呪術 | ナノ
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※未来と過去がこんちには・すぐるとすぐる
※主が元気

「なに…してるの?」
「酒飲んでる」

学生寮を出てすぐ。
名前は得意の結界術で簡易的に自分だけが座れる程度の椅子サイズの結界を張ってその上に座って、行儀の悪い恰好で缶ビール片手にぼんやりしていたらしい。

「双子ちゃん寝た?」
「え、ああ、うん…その缶ビール、どうしたの」
「学…先生から貰ったの、ご褒美だよご褒美」
「ご褒美?なんの」
「夏油くんを連れ戻したご褒美。まあ特級を連れ戻して缶ビールがご褒美って言うのも、ね。まあいいんだけど。自分で強請ったものだし」
「ああ…そういう……私も座りたいんだけど、いいかな」
「地面に座るの?物好きだね」
「いや、私にも結界で椅子作ってって…いいや、呪霊をイス替わりにするよ」
「冗談冗談。どーぞ」

くすくすと笑って名前が小さな結界を出して、夏油は座る。
名前と夏油の間には少しばかりの隙間があり、夏油は「もう少しこっちに座りたいんだけど」と言えば名前は名前で「パーソナルスペース」と拒否をした。

「スグルも嫌だって」
「え、あ。居たんだ」
「優ひどいねー。夏油くん来る前からずーっと居たもんね、私の脚の上」

半分かいた状態の胡坐、そこに黒い猫が金色の目で不満そうに夏油を眺めているではないか。
黒い服にあたりは暗いから本当に気が付かなかった。
ただ金色の目がきらりと光るからその存在に気が付いたが、寝ていればきっとわからなかっただろう。それくらい猫は黒い。
夏油を見上げると「なんだよ、邪魔するな」と言いたげな目でぱちぱちと瞬きをしてから名前に甘えるようにすり寄っている。

「寮の外、いいの?」
「これくらい良いでしょ。学外に出るわけじゃないんだ」
「夜に出るなんて悪い子だな」
「呪詛師より悪くないでしょ」
「……そうだね。言うじゃん」
「だって今の名前に甘えていいんだろ?」
「夏油くんが優くらい可愛かったらよかったのに」
「私可愛くない?」
「うん」
「あ、ひどい」

こんなデカい男可愛いわけないじゃん。と名前はアルコールの入った顔で楽しそうに笑う。
普段の名前であれば未成年飲酒なんて。という性格だが今の名前はとうに成人しているので何も問題なのだろう。ただ未成年の前で飲酒するのはいいのか、といえば名前はきっと「私成人しているし未成年に勧めてないし」ときっぱりと言いそうだ。

「優とデートしてるの邪魔するの、可愛くないよねー」
「デートしてたんだ」
「そ。久しぶりの優だもーん」
「久しぶり?」
「うん」

ああ、と嫌だが納得した夏油。
約10年後にはもういないのだ。猫の寿命を考えれば察することができる。いくら長くなったとはいえ、個々の持って生まれたものは大きくは変えられない。
ぐるぐるぐると機嫌がいいのか喉を鳴らせる猫を見れば、確かに自分は邪魔者なのだ。

「明日は五条くんにお刺身強請ろうね」
「悟に?先生じゃなくて?」
「私五条くんの親友を助けんだし、これくらい強請っても良いでしょ。別に料亭の刺身を猫に!てわけじゃなくスーパーのお刺身だし」
「……私は?」
「おん?」
「私には、何も強請らないの?」
「なんで夏油くんに強請るの」
「私を助けた、お礼?」

別に、悟が羨ましいわけじゃ、ないけど。と続ける。
逃走したのは夏油自身で、あんなことをしでかしたのだから名前が夏油に何かを強請る意味はない。
名前は未来から(おそらく)五条の依頼でここにきて期待を背負って夏油を助けに来たのだ。だから名前がその報酬として何かを強請るのは流れとしては間違っていないし、あえて指摘するのならば「そんなもので良いのか」である。
特級を連れ戻した報酬が缶ビールに刺身では報酬にもご褒美にも、何にもならないだろう。

