呪術 | ナノ
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「名前、五条とはどうなわけ?」
「どう、とは?」
「なんかラジオで喚いてたらしいじゃない」
「あー…」

名前、ランチ行きましょう。ご馳走してあげる。とにこりと笑った庵に名前は頷き、庵が最近お気に入りのカフェに入って注文したものが来るのを待っている時に庵が聞いて来た。
どうやら庵の耳にも入っているらしい。
名前は大きな溜息を洩らし、椅子の背もたれに体重を少し寄せる。

「…記憶には、あるんですけど、何て言うのか…、夢の、続き?というんですか?そんな感じで」
「ふーん?がっつり、ってわけじゃないのね。でもそれでちょっと納得したわ」
「納得?」
「そう。名前、ちょっと距離感が掴めない感じがしてたのよね。そういう事か」
「………」
「あ、悪いとかそういうんじゃないからね?私もちゃんと名前は名前だって思っているから安心して。人によってガッツリて言うのもいるけど夏油みたく全くない人間もいるからね。どちらかと言えば名前は夏油寄りなのよ」
「同じ、夏油だから、ですか?」
「違う違う。なんていうのかな…確かに名前が前の名前であるのはわかるし、名前にも自覚があるんだけど、薄いっていうのかな」
「薄い…?」
「半分寝てるって言うか、そんな。勿論名前はちゃんと起きてるのはわかるわよ?でも“前の名前”がね。本当は思い出すはずがないものを持っているだけで、言えば前と同じで私たちは大多数には入れなかった存在だしね。きっと今の夏油の方が普通なのよね」

お待たせしました。と運ばれてきたランチ。
この話は一旦お終いにしましょう。と庵が言うのでそれに従い名前も手を合わせていただくことにした。
庵のお気に入りだというカフェのランチはとても美味しく、今度はあそこのカフェにいきましょうかと次の約束をした。仲のいい家入はこういうカフェよりも居酒屋の方が好きなのでランチに誘いづらいのだとか。
確かに前も今も酒が大好きで、ランチに誘われた事はあまりないが居酒屋の誘いは多い。
あと誰それに貰った大吟醸だのワインだのと宅飲みに誘われて家入、庵、名前と飲んで基本的に悪酔いをした庵を2人で眺めて名前がお菓子を食べて家入が酒をあおっている。

「でも、本当なら覚えていないほうが良いのよ。だって縛られてるってことでしょ?あ、でも覚えてなかったら硝子も名前にも会ってもこうやってご飯も酒も楽しめないのよね」
「それは言えていますね」
「名前が五条と結婚って聞いた時私ビックリしてさ、きっとこれは嫌がらせだわ!って思ったのよ。ふたを開ければ五条案外溺愛してたのよね…」
「そうなんですか?」
「そうよ。まあ名前は知らないでしょうね、多分本人も無自覚だったもの。名前が死んだ後はどうなることかと思ったわ。それでも子供3人ちゃんと育てたもの、アレ」

五条の血が入っているのは気に食わなかったけど、名前の子供と思うと愛しいわ。と冗談ぽく笑う庵。
名前自身、その手の話は聞いても自覚がない。産んだ、という自覚はあるが感覚がない、と言うのだろうか。言えば前世の話なのだから当然といえば当然である。
3人目の子を産んだ、らしい。ふうん?そう。という感覚だ。五条にどんなに熱心に子供の話をされてもきっとそんな反応をしてしまうだろう。今の自分ではないからだ。



「名前さん!!」
「はい?どうしました五条さん」
「特番忍者の収録行く?応援団」
「ええ、恵くんが参加するので事務所応援団として参加します。毎回祓本のお2人も出ていますよね」

“忍者”と言うのは肉体派のための番組。色々な障害を体一つで乗り越えてゴールを目指す番組だ。年々セットも豪華になり、前はシーズン毎にやっていた特番だが最近では年1のペースになっている。それでも人気のアイドルや俳優、芸人、一般人に至るまで様々な参加者がいて大いに盛り上がる。

「え、恵出んの?」
「番宣で。でも本人も前々から参加したかったみたいですよ」
「…………そ」
「はい。ジムにも通っているので、やる気は十分です」
「…事務所応援だから、僕も応援してくれる?」
「はい、仕事なので」
「個人的には?応援してくれないの?名前さんが応援してくれたら僕最終ステージまで全力だすよ?数字とれるよ?恵の番宣もする」
「全部全力でお願いします。あとそれっていいんですか?するなら数日後にある自分の番組の宣伝した方がいいのでは…」
「同じ事務所だし良いじゃん」
「良いのかなあ…」

良いの!と年甲斐もなく名前に我儘を言うのはもうこの事務所では見慣れたものだった。前世の関わりある者が多い事務所だが、当然としてない人間もいる。
その人間たちはその姿に冷や冷やしていたが今となっては「五条さんに困ったら夏油さんに相談しな。あ、夏油名前さんの方ね」と言われているくらいだ。事情を知らない人間からすれば「名前さんて…何者?」と言われるが、大半に誤魔化さている。

「お願い!」
「あれ?また悟名前ちゃんに無理強いしてんの?いい加減やめな」
「夏油さん、お疲れ様です」
「もう兄さんって呼んでくれないの?寂しいな」
「変に噂になるんです、この前なんて名前さんて夏油傑さんの妹さんなんですかって。愛称なんです、って言っても本気で兄妹だと思われて困っているんです」
「そうなの?じゃあ駄目だね。そうだったんだ、ごめんね」
「わかってもらえれば」
「で、悟はなに我儘言ってたの」
「忍者の応援で個人的に応援してほしいと」
「ああ、じゃあ私も個人的に応援してよ」
「内心でいいですか?頑張れーって」
「私はそれでいいけど、悟は嫌みたいだね」

あっはは。と笑う夏油がくいっと顎で五条をさせば、ムスっとしている五条の顔。
夏油は名前と五条が前世で結婚していたことを一応知っている。一応と言うのは五条が言うし名前も認めているからで、夏油自身前世というものには無関心である。
五条が名前を構うのでそれに便乗して構って、五条が不機嫌になる。それがここ最近のパターンになっており、夏油は遊んでいるのだ。

「傑はいいんだよ。名前さん、ね?お願い。お願いお願いお願い」
「あ、名前ちゃんこれ好きでしょ?あげる、もらいものだけど」
「ありがとうございます」
「傑!!」
「なに?」
「今俺が名前さんと話してんの!邪魔すんなよ」
「このクッキー好きなんです、ありがとうございます」
「名前さん!」
「はい?」
「応援して!最終ステージまで行って最終ステージもクリアする!!」
「……じゃあ、私もお願いいですか?」
「なになに?」
「私恵くんの担当なので、恵くんを最終ステージまで行けるように鍛えてもらえますか?」
「へ?」
「考えたね名前ちゃん。確かに名前ちゃんは伏黒くんの担当だし、彼が終われば担当としては戻らないとだ。悟頑張りな、私は個人で頑張るから」
「そういう事です」
「僕そういうの得意じゃないんだけど」
「先生してたでしょ?できるできる、五条先生」
「………それ、また言って」
「出来る出来る」
「傑じゃない」
「できるできる」
「五条先生ってとこ!」

貰ったクッキーをポケットに入れて、名前は五条の手を持って「頑張れ、五条先生」と言えば五条は叫んだ。

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