呪術 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

「…名前さんて、今付き合ってる人いる?」
「………どうして?」
「気になって」

事務所の自販機コーナーでカフェオレをベンチに座って飲んでいる名前を見つけた五条は「お疲れー」と声をかけて同じカフェオレを買って隣に座る。
「最近どう?」「恵くんのお仕事が順調で嬉しいです」「名前さんは?」「私?色々助けてもらってなんとかやってます」と笑っていた時に切り出した。

「そういう五条さんはどうなんですか」
「フリー。ね、敬語も五条さんっていうのも嫌だな、前みたいにお話しよ?」
「五条さん年上だし、今はお仕事中なので」
「じゃあ、オフの日に会ったら前と同じにしてくれる?」
「オフの日に会う事なんてないと思いますよ」
「じゃあ、会って。僕と会ってよ名前さん」

少し驚いた顔をしてから頭を傾げる名前。
まるで「どうして?」と言わんばかりの顔だ。
今の五条悟と夏油名前の関係は同じ職場に所属している、というだけ。
前世の関係など今生では関係がない、とでも言いたいのかもしれない。確かに就職では楽ができたが、前世では大変な苦労があったからと現社長が色々と良くしてくれている。

「五条さん、芸能人の自覚ありますか?私は同じ職場の言えば商品となる人とはそういう事はしたくありません」
「僕ね、名前さんが好きなんだ」
「気のせい、という可能性は」
「ない。信じてもらえるかわからないけど、僕ね、前に名前さんと結婚する前から、名前さんのこと、好きだったよ」
「過去形?」
「今も好き!愛してる、結婚したいくらい大好き!!」
「えー、嘘くさいですね」
「祓本のラジオ聞いてる?」
「いいえ」
「僕ね、名前さんと再会する前からずーっとずーっと前世の嫁に会いたい、会ってまた結婚したいって言ってんの」
「パフォーマンス?」
「違うよ!」
「……もしかして、それって、告白、と言うやつですか」

ハッとした顔で真面目に言う名前に、五条はもごもごとする。
間違いではない、告白と言えばそうだ。
いや、五条の予定ではここで一緒に出掛けて夏油の助言と通りに親睦を深めた後に言うつもりだった。そうやると勝率がいいという情報を得たからだ。
間違いなく名前の事は大好きだし、前世以上に幸せにしたいと思っている。
確かに歳を考えれば10こも差があるが、今はお互い成人しているし問題はないはずだ。
色素の薄い、白い肌がカッと熱くなるのが自分でもわかるのだから、隣の名前にだってわかってしまったはず。ええい、ままよ。と名前を睨むように見つめる。

「僕名前さんが好き、前世から好き。だから結婚を前提に付き合って」
「…………………ごめんなさい」
「え」
「気持ちは嬉しいですが、それはちょっと」
「僕振られた?」
「私、どちらかと言えば前世の記憶はありますけど、感覚としては夢のようなもので。地続きではないんです。前世の気持ちは忘れてしまったし、今五条さんが好きかと聞かれれば同じ職場の人、という感じです。それは夏油さんも一緒で、だから」
「じゃあ、これから僕の事好きになる可能性。それは!?」
「どう…ですかね……可能性は低いと思います」
「でも0じゃないんでしょ!?じゃあ、じゃあ、お試しで付き合って。それでよければ本格的なお付き合い」
「私はもう、傑のお姉さんじゃありませんよ」
「傑の姉ちゃんだから好きになったんじゃないよ」
「私がなに?」

うわ。という2人の声が重なって、その声の方向を見ればニコっと笑う夏油の姿がある。
五条と名前の関係は知っている。そして夏油と五条の関係も。でも夏油は夏油自身と名前の関係までは知らないのだ。覚えていない、と言うのが正しいのか。

「なに?ラジオの話?名前ちゃんまたラジオにおいでよ、リスナーからも“また出来てほしい”っていうメール来るんだよ。ね、悟」
「え、あ…うん、そう。僕がいない時の、結構評判良いみたいでさ。今度は2人と姉さんのが、聞きたいって。プロデューサーも、考えてるみたい」
「私今恵くんの担当なんです、恵くんを出してください」
「じゃあ4人でやろうか。伏黒くん確かドラマでるんだろ?番宣も兼ねて」
「いいんですか?それなら…恵くんとマネージャーさんと相談したいと思います」
「そういう名前ちゃんはマネージャーにはならないの?」
「マネージャーとか、そういう営業は苦手で」
「そうなんだ。結構上手だと思うよ?私たちのサブマネにならない?伊地知とも仲良いでしょ?伊地知も君の事信頼してるし、良いと思うんだけど」
「僕のマネになる?」
「なりません。今の仕事にも部署にも不満はないので」

