呪術 | ナノ
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「憂太どんなかんじ?」
「五条くんに聞いてたよりは普通かな」
「普通の子はあんな怨霊つかないでしょ」
「彼自身の話。特級過呪怨霊がついてる彼ではなく、乙骨憂太という人間の話。根暗の前向きって感じかな」

体力をつけるために校庭で走り込みをしている1年生。
普段忙しい担任の五条に代わって副担の苗字名前が授業を受け持つことが多い。
一般家庭出身である乙骨の授業は一般の高校とは違う呪術高専の授業にはついて行くことが難しく、名前がほぼ毎日彼に付きっ切りで補習を行っていた。

「呪術師としては?」
「わからないかな。第一目的は解呪でしょ?呪術師になるために来たわけじゃないでしょ?ここ」
「まーねー。でも憂太はここに僕はいると思うよ、これからも」
「解呪できないってこと?」
「それは憂太次第だけどさ。憂太が呪術師になってくれると嬉しいなー、名前も協力してよ」
「い や 。何になるか、なりたいかは本人の意思が大切でしょ。五条くんが頑張ってアピールしたら?私は先生なので知識しか与えません」
「いけずう」

棘と真希ラストー!!というパンダの大きな声。
乙骨はまだラストの周に入らないらしい。
階段に座って眺めていた名前が立上り、パンダに乙骨はあと何周かを聞けば3周あるらしい。
上着を抜いて、スニーカーの足先をトントンと地面に打ち付け、学生たちがスタートした線に立つ。

「乙骨くん!私今から5周走るから追い越されないように!!」
「へ、へえ!?」
「あ、じゃあ僕買った方にアイスかジュースご褒美してあげるー!」
「ご、ごじょーせんせえ?」
「パンダ、よろしく」
「おっけー!わかった。」

スタート!というパンダの声。
タッタッタと軽やかに名前が乙骨を追う。他の2人に関しては慣れているしもう終わるので付き合いではないが、乙骨に関しては完璧に付き合いだ。
名前も一般家庭の出身で、体格が良いわけでも体力があるわけでもなく、大変苦労した。
家入の様にサポート側ではなかったので、余計に体力のなさが表にでて自主練として体力をつけるためにジョギングは欠かせなかった。
授業としてはおいて行かれ、トレーニングの時にはたまに付き合ってくれた同期もいたが、今はいない。
今でも体力が多い方ではないので、言えば持久戦に持ち込まれればかなりの不利。だからと言って爆発的な能力があるかと言われればノーである。
そんな名前が1級になれたのは、ある意味同期のおかげだろう。

「乙骨くん、お先ー」
「う、ああ…せ、せんせ…」
「おらー!憂太、苗字先生に追いつかれんぞ!!」
「こんぶ!!」
「連帯で憂太が勝たねえと賞品がねーぞー!」
「う、うえええ……」

乙骨を追い越す名前。
顎が上がっている乙骨とは反対に綺麗なフォームのまま、タッタッタと軽やかな足音。
ただでさえ体力がない乙骨にしてみれば今まで走っていなくていきなりの乱入で自分よりも少ない周回。
ひいひい肺と喉が悲鳴をあげながら必死に走り、名前から逃げようと足を動かすが名前は迫ってくる。
同級生が「憂太ー!」「名前迫ってんぞー!」と応援してくれるが、本人からしてみればそれどころではない。

「憂太ラストー!名前は1周半だぞー!」
「ちょうどいい感じかな」
「あ?」
「名前と憂太が一緒くらいかな、ゴール。多分名前が調節して一緒にすると思うけど」
「明太子?」
「名前、憂太のために一緒に走ってるから」
「わかんの?」
「そりゃ同期で付き合い長いしね。僕の時は名前が1人で走ってたよ」
「うっわ」
「なんで誰も一緒に走ってやらねえんだよ」
「だって1人がいいって」
「わかる。俺だったら悟と一緒とか絶対嫌だもんな」
「それは私も」
「しゃけ」
「……あれ?」

ゼエゼエゼエ。
タッタッタ。というふたつの音。
ヘロヘロになってゴールの線を踏む乙骨とさして辛そうでもない名前がゴールの線を踏む。
つらそうでもない、というと少し息が上がってる程度。
「お疲れー」と軽く乙骨の背中を叩き、ひいひい言っている乙骨を見る。

