呪術 | ナノ
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コンコンとドアをノックする音。
五条が夏油を見れば顔にタオルを乗せて居眠りを決め込んでいる。
面倒ではあるが五条が「どーぞー」と言えば遠慮がちに名前がのぞき込んできた。

「名前さんじゃん、どったの」
「伊地知さんから五条さんがいるって聞いたので…あ、夏油さん寝てるんですね」
「僕に用事?」
「はい、先日伏黒くんのラジオのお礼に。言われていたクッキー…持ってきたんですが…」
「まっじで!?」

んん。とうるさいぞとアピールする顔にタオルをかけて椅子にもたれている夏油を無視して名前が手に持つ小さな紙袋を「これ?これ?」とまるで大型犬の様にまとわりつく。
普段職場である芸能事務所でこういった感じの袋を持ち歩くことはない。

「一応、キットの物を使ったので、変なものは入っていないはずです……」
「嬉しい!」
「味も、多分大丈夫だと、思います…が、1人で食べてくださいね」
「あったりまえじゃん!誰にもあげない!」
「静かにしてください。夏油さんが食べて祓本さん2人仕事ができないってなると、大変なので…」
「………、名前さん、そこまで料理下手じゃなかったよね?それとも今回芸術的に下手なの?」
「味オンチとか、そういうのはないですけど……一応お2人は商品なので、万が一、いいますか…」

商品、確かに間違いではないのが悔しいが仕方がない。
なんだか申し訳なさそうに渡された紙袋を受け取り、高々と掲げる。
伏黒や夏油に「貰えるとは思えませんが希望を持つのは自由だ」と鼻で笑われていた物がここに。ある!!とニコニコする五条。
しかしそれとは反対に気分が沈んだ様子の名前。

「どうしたの?」
「いえ……おなか、壊したらどうしようって、思って」
「変なもの食べたの?」
「そうじゃ、なくて…それです」
「……これ?味見したでしょ?」
「勿論しました」
「お腹は?」
「…なにも、ないです」
「じゃあ大丈夫、僕今も最強だし」
「お酒は飲めないけど?ですか」
「…それは言わないの。今食べていい?」
「この後、」
「仕事ないよー」

可愛いラッピングにクッキーが入っている。
これ別で買ったの?と五条が聞けば名前は小さく頷く。
そこまでセットではなかったので。と言う。
じゃあわざわざ買ったんだ!とまた上機嫌になる五条。セットでもそうでなくても、名前がわざわざしてくれたことが嬉しい。こんな嬉しいことがあるだろうか、いや、ない!と言ってしまいそうになるのを頑張って飲み込み、封を開ける。
前に「包み紙とか捨てられない」とかいう人間は理解できなかったが、今ならわかる。と内心で「僕もその仲間に入りそう」と思う。

「名前さんの、クッキー」
「や、やめてください。私戻りますね」
「待って、まだ時間あるでしょ?お茶しよ?」
「隙間見て来たんです、ありませんよ。夏油さん寝ているので、静かにしましょう?」
「えー。んー、わかった。後で感想送るね?」
「結構です…」
「え、なんで?手料理だよ?感想欲しくないの?」
「は、恥ずかしいので、結構です」
「恥ずかしいの?」

こくんと頷いて「失礼しました」と部屋から出て行った名前。
恥ずかしい?前世では料理はあまりしなかったがそれを恥ずかしいとは言っていなかった。何より「任務が忙しくてそれどころじゃなかったし、お手伝いさんがいるんだし甘えないと」という性格だった。だからと言って何もしなかったわけでもない。言えば上の子と一緒にホットケーキを焼いたり、それこそクッキーだって焼いたこともあったはず。
ラッピングからクッキーを取り出し、一枚口に放り入れる。
バターの香りとバニラの香りが広がり、手作りとしても十分なレベルだし、五条にとっては嬉しく美味しい一品だ。

「…っ、んが!!あ、…、さ、とる」
「ん?起きたかよ」
「…それ」
「ふっふーん!お前らが散々俺に対して意地悪を言っていた、あの!名前さん手作りの!クッキーだよ!!」
「………うそ」
「ホントだよ。うま」
「姉さん、姉さんは?」
「あ?姉さんて、前に名前さんを」
「そうだよ!どこ?俳優の部署に戻ったの?」
「多分な」

顔に掛けていたタオルを勢いよく取り、悪夢でも見ていたのかという形相で、半分睨むように五条を見る夏油。
いえば人相が悪いとか睨むとか、そういう事を夏油からされることに慣れている五条。言えばいつもの事なので気にもしていないが、いきなり名前をまた「姉さん」と呼ぶのには違和感を覚える。

「それ寄越しな」
「あ?嫌だよ。つーかお前甘いの嫌いじゃん」
「うるさい」
「あ?寝惚けてんの?」
「………」
「あ!、おま、」

手首に引っかかっていた紙袋を強奪し、ドアを大きな音を立てて開けて、破裂音の様に閉めて、大きな足音を立ててどこかに向かい始めた夏油。
呆気にとられた五条ではあったが、持っていたクッキーを口の中に投げ入れ(本当は味わいたいが残りを奪われてしまった)、急に起きた夏油の後を追う。
廊下に飛び出るとスタッフたちが目を大きくして、次に出てきた五条を見る。
「傑知らない?」と言えば黙って夏油の向かった先を指で指し示し、五条は「さんきゅ」と礼を言ってその後に続く。
名前はファンではないし、夏油だって可愛がっている。
ついでに五条は名前を前世の嫁だと言っていたし、名前も否定していない。
名前が変なものを入れるなんてことはないし、入れて名前に得はないだろう。むしろ名前にとってマイナスになる、何故なら五条が「責任取って!」と言いかねないからだ。

「きゃっ!?え、げと、う、さ……危ないですよ」
「名前さん?」
「ごじょう、さん…え、なに?え?え?な?セクハラ?」

夏油の手には似合わない紙袋。そしてそれを持ちつつ抱きしめているのは名前。
手に持っていたそこの自販機で買った紙コップに入ったドリンクがこぼれない様に必死になっていて、またどうして抱き着かれているのかもわからず混乱しているのが分かる。

「夏油、さん?」
「…姉さん」
「…?ご、五条さん、助けてください。夏油さんどうしたんですか?」
「わっかんない。おい傑、名前さんから離れろよ。僕もしたいの我慢してんの!」
「悟と結婚させて、ごめんね……」
「「………」」
「あと悟ばかり狡いよ、私のクッキー欲しい」
「傑、お前………」
「五条さん、すぐ社長に連絡してください。私歌姫さんと硝子さんに連絡します」
「え?」
「夏油傑の記憶が戻りました。土下座させます、頭下げさせます。あと虎杖くんと恵くんと野薔薇ちゃんにも連絡しないとだし…」
「姉さん…」
「傑、わかってるよね?」

五条さん、ちょっとこれ持って。と五条に名前がドリンクを渡し、名前は夏油に抱きつくふりをして夏油の股間を蹴り上げた。

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