呪術 | ナノ
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『本日は皆さんご存じの通り悟が骨折して入院しているので私が1人でのラジオ、の予定でしたが、1人でしゃべり続けるのも大変なのでゲストがいます。ゲスト、というよりもアシスタントかな?うちの事務所の女性です。一般の子なので、今から彼女の芸名を募集したいと思います』
『初めまして。本日当事務所の祓ったれ本舗五条悟の代わりにもならないアシスタントとして呼ばれてしましました』

「え」

『彼女はバイトから入って今事務所に就職して1年目の新人さんでね、この子面白いから私が独断して社長に相談してブースに入れちゃった』
『面白くないですよ』
『緊張してる?』
『はい。傑兄さんニヤニヤして気持ち悪です』
『そうそう、私彼女から傑兄さんって呼ばれてるけど血縁関係はないからね。愛称ってやつ。では2つ目のコーナーに彼女の芸名募集コーナーするから、それまでに皆投稿してね』
『芸名って必要なんですか?』
『私は本名だけど、あったほうが良いと思うよ。芸名って、ほら、設定だから』

冒頭の通り五条悟は骨折した。
収録とかでもなんでもなく、家で転んでバキっと。
お陰で仕事はキャンセルだ入院だと事務所総出でばたばたとしたわけだ。入院したらしたで周りはうるさいし相方の夏油には嫌味を言われるし、見舞いに来たという事務所関係者の9割は五条を笑った。
付き添いでは名前を希望したが社長に却下され、少ない人員の中伊地知が五条の身の回りのことをしつつ他業務をすることになった。おかげで伊地知は五条以上に精神がすり減っているが、出来る男なので忙しく駆け回っている。

「え、今の、名前さん…だよな」

消灯時間を過ぎてラジオを聞いていても何も言われないのは病院が芸能関係だからだ。
言えばそういう人間を扱う病院。よっぽどのことがなければ自由にできる。
五条の場合は骨折しているからといって命にかかわらないので、そこの負担さえなければ基本は自由だ、という認識なのだろう。
スマホにタタタタと文字を打ち込んで相方のスマホに送信すると、にやりと笑ったスタンプがぽこんと音を立てて飛び上がった。

『ふふふ、今悟からメッセージが来たんだけど』
『起きてるんですね』
『なんでそこに君がいるんだって。悟が不在だからだよ』
『元気ですね』
『そうだ、悟聞いてるなら彼女の芸名、ニックネーム考えてよ。可愛いのが良いかな』
『今回だけじゃないですか』
『人気が出たら本当にアシスタントになるかもよ』
『五条さん阻止すると思いますよ』
『どうして?』
『相方の隣は自分じゃないと』
『祓ったれの前に君だっていいだろ?2:1で向かい合えば』
『それなら私、年の近い野薔薇ちゃんのグループアシスタントが良いです』
『あ、悟が“誘うの止めろ!!”って。しかも、“傑お前1人でやれよ!”だって。嫌だね』
『電話繋いだら出てくれそうですね。あ、でも病院だし寝ててほしいです』
『うるさいからね』
『一応怪我人ですよ?寝ていた方が回復早いのでは』
『麻酔で長い事黙っててほしいな私』
『黙っていれば美人ですよね、五条さん』
『んふ…っ、そ、そうだね』
『眠れる祓ったれの美人』
『私は?』
『起きてるやばい方の祓ったれ』
『あとでセンブリ茶飲ますからな』

じゃあ私も傑兄さんのお茶に混ぜますね。とさらりと言うあたり、祓ったれのファンが喜びそうである。
いや、リアコの多いイケメン祓ったれ本舗なので顔が出ていないといえど油断はならない。ここで夏油と仲が良く話題になろうものなら名前の素性が表に出てしまう。
それが誹謗中傷となれば大変なことになる。

