呪術 | ナノ
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「つーこと」
「ええええ……お2人、そろって、ですか?」
「何か問題でも?」
「い、いえ……ただ、通例ですと、コンビの場合方向転換となるとたいていが違う方向なので。例えばAさんはバラエティなのど司会、Bさんは俳優、など」
「他は他だろ」

そうですが…と、伊地知は困ったと言わんばかりで正面に座る2人を見る。
祓ったれ本舗は人気が高いお笑いコンビ。ネタもさることながらルックス、ビジュアルも抜きんでているしモデルだといっても十分すぎるほどのスタイル。
それがそろって「俳優転向したい」と言ったのだ。勿論解散をするわけでない、お笑いをしつつも俳優もする。今の時代珍しい事ではない、むしろ今までだってそのビジュアルでドラマも映画も、子供向けのアニメ映画の悪役の声優だってしていた。
それぞれ定評があり、ウケも悪くない。なのでそういった相談はついに来たか、というかんじではあるが2人そろって同じ俳優というのは伊地知も困惑した。
きっと担当マネージャーという立ち位置は変わらず、ぶっちゃければ2人の責任だけもったまま2人は俳優の方に行くのだろう。
きっとそれは事務所としてはプラス。しかし伊地知は胃が痛いのを抱えたまま、という事になる。

「…私としては応援したいのですが」
「ですが?」
「そうなると私の一存では…それこそ社長を交えての相談となる、かと」
「あ、社長には許可貰ってる」
「へ」
「当たり前だろう?私たち商品なんだから」
「け、決定事項だったんですか?」
「まあな。で、だ伊地知」
「は、はい…」
「君マネージャーとしては結構いい立場だよね?」
「へ?」
「名前さんをさ、マネとして推薦してくれね?」
「名前さんを、ですか?ですが名前さんはマネージャーとしては…業務していませんよ?」
「できないわけじゃなだろ」
「本人の意思があれば、すでにそのようにしていると思いますよ?名前さん真面目で他のマネージャーしている人からの信頼もありますし、伏黒くんを始めとする釘崎さんや虎杖くんにも信頼がありますから」
「姉さんに意思がないって?」
「い、いえ…ただ、ご本人にやる気があるならもうなっていてもおかしくないない、という事です。名前さんとしてはマネージャーではなくスタッフでいたいのでは?」

スタッフ同士仲が良い。特に前世の仲間は関係が固く、また新しいスタッフもそれなりに協力し合い仕事をしている。
時たまスタッフとして入ってあわよくば商品である芸能人と、と思う人間もいるが、言えばこの事務所にいる時とテレビに出ている時のギャップで勝手に「そんな人だとは」という人間やら、やりすぎてクビになった人間もいる。
名前は言えば前世側の人間で、商品である芸能人ともいえば前世同様の距離感で素も知っているので問題はない。言えば立場をわかって仕事をしている模範的な人間だ。
まあ商品たる五条がちょっかいをかけているのはここのところ伊地知を悩ませているが、五条も大人なので酷いちょっかいまでは出していないのが救いだ。

「それを説得しろって言ってんの」
「…はい?」
「姉さんがそういうのするつもりがないのは知っているんだよ私たちは。だから君に相談しているんだろ?」
「…へ?」
「だーかーらー、伊地知マネの中でも結構いい立場だろって言ってんの」
「……い、いやですよ!私、そんな」
「伊地知の推薦なら姉さんやってくれると思うんだよ」
「私は本人の意思を尊重すべきだと……思う、のです、が?」
「それは当たり前じゃん。だから、伊地知、お前が推薦するんだよ。伊地知のいう事なら名前さんも考えてくれるだろ?」
「えええー…私はそう思いませんが…」

実際伊地知のマネージャー業としてのこの事務所での地位は高い。
仕事ができるし気配りができるし、何より一番の手がかかる祓本のマネージャーなのだ。
一時期伊地知がマネージャーを外れ、違う人間が2人のマネージャーをしたら胃潰瘍になったというのは事務所内で有名な話だ。
それだけの人間2人を相手にしている人間、もう尊敬しかない。

