呪術 | ナノ
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それからは実に滑稽だった。というのだろう。
社長に連絡を入れて名前は夏油の頭を掴めないので五条に掴むように頼み、頭を下げさせた。
格好がつかない、のはそうだが、それ以上に名前が当時からの申し訳なさが露呈したともいえる。
名前本人は前世は夢の続きのようなもの。という感覚ではあるものの、それと今回の夏油傑の記憶が戻ったというのは別らしい。
夢の続きであっても身内のしてしまった大事は大事。肩身の狭い思いをした。しかしそれだけで終わらせてくれ、守ってくれた周りがいたのを名前は覚えていた。

「五条さんに謝って!頭が地下の駐車場に突っ込むまで頭下げて!」
「え、悟にも?」
「沢山迷惑かけたでしょ!!……殺させたでしょ……馬鹿…馬鹿……」
「姉さん」
「姉さんじゃない!!馬鹿!阿呆!夏油さんの方が年上!!」
「僕よか名前さんに謝れよ。傑のせいでチョー苦労してたしな」
「私はいいの!よくないけど!!夜蛾先生とか、沢山迷惑かけたんだから…」
「私間違ったことしたとは思ってないよ」

堪えていた涙があふれて年甲斐もなく「うわー」と声を上げて泣き始めた。
社長室を出てからの廊下。見た目は夏油と五条が泣かせているようにしか見えない。実際は“夏油が”泣かせているのだが。
そんな名前をひょいと抱き上げて、「傑ったら酷いねーサイテーだねー」と歩き出す。文句と名前奪還のために追いかけるが逃げる五条はなかなか早い。
ぐずぐずと泣いている名前をあやしつつ逃げる芸当ができるのはさすがとしか言いようがないが、夏油からすれば面白くはない。むしろ不愉快である。

「悟!姉さんを返しな」
「…名前さんがネーサンじゃねえってよ。こんな馬鹿な弟知らなーいってさ」
「君に馬鹿って言われる理由ないんだけど!?」
「あるだろ、ありすぎ、ありまくり。俺もちょー大変だったし?家に記録あると思うけど見る?」
「見なくて結構!」
「あ、新田!」
「は、はい!?」
「名前さん早退するから」
「へ!?」
「傑がいじめるから泣いちゃった。」
「い、いいでずうう…そう、だい…じな、」
「あああ名前さん、もう帰ったほうがいいっすよ…」
「うあ”あ”あ”あ”に、にった、さ」
「伏黒くんにも言っておきますから。五条さん達はお仕事は」
「ないよ」
「悟!」
「うう”う”う”……」
「はいはい、傑嫌だねー。嫌になっちゃうねー、名前さんのロッカー行ってバッグ持ったから帰ろうね」

よしよし。とまるで幼子をあやす様だ。
名前のバッグを受け取り、先ほどまで自分たちがいた部屋に戻ってさっさと戻って自分の手荷物を持って五条はそのまま駐車場に向かうためにエレベーターの前に立つ。
勿論夏油も怒りながらついてきているが、えぐえぐ泣いている名前をあやしている五条には関係のない事だ。

「オイ悟!」
「あ、傑。クッキー返せよ、あれ僕の」
「嫌だね。姉さんの手作りクッキーを悟に渡す理由はない」
「ね、ねえさ、じゃ…ない、……う、うう、うええ」
「名前さん、##name_1##さんが僕にくれたクッキーとられちゃった。また作って?」
「…う、…うう、」
「エレベーター来たから乗ろうね。あ、七海」
「え、あ?何して…」
「名前さん傑にいじめられて泣いちゃったの。仕事出来る様子じゃないから帰らせる、じゃ、お疲れ」
「は?」
「じゃあね七海」
「夏油さん?」

五条に抱えられしゃくりあげるようにして泣いている名前。状況が把握できないが、七海からすれば「あの夏油さんが名前さんを?」という状態である。
まだ七海は知らないのだ、夏油の記憶が戻ったのを。それを知っていれば察することもできるだろうが、連絡がまだ行っていない。
ただ名前が五条に抱えられて抵抗していない、という事実だを受け入れるならば、それが事実なのだろう。
混乱する七海を残し、エレベーターは地下駐車場まで降りていく。