どうやら話の内容までは聞いていなかったらしく、「姉さん」「姉ちゃん」というワードだけが耳に残ったのだろう。
ラジオの再登場とマネージャーにならないかという話に持って行かれた。しかし名前も名前でそこはしっかり「NO」と答える。これで流されていてはそれこそ祓本のサブとはえマネージャーは務まらないだろう。その点伊地知は少し弱いが、それでも敏腕なので回っている。

「そういえば悟に告白された?」
「たった今されました」
「え」
「…」
「嘘、本当に?あ、ごめ…それで、どうだったんだ悟」
「轟沈だよ」
「即ごめんなさいか…飲み行く?」
「飲めないの知ってんだろ」
「まだ飲めないんですか?」
「うん」
「前もそうなの?」
「ええ、はい。あの、そういう話って、私がいないところでしないんですか?」
「付き合ってないならいいだろ?恋人のいちゃつきを邪魔するんじゃないんだ」
「付き合う事になったら?」
「邪魔するさ、面白そうだから」
「そういうの、駄目だと思います…」
「俺も」
「名前ちゃんに言われても悟に言われる筋合いはないね。人が女性と良い感じになると邪魔したくせに」
「遊びの女じゃん」
「まあね」
「うわ」
「名前ちゃんも私と遊ぶ?」
「猫被ってないだけマシなのか悪いのか分からない…」
「お前、前世の話だけど、名前さんにかなり猫被ってたからな、マジ」

噂には聞いていたけど。という顔で引いた顔をする名前。それとは対照的にニコニコしている夏油。
今現在は他人ではあるが、前の性格を思えば五条が言っていた「俺がクズなら傑もクズ」の意味を分かる気がする、だろう。いや、むしろ名前からしてみれば可愛い弟がこうだった、という事実に衝撃を受けているところだ。

「へえ、仲良かったの?」
「良かったよ、かなり」
「それで悟と結婚したんだ」
「まあな。でも振られた、たった今、ごめんなさいって」
「君も振られるんだね、いい経験ができでよかったじゃないか。名前ちゃんにお礼言いなよ」
「う、うわ……」
「名前さん、傑こういう奴だからね?」
「でも五条さんも似たようなものでしょ?」
「んふ、知ってるね名前ちゃん」
「前そうだったので。学生の時なんて」
「ごめんなさい、やめてください。すみません…傑に言われても平気だけど名前さんの口からでるのはマジきつい」
「女が勝手に寄ってくんだっつーの。マジウザ。オッエー」
「何それ」
「昔の五条さんのマネ」
「名前さん…」
「まあでも、五条さん私には優しかったのは事実で、こういうの私がうっかり見た後ですごくアワアワしたんですよ」
「でもクズだね」
「クズですね」

あっははは。と楽し気にしながら自販機でブラックコーヒーを買い、口をつける夏油。
背が高く五条とは違った整った顔立ちのために様になっているのが口惜しい。クズでなければ完璧だろう。

「どうしてもダメ?何がダメ?歳がダメなの?若い方がいい?夜の方は絶対に僕他より上手いよ?知ってるでしょ?3人も子供作ったじゃん?」
「そういう問題じゃないと思うけど」
「うるせ!つーか傑はあっち行けよ!」
「それ口説き文句としては最低だからね?」
「では、私も良いですか」
「名前ちゃん?」
「馬鹿の一つ覚えみたいに前の女にしがみ付かないの。今は今、昔は昔。私より良い人いるから、悟はちゃんと見つけること」
「…ママかよ」
「まあある意味ママ、ですかね。一応3人のママ?でしたし?」
「やだー!名前さんがいいー!!ラブラブしたいー!!うわー!!!」
「五条さん…」
「悟って呼んで!」
「さとるー」
「傑じゃない!!」
「あ、そろそろ行かないとなので。失礼します」

空缶をごみ箱に入れて軽い会釈をして名前は走り去る。
まあ気まずいという事もあるが、時間の関係が大きいだろう。
五条に告白、と言うものをされて戸惑った部分もある。

「振られたねえ」
「うっせ!まだ諦めねえし!」
「そんなに名前ちゃんの事好きなの?クズなのに?」
「うっせーな…」
「………、既成事実、作っちゃえば?」
「そういうことはしねーよ!」
「まじ?本気じゃん」
「本気だって言ってるだろ!」

それはまた、悟らしくないから本気なんだね。と夏油はぽつり。
名前が姿を消していった方を眺め、再び五条を見る。
「女うっざ」と言っていた五条からは考えられない今の姿に、「いや、本当に本気なんだ。意外…マジ?」と顔を覗き込んだ。

/