呪術 | ナノ
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「おっはよ名前さん」
「おはようございます虎杖くん」
「昨日の祓本のラジオ凄かったね」
「…?」
「前世の嫁に告ったけど振られた。でも俺諦めない!アピールの猛アタックする!!って……五条さん振ったの?名前さん」

事務所につながるエレベーターに乗り込もうとしたときに後ろから虎杖悠仁に声を掛けられ、一緒に乗り込んで言われた言葉に名前は絶句した。
なんという宣戦布告、公開処刑。全身から熱が逃げるような感覚に名前は顔色を悪くし、呆気にとられる名前を見て虎杖は目を丸くした。
何がそんなに彼女を驚かせたのか、と。
この事務所で、というより祓本のファンやトークの面白さでラジオが大人気なのは知っているし、何より五条悟という人間がちょくちょく言う前世の嫁は半分ファン公認になっている。リアコやSNSで自分がそうだ、とかなり切って楽しんでいる人間もいるがそこは五条はスルーしている。時たま夏油がそれを面白おかしくラジオで取り上げて五条がブーブー文句を言うのだ。

「ど、どったの?」
「そ、それ…ラジオで、言ったの?」

ピンポーン。と指定した階に到達したとエレベーターが告げる。
名前はエレベーターの「開」を押したまま虎杖を降ろして自分も降りる。
すんなりとスタッフの行動をしているが、心中それどこどろではない。
どういうことなんだ!と叫びたい衝動を我慢し、虎杖が戸惑っている中、黙って虎杖も言葉を待つ。それしかできないと言わんばかりに。

「えっと…五条さん、ラジオで名前さんのこと探してるって言ってて、それでほら、名前さん大学生の時見つかったっしょ?」
「う、うん…」
「んで、ラジオで嫁が見つかったー!って五条さん喜んで報告して、まあ色々あって社長に名前さん連れて来いって言われて伏黒が迎えにいったじゃん?」
「……ん」
「で、それからもラジオで嫁が嫁がって言っててさ。あ、そういや名前さん五条さんの代打でラジオもしてたね」
「……」
「…………で、前々回あたり?に夏油さんが『コイツ告白もまだのくせに嫁って言ってるんだーっ』て言って、さ」
「う、ん」
「で、告白して、振られたー…って」

嘘でしょ。と言わんばかりの名前の顔に態度。言葉通りに名前は頭を抱えた。
前世は前世で五条には頭を抱えたが、まさかここで違う意味で抱えることになるとは思っていなかった。
そんな名前の姿を見て虎杖はオロオロとして、「具合悪いん?大丈夫?」と聞いてくるが具合が悪いとかそういう事ではない。
確かに五条が「ラジオ聞いてくれた?」「ラジオ聞いた?」「ラジオ聞いて!お願い!」と言っていたが、そういう事かと呆れ半分合点がいった。

「あの馬鹿……」
「名前さん?」
「ああ、ごめんなさい。あとでこの件はしっかりお話させてもらいます。まったく…」
「ま、まあ五条さん、五条先生の時から名前さんの事めっちゃ好きだったからね」
「…公共の電波乗せる事ないと思うの」
「名前さん死んでから先生めっちゃ凹んでたし…あ、でも一応ちゃんと父親してたよ?」
「そんなこと言われたって…死のうと思って死んだんじゃないもん…」
「あ…うん、まあ…そうなんだけどさ………」

それは記憶がある人間ならわかっている。
名前は出産する事に弱ってしまった。しかしその代わり、というのだろうか。立派な術式を持った子供を産んでいた。
それはそれは五条家では喜ばれていたし、そんな術式を持った子を産んだ名前はそれそこそ悟の母と同じほどに称えられた。それが3人となれば五条家での地位は揺るがない、はずだった。

「…後で五条さんとお話ししないと」
「あ、あー…そ、ソウネ。」
「まったく…これから他の打合せがあるっているのに最悪」
「伏黒のドラマの番宣だよね」
「他にも雑誌の取材に女性誌の特集、祓本のラジオにゲストとして出演するっていうのもあるのにー」
「…………ご、ごめんな?知らないとは思って、なくて」
「いいえ、虎杖さんは悪くないです。」

では。と切り替えて名前はキリッとしたつもりで虎杖を見る。
ここは職場、五条の告白はプライベートな事。割り切らなければやっていられない。

「あ、虎杖さんはこの後確か収録がありますよね、気を付けて」
「う、うん…名前さんは伏黒担当になったもんな。今度俺の担当もしてよ」
「担当変更があれば、その時はよろしくお願いいたします」
「釘崎も名前さん取られて機嫌悪かったんよ」
「恵くんと口論してましたね」
「伏黒、五条さんにも文句言われたたんだよ、此処だけの話」
「………ほう?」

名前の表情が冷たくなるのを感じた虎杖は心の中で「ごめん五条さん…」と謝る。
名前は実際のところ、前世の貯金というのだろうか。人脈ともいえる関わりで慕われているのも事実だ。前世の後輩にあたる人間も、先輩であった人間にも可愛がられている。特に伏黒に至っては懐いていた分仲が良い。勿論同性の庵や家入を始めとしたかかわりのあった人間も同じだ。ただ大人である分大人な可愛がり方をしている。

「あ、俺から聞いたって言わないで、ね?」
「わかりました。でも文句は言わせてもらいます」
「でもでもでも、ちゃんと大人…?いや、うーん。平和的だったから」
「どうせ恵くんに変な言いがかりつけて未練たらしく文句言って、恵くんはスルーしてたんでしょう?」
「お、おう…」
「どっちが年上なんだか。子供以下の事して何が良いんでしょうね」
「ここじゃ名前さんが一番年下なのにね」
「本当です。恥ずかしくなんですかね」
「五条さん、恥ずかしいよりも名前さんが好きなんだと思うよ?スタッフの部署移動で名前さんが自分のとこ来ないかってずーっとそわそわしてたし」
「落ち着きがないんですね」
「…五条さんの事、嫌いなん?」
「嫌いではない、ですけど…そうですね、どうしたらいいのか分からないのが本音です」
「お!」
「ところで虎杖さん」
「ん?」
「新田さんがあちらでそわそわこちらを伺っているのですが」
「あ!ごめ、じゃあね名前さん」
「お気をつけて」

こちらを伺っていたマネージャーの新田。
虎杖と話している名前に気を使ったのか、虎杖の方に気を使ったのか。それはわからないがそわそわしているのが名前にははっきりと感じ取れたので虎杖に言えば、ハッとして名前の視線を追って新田を見つけて小走りに急いだ。
その姿を見送り、名前は今度こそ自分の仕事に向かう。
ついでに後で五条に文句の一つでも言わないとスッキリしないなと思ったので文句を言わねばと心に誓って。

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