「そーさね、じゃあ、ちゃーんと皆を頼るんだよ?とか言ってみる?」
「…もっと、違うのないの?」
「だってさ、今夏油くん未成年じゃん?私大人だし?あ、早く寝ろ」
「わ、私の方が大きい」
「んな体格差を言われても…男女の差ってものをご存じか?」
「じゃ、じゃあなんで悟には刺身強請るのさ」
「え、だって出資者だし。夏油くん達連れてくるのにお金出したの五条くんだし、当主だし、金あるじゃん。硝子は忙しいでしょ?夏油くん一応謹慎処分中じゃん。買ってきてともいえないっしょ」
「〜〜〜っ、意地悪だな」
「そ?普通じゃない?」
「いつもの名前は優しいよ」
「猫被ってるからね。こんなデカい男が近くにいたら怖いだろ、ははは」
「……怖いの?」
「夏油くんも五条くんも自分が大きいから分からないと思うけど、怖いよ?同級生で付き合いがあるからどんな人かわかるけど、私逃げ場がないところで二人っきりにはなりたくないな」
「………マジ?大人になっても?」
「うん。まあ、今は他の意味で一緒に居たくないかな。五条くんはワンマン当主だし、夏油くんも夏油くんでアレだし?」
「私名前に酷いことしないよ?」
「恩を仇で返すなって話だよね」

ごくんごくんとビールが名前の喉を通る。
猫は相変わらず名前の脚の上でご機嫌に喉を鳴らして眼を閉じ、長い尾がゆらゆらとしているのが見えるようになった。
その猫の姿が羨ましくもあり、面白くもない。

「優抱っこしたいの?」
「え?あ、いや…良く寝るなって、思って」
「お爺ちゃんだもんね」
「んに」
「ごめんごめん。文句言われちゃった」
「なんて?」
「“お爺ちゃん言うな”って。可愛い可愛い私の優くん」
「私は?」
「夏油くん」
「私もスグルだよ?」
「そうね、でも猫じゃないし私のじゃない」
「名前のになるよ?」
「ならんでよろしい。」

残っていたビールをごくごくと飲み干し、空き缶片手に猫を抱き立ち上がる名前。
スッと名前の座っていた結界は姿を消し、跡形もない。

「寝るの?」
「うん、酒も飲んだし。夏油くんまだいるの?結界消したいんだけど」
「私も、戻るよ」
「じゃ、おやすみー。ちゃんと寝なよ?明日もパパしないとなんだから」
「………ママは、必要だと思う?」
「さあ?私そういうのわかんない」
「名前、ママにならない?」
「ならんなー!ママとか絶対に嫌だねえ!おっと、どうやら酔ったみたい。優一緒に寝ようね」
「私も一緒に寝たいな」
「うっざ。そうだ、一つ予言してあげよう。君にはナイスボディな美人敏腕秘書ができる!その人でも口説いとけ。おやすみー」
「うわ!?」

座ったまま名前を見ていれば、名前はスイと結界を解除したので夏油はそのまま尻もちをついた。
その姿を見て笑うあたり、酔っているのか友人関係が長くてこの程度では心配もなければ遠慮もないのかもしれない。しかしそれが楽しそうなので文句を言うのも飲み込んでしまった。

「あ、写真撮ればよかった」
「人の失敗見て楽しいの?」
「だって、あの夏油くんが尻もちついてるんだもん。硝子と五条くん腹抱えて笑うだろうし、菅田さんもニッコニコになる違いない無い」
「スダさん?ああ、もう、汚れちゃったじゃないか」
「良い男は多少の汚れもアクセントだよ。ねーすぐる」
「………」
「あ、無視したな」
「傑はそうは思いません」
「夏油くんには聞いてない。あ、戻ったら五条くんにアイスとデパートスイーツ強請ろ!そろそろ期間限定の出るんだよね」
「……私には強請らないの?アイスとか、そういうの」

尻をぱんぱんと掃いながら汚れを落とし、猫を抱く名前を見る。
猫は眠いのか面倒で無視を決め込んでいるのか、目をつぶったまま寝たふりをしている。
気持ちよさそうではあるが、まあ面倒な雰囲気を感じ取っての行動にも見える。それくらいこの猫は賢いのは夏油も十分すぎるほど知っている。

「あー、なんか夏油くんがくれるのって…」
「うん」
「なんか、あやしくて」
「あ、あやしい?」
「怖くて、なんか、うん……」

それどういう意味?という夏油の言葉に、名前は曖昧に笑いながら猫を抱え、空缶ビールを持って寮内に逃げて行った。

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