呪術 | ナノ
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「名前さん、僕とも一緒にラジオやろ?」

きゅるるるん。と己の可愛さを最大限に引き出して、大男は年下の女性に向かって頑張っておねだりをする。
立っている名前の横に来て、しゃがみ、上目遣い。
サングラスからのぞく青くてきれいな瞳を輝かせ、うるうるとうるませて。

「嫌です」
「え」
「私これから打ち合わせなので失礼します。五条さん、伊地知さんが多分探していると思うので行ってください。あと怪我には気を付けて」
「あ、姉さん」
「やめてください夏油さん。五条さんの回収お願いします」
「夏油さんだなんて他人行儀だな、傑兄さんてもう呼んでくれないの?」
「会議があるので」
「あー!!名前さーん!!」

手には書類の束にファイル。
さらりと五条を躱して名前は会議室に入っていく姿は十分にこの事務所での経歴を感じさせる。何よりあの五条悟を躱すのだから、と周りの人間にはゲラゲラと笑われているわけだが。

「なんで!?」
「どうしたの」
「なんでお前とラジオができて俺とは出来ないわけ…!?」
「ああ、その話?結構評判良かったみたいなんだよね、SNSでもトレンドに上がったし。また悟が欠席するとき誘うかな」
「傑が休めよ、俺が名前さんとラジオやるから」
「いいの?君名前ちゃんのこと公にはしたくないんだろ?」
「っぐ……」

そうだ。そうなのだ。
五条悟は前世の嫁の夏油名前と再度結婚がしたい。それゆえ名前を公のところには連れていきたいくない。
ラジオだって知っていれば阻止したが、知ったのは放送してから。弾丸クレームの様に夏油にメッセージを送りまくったが無視され、社長にもマネージャーにも送ったがこちらは五条の穴埋めで走り回って忙しくて落ち着いてからやっと既読になったのでもう手遅れだった。
確かにラジオは面白かった。言えば「傑1人でがんばー!うひひひ」という所から愛しい名前の声が聞こえ、相方が「私の事傑って呼んで。私姉さんって呼ぶから」などとのたまったのだ。確かにSNSのトレンドはラジオネタが独占状態で、いつもと違う夏油にファンは喜んでいた。
面白いが面白くない!それが五条の心情である。

「プロデューサーも名前ちゃんのこと気に入ったみたいでさ」
「は!?」
「また呼べるように事務所に掛け合ってるみたいよ。当の本人の名前ちゃんはやる気ないみたいだけど」
「お前絶対もう名前さんのこと姉さんとか呼ぶなよ」
「なんで?名前ちゃんに言われるならまだしも悟に言われる筋合いなくない?」
「名前さん困るからだよ」

あーあ、面白くねー。と立ち上がって上着のポケットに手を突っ込む五条。
名前の前で猫を被っているのを見た後だと、その行儀の悪さが目立つが本人は気にしていないのだろう。
以前五条が名前に対して「君の前だと良い子ぶってるけど、コイツ悪いやつだよ」と忠告すれば名前は笑って「知っていますよ」と言うのだから驚いた。
テレビ用の顔の事ではない、と言えば「はい、知っています。傑兄さんだって知っているでしょう?前世の嫁ですよ、私。素行が悪いのなんて慣れています」と言うから本当前世の嫁なのだと無駄に感心してしまった。
何より、それがあってのアピールを全てスルーする名前の躱す能力も凄い。

「なんで名前ちゃんが困るのさ」
「困るから困るんだよ。伊地知は?」
「ああ、多分だけど君が休んでいた時のいろんな処理があるから事務室にいるんじゃないか?あ、そうだ。打合せがあるから打ち合わせ室だ」
「なんの」
「私たちの仕事の、だよ。ほら行くよ」
「お前えだって忘れてたくせに」

面倒臭そうに歩いて打ち合わせ室に行けば、驚いた顔をした伊地知がいた。
どうやらまだ来ないと思っていたらしい。案の定「は、早いですね…今お茶出します」とオドオドされた。いつもであれば5分10分の遅れは可愛いもので20分は来ないの通常だった。それがほぼ時間通りに現れて伊地知も困惑したのだ。普通はしないのだが。