「悟!」
「うっさいな、名前さん泣かせた本人だろ、お前」
「間違っていたとは思っていないんでね。というか君、姉さんと結婚して子供3人も産ませたの?」
「そーだよ。その子孫が僕」
「そうなの!?」
「あーあー、名前さん顔ぐずぐずじゃん」
「き、きいでないよお」
「言ってなかった?ほら、駐車場着いたから車乗ろうね」
「君姉さんの家知ってるの?」
「知ってるけど、今日は僕ん家泊まらせる」
「はあ!?君ね、わかってるの!?」
「お前この状態の人間普通に帰るのが無理だろ?前世の夫婦なんで」
「認めないからな」
「お前死んでたしな」
「うああああ」
「姉さん…」
「はい、頭ぶつけないでねっと。じゃあな傑」
「じゃあなじゃないよ。私も悟の家行くから」
「お義兄さんって呼ぶならいいよ」
「呼ばないよ」

助手席に名前を乗せて、夏油は勝手に後部座席に乗り込む。
夏油に対して五条が「マジで?」と言うがフン。という態度でシートベルトを締める。
こういった強引なものは無視するに限ると五条は無視することに決めた。
この時代になると芸能人を追いかける記者はかなり少ない。理由としては一昔前に色々と問題になり、記者の立ち位置が危うくなったのだ。
お陰で芸能人はよっぽどのスキャンダルでなければ追いかけられなくなった。当時の事は夏油や五条が芸能界に入る前の話で、今となっては昔の話だ。しかしその恩恵は大きい。
車を運転して自宅マンションの駐車場に入り、夏油が名前を抱えようとするも名前の抵抗にあう。

「傑は荷物持って。名前さん、行くよ」
「…ん。」
「〜〜〜っ」
「睨むなら帰れよ」
「嫌だね」
「……降りる」
「歩ける?」
「歩ける」
「逃げない?」
「大男2人を撒ける脚は持ってない」

名前の手を取ろうとすると名前は拒否するので五条は「こっちだよ」と先を歩く。
五条、名前、夏油。祓本の2人が大きすぎるが故に名前が小さく見える。
エレベーターで五条の部屋がある階まで行き、ぞろぞろと部屋に入っていく。

「あ」
「どうしたの?」
「歌姫さん。着信がたくさんある……社長が連絡したのかも」
「歌姫え?呼ぶ?」
「今日確かCMの撮影が入ってるから……あ、恵くんも来てる」
「伏黒くんは姉さんが早退だって聞いて心配したんだろうね」
「姉さんじゃないです」
「はいはい、名前さん顔洗っておいで。洗面所にメイク落としと洗顔あるし、化粧水と乳液その他あるから好きに使って。今着替え出すけど着替える?」
「悟の服着せるなんて反対なんだけど」
「残念、名前さんのために用意してある服ですー。名前さんくらいの年代に人気の部屋着ですー」
「むしろなんでそんなのあるんだよ…」
「名前さんがいつでも来てもいいように」
「元カノのじゃないだろうね」
「元カノなんざいねえよ」
「着替えないです。落ち着いたら帰ります」

帰るの?帰ります。
やだ。やじゃない。
とやり取りをして五条は洗面所へ名前を案内する。

「これメイク落とし、洗顔、化粧水と乳液。僕が使ってるやつだけど、ないよりマシでしょ」
「ハイブランド…」
「あ、今度プレゼントしよう?コスメのタッチアップもしてもらお?デートしよデート」
「しません」
「姉さんはここのより女性特化のとこが良いと思うよ」
「傑は入ってくんなよ。夫婦の会話」
「結婚してない。タオルは?」
「はい。じゃあ、お付き合いしょ?いいでしょー?ね?ね??」
「こんな男と結婚もお付き合いも許可しないよ」
「おめーは他人だろ。あるとしたら俺の相方!」
「悟が前世の嫁だっていうなら私前世の姉弟だから。知ってるかい?血は水よりも濃いんだよ」
「名前さん以外殺しておいてよく言うわ」