「タイムは?」
「お!前回よりちょっと更新。5秒!!」
「えー!5秒も!?あんなフォームで!?凄いじゃん憂太!!」
「うっわ。うっわ」
「…こんぶ」
「皆、五条先生にそういうの期待したら駄目だから」
「さすが付き合いが長い名前のいう事は違うな」
「これでも丸くなった方だからね…いや、角を隠せるようになった?」
「え、これで…?」
「昔だったらもっとひどい事言ってたよ、無自覚に」

ははははは。と笑う名前に五条もアハハハハハ!と笑う。2人の笑いには違う意味があるが、そこまで学生が気づいているかはわからない。
ふうふうと息を整えている名前とぜーぜーしている乙骨。幼少期に肺が弱いとあったが今ではそこまでは弱くないのだろう。発作も今まで出ていないし具合が悪くなったとも連絡がこない。

「で、賞品はどうなるの?」
「みみっちいこと僕が言うと思う?ジュース?アイス?好きに買っておいでよ」
「運転は五条先生で?」
「は?運転?」
「え、もしかしてお金だけ出して好きにしなってパターン…?」
「はあ!?んだよそれ!!」
「憂太が可哀想だろ!こんなヘロヘロで!!」
「こんぶこんぶ!」
「コンビニまで遠いのに?えー酷ーい」
「伊地知に運転させんの?」
「いやここは五条先生が運転してコンビニまで行くところでしょ」

うんうん。と全員が名前の言葉に頷く。
実際パンダはコンビニに行くという事は出来ないのだが、それでもスマホを使ってどれがいいだのあれがいいだのと楽しめる。
ヘロヘロ状態の乙骨を連れて真希も狗巻もコンビニに行くような気合もない。まず狗巻も真希もコンビニに行くことはできても乙骨が無理だろう。
ではどうするか、車などで連れて行くしかない。

「えー!僕ぅ?」
「私限定のアイスで。よろしくー」
「苗字先生は行かないの?」
「だって私まで行ったら車定員オーバーでしょ」
「バイクで来いよ名前」
「行かねえよ。乙骨くん、放課後は補習だから遅れない様に」
「は、はひぃ…」
「やーね名前ってば!」
「五条先生、乙骨くんが遅れないように、よろしくお願いします」
「鬼!鬼がいるわ、みんな!!」
「いや、憂太呪術師としての基礎ないんだし、悟の代わりに補習毎日してて逆にありがとうとか言えないの?悟」
「苗字先生忙しいじゃん」
「え、僕だって忙しいですけど!?」
「明太子」
「うっそ!棘まで!?憂太ぁー!」

皆僕をいじめるー!と大柄の成人男性が年下の学生に訴えるが、乙骨は疲労困憊でそれどころではなく「へ、はあ…?」とまだぜーぜーしている。
名前が心配になって「お水持ってこようか?」と聞けばそこまではしなくて大丈夫なのか頭を振る。単にまだ体力がないという事なのだろう。そもそも体力がそんなに簡単につくものなら名前も過去に苦労はしていない。こればかりは努力するしかないのが現状だ。

「じゃ、私これから小テストの採点があるので。アイス楽しみにしてまーす」
「えー!名前も行こうよ」
「しつこい男は嫌われんぞ」
「大丈夫、最初から好きでも嫌いでもないから」
「ちょ!?」
「あとはヨロシク」

どこかの誰かさんがするはずの授業の準備しないとだしー?と暑くて脱いだ上着を持って片手をひらひらさせて校舎に戻る名前。
色々押し付けているんだな、という目線を五条に送る学生たち。
まあ当の五条と言えばそんなことは全く気にする様子もなく、「もう名前ってば付き合い悪いじゃん!」とぶりっこしてプン!と怒るマネをする。

「……苗字先生可哀想」
「な。」
「しゃけ」
「え、皆名前の味方なの?うそん」

僕悲しい。とまたぶりっこする五条。
しかし学生からは「はやくコンビニ連れて行けよ。先生にアイス買ってくんぞ」と突かれた。

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