呪術 | ナノ
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「名前さん、今度の金曜お休みだよね?僕知ってるから嘘ついても無駄だからね。その日僕の実家行こうよ、決定ね。迎え行くから起きててね、約束。服装は気にしないで、本当。普段着でいいよ。あ、翌日の土曜もお休み入れたから、僕が」

金曜の朝迎え行くから寝坊しちゃだめだよ。とデスクワークをしていた名前の横に立って、くるっと名前の座る椅子を回して五条は膝をつき、名前と目線を合わせて言いたいことを言って名前のおでこにキスを落としてから「お疲れ様」と立ち去った。

「………え!?な、」
「うわー、すげえ。今のなになになに?」
「わ、わからん…え、なに?なにがおこった?猪野さん、おしえて…」
「俺にわかるのはたった一つ。名前さん、五条さんの実家に招かれたってことっすね」

大変だー。とケタケタ笑う猪野。
彼もまた前世の記憶を保有する仲間である。現在同じ事務所で名前と同じく七海を担当するスタッフ仲間。彼の七海を担当している歴は長く、言えば一番長く担当している先輩ともいえる。名前よりも年上だが、前の記憶もあってお互いつたない敬語で尊敬しあっている関係でもある。

「これ五条さん本気出して来たんじゃないっすか」
「本気?」
「ほら、ファンやら事務所では周知されてる、前世の嫁ですよ。名前さんとの結婚、進めたいんじゃないんすか?ひゅー!」
「付き合ってもいないのに?」
「前も確かそうですよね」
「んぐ……」
「ま、もし本当困ったら相談した方がいいっすよ。俺じゃ無理だけど、家入さんとか庵さんとか。一番は社長ですか?」

確かに。と名前は小さく頷いた。


帰宅し、前世仲の良かった家入と庵と名前のグループチャットに報告までに「今度のお休みになんだか私、五条さんの実家に連れていかれるみたいです。どうしましょう」と入れてみると、数10分後には庵と家入から怒涛のメッセージ。その間にポコっと五条から「なんで歌姫と硝子にいうの!?クレームが凄いんだけど!!」とメッセージが来ていた。
五条からはとりあえず来てほしいだけ。それ以上の事はないから!という言い訳。
家入と庵からは「危険すぎる」という忠告。
名前自身、五条の実家が気にならないわけではない。前世で自分が結婚して子供を産んで、その子孫だというのだから気にならないはずがないくらいには気になっている。
庵には「名前の子供は可愛い」家入は「名前さんの子供だから可愛い」と言っていた。まあ名前の記憶の中の上2人は五条悟の遺伝子が強すぎで笑ってしまったのだが。3人目は記憶にないが2人曰く「上2人と同じ」というのだから、そっくりだったのだろう。日本人らしさは名前の遺伝子では弱すぎたという事だろう。
まあ家が家だし親が親なのでイジメやそういう一般的な悩みは少なそうではある。


「おはよう名前さん。じゃあ車に乗って。え、メイク?いいのいいの、僕がするし服も用意してあるから、ヘアメイクも任せて」
 
朝行くから。と言うのがこんな早朝だとは思っていなかった名前。朝の6時から電話が鳴り響き、ヘロヘロで玄関のドアを開ければ輝く五条悟。
勝手に入ってきて蒸しタオルを作って名前の顔をぬぐい、着の身着のまま。名前のスマホと財布を探し当て、鍵を握って名前を抱き上げるようにして車に乗せて自宅に行き、名前にご飯を食べさせて化粧を施し、着替えさせてあれよあれよと五条の実家に連行となった。頭の回らない朝とはいえ、かなりの強行。
抵抗する暇を与えないあたり計算高い、と言っていいのか。

「おかえりなさいませ」
「父さんと母さんは」
「お待ちです」
「待ってなくていいんだけど。名前さん、リフォームやら改装で前とちょっと違うけど基本同じだから」
「へ…」
「一応僕の両親に挨拶してくれる?親には前世の嫁だとは言ってあるけど、今の関係は言ってない」

え?え?と困惑する名前。
そんな名前を五条は手を引くように屋敷にの中に入って行く。使用人が次々と頭を下げていく様は前世で何度も経験している。
上品な障子戸の前で使用人がすっとそれを開けると五条の両親と思わる夫婦が鎮座していた。