「まあ、私も名前さんがマネージャーとして働いてくれたらいいとは思った事はあります」
「だろ!?」
「ですが…」
「が?」
「前にお話ししたことがありまして。お誘いもしたんです、しかし名前さんは『スタッフの方が楽しい』『マネージャーさんのようなことは自分にはできない』とおっしゃっていて」

実際伊地知だけではなく新田も名前をマネージャーに誘ったことがある。
伊地知は新田の様にグイグイとはいけないが、それとなく。
しかし名前にはそういう意思はない、というのが分かった。確かにマネージャーという仕事はスタッフに比べ身体的精神的にも負担が多い。その分やりがいがある、と言えばその通りだが名前のキャパシティ的に難しいのだろう。
真面目な分、大きい負担がより大きく感じやすいと言っていた。

「……マネージャーは難しそうだね」
「この際名前さん本人に相談するか?あしらわれるな」
「私もそうなると思う」
「…………最悪スタッフでも僕の担当になってもらえるように手を回す?」
「私の担当になってもらうからそれは無理だろ」
「今現在俳優部のスタッフの移動は予定にないですよ?」
「今から俺らがそっちに行くんだから変わるだろ。2人増えんだぞ」
「現担当の伏黒くん今売れているんです、そこの人手を割くのは難しいと思いますが…同じ元メンバーのお2人のスタッフも名前さんが欲しいと言っていますよ?」
「この事務所の稼ぎ頭、俺らだよ?」
「………一応、私からの要望としては、提出させていただきます。どこまで効果があるかわかりませんよ?」

売れている、という点では間違いない事実。
伊地知は大きな溜息をついて「要望は、ですからね…」と再度言っておいた。

数日後、マネージャーやスタッフ各位に祓ったれ本舗がしばらくは俳優として活動することが通知された。もちろんそれは事務所内での通知である。公にして転向するのではなく、あくまで本業はお笑いでしばらく俳優として仕事をする、というものだ。
俳優部のマネージャーたちは誰をあの2人に宛がうかを思案し、スタッフの方も誰を宛がうか兼任にするかを思案していた。
マネージャーの伊地知は「本人たちの希望としては夏油名前さんをつけてほしいそうです。あくまで希望です。はい…」と申し訳なさそうにしていて誰もが気の毒に思ったほどだ。

「あの馬鹿2人俳優転向ですって」
「事務所内での、話だけどね。前からドラマとかでたりしてたもんね」
「問題は、名前さんを担当に狙ってるってこと!」
「あ、伊地知さんが言ってた。断ったけど」
「ねー名前さん、私の担当なろ?同性同士仲良くしようよ」
「野薔薇ちゃん…」
「つーか、なんでアイツが名前さん取ってんのよ!私だって」
「事務所案内とかしてもらったし…」
「何年前の話してんのよ。私だって案内したかったし!あ、この前歌姫さんに教えてもらったカフェ行かない?すっごく可愛いんだって。真希さんも誘って行こうよ!」
「いいですね。新作コスメも見に行きましょうよ」
「行く行く!好きなブランド新作出たのよね」
「この前、五条さんのお家行った時ハイブランドのスキンケア借りたらすごかった…やっぱりハイブランド違いますね」
「…は?なに?あの馬鹿の家行ったの?なんで?なんのために?どういういきさつで?」
「あ…いや、ほら、夏油さん、記憶が戻った…時……あの、泣かされて……」
「ほう?それ、伏黒は知ってんの?」
「恵くんは知ってます」
「虎杖は?」
「私は直接言ってません」
「………ほう?」

それで?私にいう事があるな?おん??と名前と先ほどまで和やかに話していたとは思えない釘崎。
事務所にやってきた禪院真希が「どうした」と声をかけるまで名前はその圧に耐え続けた。


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