「なー伊地知」
「は、はい」
「前俺の写真集出したけど、あれ第二弾で話ないの?」
「なに?やる気じゃん」
「七海が最近写真集また出しただろ?」
「名前ちゃん関係かよ。お前それ第一弾サインして押し付けて困ってたじゃないか」
「だって名前さん七海にサイン強請った!俺もおねだりしてほしい!」
「あ、あの…写真集のお話ですが、夏油さんに来ていますね」
「え、私?」
「はい。前回の五条さんが好評で、今度は夏油さんで、と」
「俺は!?」
「悟の次だから私なんだろ?いいじゃないか、面白そうだし。やるよ」
「お れ は!?」
「落ち着きなよ悟。というか今回の打合せはコレじゃなだろ?個人の仕事なら私個人にくるだろうし」
「は、はい。」



「名前さーん!」
「五条さん…お疲れ様です?」
「聞いて聞いて!」
「五条さん、今から俺達これから行かないとなんで」
「なんだよ恵ぃ」
「名前さんは今俺の担当なんで」
「マネじゃねーじゃん」
「マネージャーだけが担当じゃありませんよ五条さん。恵くんこれから雑誌の撮影なので失礼します」
「待って待って待って待って」

荷物を持って担当する伏黒恵の横を歩く名前を見つけた五条はニコニコと愛想のいい顔で近づくが、2人は時間的余裕があまりないのか素っ気ない。
いや、もともと伏黒は素っ気ないし、名前も五条に対して愛想が良いとは言えないが名前に関しては五条は気にしていない。だって前世の嫁だ。

「あんまり動いて痛いとか言わないでくださいね」
「あのね僕ね、今度ドラマでるの!傑と一緒に!」
「そうですか、良かったですね。名前さんコンビニ寄れますか?喉乾いて」
「コンビニ?わかった」
「名前さんてば!それでね」
「ごめんなさい五条さん。急いでるの、あ、そこ段差ありますよ」
「あ、うん。それで」
「エレベーター来ました。七海さんお疲れ様です。それじゃ五条さん、これから俺達出るんで、お疲れ様でした」
「七海さんお疲れ様です。五条さん、怪我には注意してくださいね」
「え、あ…………」

軽い会釈をして名前と伏黒はエレベーターに乗り込んで、そのエレベーターはその扉を閉じる。
そのエレベーターに乗ってきた七海は七海ですれ違いざまにちゃんと名前に挨拶をし、残された五条に色々と察して大きな溜息をひとつ。
どうせ名前に絡んで名前にはスルーされたのだろうと思ったからだ。

「名前さーん…」
「名前さんも忙しいんです、構うの止めたらいいじゃないですか」
「うるせー!!」
「そもそも、担当違いの人間なんだから時間が合うわけないでしょう」
「…それだ!」
「あ」

七海の言うとおりだ!と言わんばかりにきらりと五条の目が光る。
名前はアイドル担当、今は伏黒の担当になってマネージャーが付き添えない現場に付き添っているわけだ。ならば名前をお笑いの祓本にすればいいのだ。
それが一番早いし簡単に名前との時間を作れる。なんといっても今の祓本はこの事務所で一番売れているのだ。このくらいの我儘……あの社長が、許して、くれる、か?とだんだん勢いがそがれた五条。
他のスタッフたちは五条には基本的には逆らわないが、名前はそれがない。
嫌であれば素直に「嫌です」と言う。

「……なあ七海」
「無理だと思いますよ」
「何も言ってない」
「名前さん結構真面目に仕事ができる人なので、人事変更があると色々な部署から手が上がると思いますよ。現に俳優の方でも画策してますし、現在のアイドル部の方は手放したくないみたいですし」

いろんな経験をすると良い。という方針もあり、一部のスタッフの配置換えがあるの事に賭けようと思えば七海の情報。
倍率が高いからと諦めるつもりはないが、ライバルが多いという事を知ってしまった。
お笑い担当のトップは伊地知。伊地知は以前名前も良く可愛がっていたし、今は伊地知が名前を可愛がっている。チャンスはあるか?と思うが名前は他の部のスタッフとも仲が良い。
一番厄介なのは俳優の庵歌姫と家入硝子だ。前世で仲がとても良かった。

「僕頑張るからね名前さん」

呆れた顔で七海が五条を見ていた。

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