「おかえり」
「ただいま戻りました」

関係は良好、なのだろう。と名前は思った。まあ客の手前、という事もあり得る。
失礼に当たらない程度に名前も習い、「お邪魔いたします」と頭を下げると2人に座るように言われ、五条を見上げるとローテーブルをはさんだ向かい側に二組の座布団があり、そこに座るようにと促された。

「名前さま、おかえりなさいませ」
「……へ?」
「うちの両親ね、名前さんの事知ってんの。ほら、僕前世の記憶があって数代前の当主の生まれ変わりだし?六眼あって無下限あんの。まあこのご時世全然意味ないんだけど。容姿もそっくりそのままだし?記憶あるし?まあ、そういう事」
「一族共々お戻りをお待ちしておりました」
「些細ではございますが、おもてなしをさせていただきたく。お茶とお菓子を」
「……は、はい?」

わーい僕これだーい好き。と出されたお菓子を喜ぶ五条。しかし名前は思考が追い付かず、出されたものをじっと見るしかできない。
そんな名前に気が付いたのか五条は「美味しいよ?あ、こういうの好みじゃなかった?紅茶とか、コーヒーとか、そういうのが好き?」と聞いて来たので驚いて食べ始める。
確かにお上品な味がする。ただ緊張と混乱でこれが本来の味なのかがわからない。
食べ終わる頃になると五条が「庭好きだったでしょ?出ようよ」と名前を立たせて庭に出ることになった。

「これ覚えてる?上の子が植えた木」
「え、こんな大きくなったの?うわあ…」
「あっちの方には二番目の子が選んだ木があったんだけど、虫にやられて枯れちゃった」
「下の子のは?」
「あの子はね、お母さんの好きなお花が良いって木じゃなくて花植えたんだよ。今じゃもうそれしてない。花壇になってたところは僕の父親の家庭菜園になってる」
「…父親、してたんですね」
「してたよ?あ、そうだ。子供の写真あるよ?見よう。後で部屋案内するね。あっちに蔵あったの覚えてる?二番目と一番目がケンカして、二番目があそこに隠れて見つからなくて大騒ぎしたの」
「あったあった。雪が降ってて寒い日で」
「そうそう。あの日僕急な任務で実家着てすぐ出て行ってさー、僕が見つけるまで大変だったんだよね」
「心配で死にそうになった…呼んでも呼んでも出てこなくて、五条家の人に奥様はお部屋でお待ちください、お体に障りますって言われて」
「戻ったら名前さん大泣きして大変だったね。上の子も大泣きして、見つかった下の子冷えて風邪ひいて大変だったなー。名前さんの体調もあんまりよくなかったしね」
「風邪ひいてぐずぐず泣きながら『おかあさーん』って言いながらお父さんと寝てましたね」
「僕が一緒に寝てあげてるのに名前さんがいいなんて。僕だって名前さんと寝たかったっての。子供を爺婆と寝かせてさ、イチャイチャらぶらぶしたかったんだよ」

すうっと名前の腰に五条の手が回る。珍しく名前は拒否しないのは思い出に浸っているせいかもしれない。
五条が「そろそろ写真見る?」と誘うので名前も懐かしく思って頷き、案内されるままに行けばそこは五条が使っていた部屋。
当主は現在の五条の父親なので自分はこの部屋なのだと簡単に説明をした。
老朽化もあり、修繕やら改装やらをして前の家の面影はあるが知らない部分も多く、名前が「少し複雑になりましたね」と言えば笑っていた。

「はい、これ」
「あ、結婚式の。表情硬いですね、やっぱり」
「やっぱり?」
「だって結婚嫌でしたから。また私で遊んでる!って思っていましたし」
「……マジ?」
「マジです。今でも信じられませんよ。でもそれで産んだ子供の子孫が五条さんだとは…」
「ねえ名前さん」
「はい。あ、これ上の子産んだ時の。ボロボロなの恥ずかしい…これ捨ててもらえませんか」
「ダメダメダメ!宝物なの!名前さん関係の写真はこれ全部複製で僕のコレクション!本物はもうないの、データだけ」
「あ!これ子供とお菓子作った時の!どうして五条さん持ってるんですか?任務行ってたはずでは」
「使用人がいたでしょ」
「あ、そっか。3人の写真はないんですか?子供の」
「ないよ?そこは名前さんの写真だけ。子供だけのはない」

