「人の進路だ、相談には乗るが口出しはしない。それに今の進路だ。呪術師から一般に行く人間もいる。逆に一般人が窓になったり補助監督になることもある。道は一つじゃないし、先に分かれ道もある」
「………じゃあ、後で教師にするってパターンもありか!」
「ないかな」
「なんだよ!!あれよ!!」

だから私は教師になんて向いてないんだよ。と何度も言うが、五条くんは何度も何度も誘ってくる。
でも1年もしたら誘われることはなくなった。
確かに私も五条くんも、硝子も忙しい。
私は呪術師として、五条くんは先生になるため、硝子は医者の資格を取るために。
でも相変わらず同級生で集まるし、ゲームもするし遊びにも行く。あまり休みが重なる時はないが、夜ごはんと食べるなど、少しの時間だけ。
相変わらず硝子は酒を飲むし五条くんは全くダメ。私はちびっとだけ飲むけど。
中学の時の先生だったかが言っていた、『高校の友達は一生の友達』というワード。
呪術師になって思うのは、そうかもしれない。という事。
呪術師をしていればいつ死ぬかわからないし、一般人と関わることがほぼない。まして私は積極的に関わる性格でもないから。

「うーん、呪術師になるのはしくじったかも」
「あ、じゃあ教師になる?なっちゃう?」
「いや、ならないけど」
「なんだよー!!」

そんなやりとりも定番になってしまった。

/