「おい傑…おま、おまえ…」

思わずSNSのトレンドを見れば、案の定祓ったれ本舗のラジオの話題になっている。
ハッシュタグに「アシさんの芸名」まであるではないか。

『さて、一つ目のコーナーに入る前に芸名の一部を紹介しようかな』
『凄いですね、こんな聞かれているんですね』
『君ね…私達君の事務所の芸人だよ?先輩だよ?』
『でも担当はアイドルの方なので』
『まあ…そうだけど……釘崎とか伏黒に似てきたな…虎杖を見習って』
『お兄ちゃん、焼き肉食べたい』
『そうじゃなくて。君の虎杖印象ってそれなの?』
『焼き肉のイメージですね。モデルの張相さんがご馳走してくれるとか』
『あー…なんか彼弟判定してるからね…。それで君の芸名候補なんだけど』
『はい』

代打ちゃん、妹ちゃん、辛口ちゃん、刀ちゃん…となかなか悪いネーミングしかこないあたり悪意でしかない。
夏油は夏油でそれを楽しんでいるし、名前も意に介すことはないようだが。
それでも五条としては面白くはない。幸い、と言っていいのか分からないがリスナーには前世の嫁が名前であることはバレていないし夏油もばらすようなヘマはしないだろう。しかし、そうであっても愛しの名前が馬鹿にされるのは面白くない。

『悟が“もっと可愛いのにしろよ。センスねえな”だって』
『そういう五条さんは何がいいんですかね。そろそろコーナー入りましょう』
『そうだね、時間だしね。それでは最初のコーナーは』

ジャカジャジャジャ、とコーナーの音楽が流れて夏油がメインに喋り、名前が時折何かを言うスタイルだった。
たまに名前がメールを読んでみたりもするが、必ず「これ私読んでいいんですか?今日きたんだから傑兄さんに読んでほしいでしょ、絶対」と言ってから読んでいた。
すると「アシスタントさん読んでもいいよ」というメールも来たのだろう。名前は「ありがとうございます」と言いつつ読み上げて夏油と会話をしていた。

『悟復帰するまで君アシスタントしなよ』
『来週無理ですね』
『あ、伏黒のソロライブで君も一緒なんだっけ』
『来週大阪ドリームライブで伏黒恵ファーストソロライブがあります。東京でも開催しますので是非皆さまお越しください』
『宣伝しないの。ここ祓本のラジオだよ』
『ファーストソロミニアルバムの店舗特典もありますので、ホームページ、または公式SNSアカウントからご確認ください。また応募抽選で伏黒恵のサイン入りポスターやその他グッズが当たるキャンペーンをしますのでご参加いただければと思っています』
『こらこら』
『お兄ちゃん、宣伝させてくれてありがとう』
『もう』
『今度は本人呼んで宣伝させて下さい。私裏方なんです』
『苦情を言うんじゃないよ』

あはははは。と普段とは違う楽しそうな声。
女性相手に気を使っている雰囲気でもなく、また相方の五条の様にしているわけでもない。いつもとは違うが優しい雰囲気が夏油からする。
その変化をリスナーも感じ取ったのか時間が進むにつれて「夏油まじお兄ちゃんみたい」「ここに五条いたらパワーバランス崩れて面白くなりそう」「アシさんアシストして」と悪いばかりではない、気がする。
しかし五条としては面白くないのは面白くない。

『でね、あ』
『どうしました?五条さんですか?』
『あたり。悟、君の人気が出ると困るからって怒ってる』
『安心してください、出ません。五条さん、寝て。回復して。イライラするの良くないですよ』
『ふふふ』
『なんですか、急に』
『悟の心配をする数少ない人間だなって思って』
『五条さん怒り狂いますよ?病室で大変だったって聞きましたよ私』
『お気に入りの子がお見舞い来なくて暴れたんだよね』
『最低ですね。いい年なんですから我儘言わないでください。自宅で転んで骨折して』
『お、言うねえ』
『おかげで私ラジオのお仕事ですよ?私担当はアイドルなのに』
『まあ、それはね…でも上手だよ』
『傑兄さんが上手だからです。ぜひとも伏黒恵をゲストにラジオの極意を』
『営業かけないの』
『担当ですから当然です。来週の大阪、東京公演ぜひお越しください。待っています、伏黒恵が!』
『宣伝するなって。CMの後は彼女の芸名コーナーだからね』