…そうですか。とアルバムをめくる。
確かにそこには名前が写っている写真だけ。単品から子供、当時の五条と一緒に写るものだけだった。

「一番下の子の写真は?」
「データはあるけど、印刷はしてない」
「どうして?」
「だって名前さん死んじゃったから」
「……私が、死んだから、ないんですか?」
「うん。名前さんがいなくなったから、それで終わってる」
「データ、見たいです」
「でもその前にいいかな」
「はい?」

名前が見ていたアルバムを閉じて脇に置き、名前の正面に正座する。
思わず名前も習って正座して背筋を伸ばす。
普段事務所や他の現場で見る五条とは少し違う。実家だから、という事でもない様子。

「あのね」
「はい」
「また僕と結婚してください」
「ごめんなさい」
「え」
「ごめんなさい」
「な、なんで!?」
「理由、ないし?」
「理由?僕の事好きじゃないの?!え、嘘!僕名前さんの事大好きで愛してるんだけど!!」
「声が大きいですよ……」
「どうして?僕じゃダメ?GLGだよ?お金もあるよ?かさばる?」
「かさばる?」
「あ、今のナシ。」
「別に私じゃなくていいじゃないですか。きれいな女性俳優さんもモデルさんもいるのに。わざわざこんな地味な人間。もう前と違って私は普通のお家の普通の人間ですよ?好かれる理由がないです。あ、でも過去の子供の写真は見たいので、それだけ見せてもらえれば私は全然」
「良くないからな」
「えー」
「良くない良くない、全然良くない!」

うーん。と名前は悩む。というより、ここには逃げ場がないし味方がいない。
恐らくこの五条家は名前には友好的だ、それは五条悟の生まれ変わりの五条悟がいて、その五条悟の妻だった名前の生まれ変わりだから。
いずれこの家の当主となる五条悟の申し出をここで断ればあきらかに面倒で、そしてその状況を作ってことを有利に運ばせたいのも理解した。

「だって」
「だって?」
「ここじゃ、私不利ですよね?五条さんの実家で、五条さんのお部屋で、私の味方いないですし」
「………わかって、来たでしょ?」
「前から断っていたので、ここで言われるとは思っていませんでした」
「僕の実家まできて!?」
「来たというより、連れてこられたんですけどね」
「結婚を前提にお付き合いは?お試しでもいい。あ!もしかして誰かと付き合ってるの!?誰!?僕の知ってる人?恵?悠仁?七海…もしかして、傑?」
「誰とも付き合ってないです。好きな人もいません。逆になんで私なんですか?前だって、面倒だから名前さんでってノリだったじゃないですか」
「違うが!?」

嘘でしょ。と頭を抱える五条。
完璧結婚も妊娠出産も義務じゃん。と五条は脳内会議で大乱戦だ。
そんなことは露知らず、名前は動かなくなった五条の膝をつつき、「あの、一番下の子のデータ見たら帰りたいんですけど」と言い出した。

「は!?」
「はい?」
「帰るの!?なんで?」
「…車?」
「そういうボケじゃないから今!」
「だって、折角のお休みなので色々と」
「…………………」
「五条さん?」
「あのね、僕ちゃんと名前さんの事大好きで愛してるの。確かにあのノリで結婚させてしまった落ち度はあるけど、本気だから。子供3人もいたんだよ?」
「することしたら、何かない限りできると思うのですが…ほら、女性遊び激しかったし」
「結婚決まってからしてませんよね!?」
「誤魔化しは効きますし?まああの性欲なので外で発散しててあれだと、化け物ですね」
「してません!愛人も不倫もない!!後妻もいません!!」
「化け物なのに?」
「名前さんだけだから!!」
「ふーん」
「ふーんて!?ふーんて何!?」
「ふーんと思ったので」
「お願いします!僕と結婚してください!!」
「ごめんなさい」
「なんで!?」
「これまだ続きます?社長に電話して助けを呼びたいです」

うわああん!と年甲斐もない泣き声が屋敷に響いた。

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