祓本の相手をするが面倒になった名前はメイク落としを使って内心「おお」と驚き、次に洗顔を使って「おおお」となり、化粧水乳液と使わせていただいて「さすがハイブランド…」と使い心地の良さを堪能させてもらった。勿論借りたタオルの触り心地、使い心地、香りに至るまで最高品質だというのが分かる。
普段ドラッグストアで買ってきてバシャバシャ使う低価格帯とは全く違う。

「お茶飲む?お菓子もあるよ?」
「歌姫さんと恵くんに連絡入れます」
「えー…まあ、仕方ない。リビング行こうか。紅茶がいい?」
「私コーヒー」
「勝手に飲めよ、場所知ってんだろお前」
「……五条さんの家にいるって言ってもいいですか?」
「僕はいいけど、歌姫と恵怒り狂うと思うよ?」
「聞かれたら、でいいんじゃない?」
「高確率で聞かれると思ったので」

タタタと軽やかな指の動き。
スッと耳に当てて名前の口が「あ」という声を出す前に『名前!?』とスピーカーにしていないのに部屋に響いた。
その姿に五条は笑いながら名前に茶を淹れ始め、夏油は自分でドリップのコーヒーの小袋を開けて飲む準備を始めていた。

「うるさいねえ」
「歌姫は名前さんの事今も超可愛がってるからね」

『具合悪いの?大丈夫?今家にいるの?差し入れは必要?』
「…、大丈夫です。社長から、聞きましたか」

「あ、これお前に矛先くるやつじゃね?」
「私?ああ、前世の?庵が怒ったくらい何も怖くないし」

『ええ、聞いたわ。………、もしかして、それ関係で早退したの?』
「あの、」
「そーなの。傑が反省してないから名前さん大号泣してさ、今落ち着いたけど」
『ごっ!?』

名前のスマホを取ってスピーカーにして、横入りをする。
庵の反応は想定済みだし、入れたお茶を名前に渡し、名前のスマホを持ってソファまで移動して会話を続けることにした。

『今どこにいるの。まさか名前の部屋じゃないでしょうね!』
「まっさかー。さすがに女の子の部屋に図々しく行くような男じゃないよ」
『そ、そう?』
「俺の部屋」
『よしわかった、今からぶっ殺しに行くわ待ってなさい』
「ついでに傑もいる。ついてきちゃった」
『はあ!?ちょ、なんで居るのよ!』
「つーか、歌姫は社長に聞いて名前さんに電話かけてきたわけ?」
『え、まあ、そうだけど?』
「今お菓子出すから座ってて」
『自由かっ!?名前、そこにいるのね?気分はどう?落ち着いた?』
「はい、なんとか。もう少ししたら帰ろうと思います。恵くんも心配して電話くれたみたいなので、このあと連絡する予定です」
「姉さん、あんな男の息子に連絡なんてやめて。というか、担当変更しよう、それがいい」
『お前夏油だな!!』

はい名前さん。とソファに座る名前に可愛らしい洋菓子を持ってきた五条。
メディアでも公言するくらいのスイーツ好きは前世からの延長らしい。もっとも今の時代に六眼も無下限も、反転術式も関係がないので本当に好きなのだろう。
名前が小さく「いただきます」と言って食べるのをニコニコして眺めている。
名前のスマホを使って庵と夏油が嫌味合戦になっているのを無視して。

『ええい埒が明かねえ!今から五条の部屋行くからな硝子と!!』
「私帰るのに来るんですか?え、じゃあ帰るの止める…」
「マジで!?じゃあ歌姫来ていいよ!可愛いルームウエアあるからソレ着よ?」
「それは嫌です」
「なんで!?」
「そうだよ、姉さんは可愛い系よりも綺麗系が良いと思うんだ。大体悟は可愛がるだけで」
「歌姫さん、硝子さんと早く来てください。そして殴ってください」

まっかしときなさい!!という元気のいい庵の声に名前はニコニコと笑い、当の夏油は何も怖くないけど名前が笑っていてうれしいという顔。
家主である五条は「歌姫が暴れるのかー」とこれから起こるであろう一波乱を思った。

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