聞きなじんだ提供元のCMが流れる。
すかさず名前のスマホにも「なんでそんなに楽しそうなの!?てかなんで僕のお見舞い来てくれないの!」と送るも既読さえもつかない。
反対に相方の方は送信するや否や即既読が付く当たりアプリを開きっぱなしにしているのだろう。散々文句を送るが面白そうな文面だけ夏油は取り上げて笑っているのは面白くない。

『はい、それでは君の芸名のコーナー』
『コーナーにしないでください。他のコーナー潰してまですることですか?』
『悟のコーナーがもうポシャってるからね』
『来週五条さん復帰してくださいね』
「うん!って違う!!」
『それじゃあ、えーっと。まずはこれかな』
『そんな風に選ぶんですね』
『多いからね。ちょうど指に止まったコレ“祓本の骨折していない方こんばんわ!アシさんの芸名ですが、単発なので単発ちゃん!”安直だな』
『アシスタントだからアシさんと同じくらい単純でいいじゃないですか』
『いいの?君これで』
『単発ですし。そもそも芸名不要ですし。どうせなら伏黒か虎杖か釘崎を』
『営業かけないの。じゃあ、次は……コレ。じゃあこれ読んで』
『え、私読んでいいんですか?』
『いいよ、私が許す』
『えー…、では。“祓本の黒い方こんばんは。私は普段夏油さんの方を兄さんと呼んでいるなら、アシスタントさんは逆に姉さんと呼んで兄さん姉さんで!”ですって』
『姉さん?いいね。姉さん……姉さん、姉、さ……ん』
『あ、傑兄さん、どうやらここで1曲みたいです』
『え』
『曲紹介してください。リクエストしていいなら私担当の伏黒の』
『だ、だめだめ。えっと、…』

と急にテンポが悪くなる夏油。
五条は何かを思い出したのかと一瞬思ったが、それからは通常通りに事が運んだ。
「姉さん」は前に夏油が姉を呼ぶときに使っていた、というには安直ではある。しかしアレはアレで夏油名前という人間を愛していたわけだ。呪術師になる前から、呪詛師になってからも。

『私、君を姉さんって呼ぶの気に入っちゃった』
『傑兄さんの方が年上じゃないですか。あ、お姉さん居るんですか?』
『私ひとりっ子。姉さん欲しかったかも』
『じゃあ、姉妹の妹さんと結婚すると義理ではありますが義姉ができますね』
『そこまでして欲しいもんじゃないけど。私が君を姉さんて呼ぶから、君は私を傑ってよんでくれない?』
『それラジオですることですか?』
『いいじゃないか、ラジオだし』
『傑兄さんしつこいから…1回だけでお願いします』
『仕方ないな…じゃあプライベートでもお願いしようかな』
『そうやって女優さんといい感じになるんですね、勉強になります』
『勉強しないの。さあ姉さん』
『そういう性癖の人ですか?』
『プレイはしたことないな』
「お前名前さんに何言ってんだよ馬鹿」
『仕方ないですね、傑』
『うーん、もう一声だな。ため口で』
『注文が増えましたね…他の芸名はいいですか?』
『私がこれ気に入ったから、これに決定。駄目かな』
『まあ、この一時ですし』
『じゃあため口で』
『もう、我儘言わないの。傑』
『あ、いいね!それ』
「よくねーよ!」
『今悟に文句言われた気がする』
「言ってるよ!お前…お前…!」
『じゃあ、担当のアイドルを出してくれる約束してくれるならタメ口と姉さんという芸名いいですよ』
『ちゃっかりしてるなあ』

ちゃっかりしてるのはお前だよ!と五条が叫べば、見回りの看護師に「五条さん!静かにしてください!」と小さく怒らられてしまった。
俺が悪いんじゃない。と思わず言いそうになったが、時間を考えれば自分が悪い側なので素直に「すんません」と謝った。

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