呪術 | ナノ
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「こんにちは」
「はい、こんにち……」

午後、七海が高専内を仕事の関係で歩いていると正面から何かを抱え、小走りに向かってくる女学生が一人。
その女学生がすれ違いざまに挨拶をしてきたので反射的に挨拶を返したが違和感がある。
夏油名前に似ている。彼女は自分より年上で高専生ではない。
走り去る女学生の後ろ姿を見ても似ている、本人の様だ。いや、記憶にある高専時の先輩そのものと言っていいだろう。
腕時計を見て時間を確認し、約束の時間までは余裕がある。高専の敷地であれば把握しているので時間内にその疑問を終わらせればいい。そう思い女学生が走り去った後を追う七海。
数日連絡が無いのはいつもの事ではあるが、五条からも連絡がないのは珍しい。何か隠している、というわけではないが何かが引っかかる。
あの五条が用もなく連絡を寄越す五条が静かだから、気になるだけだと言い訳をして。

「お待たせ。伏黒くんがコーヒー、野薔薇ちゃんが紅茶、虎杖くんがコーラ。で、先生はサイダー」
「おつおつ」
「名前さんジャンケン弱すぎじゃない?一人負け」
「運だから、ジャンケンは運だから!次は負けない!」
「五条さん」
「あれ七海じゃん」
「どういう事ですか」
「あー、ちょっとこっちで話そうか七海。皆は休憩ー」

学生たちがジャージを着て校庭の階段をイス代わりにして休憩をしている。
その中には五条悟。そして先ほどの女学生。その女学生を「名前」と呼んでいるのだから彼女は夏油名前で間違いないのだろう。
今まで話では五条に頼まれて学生の指導に当たった事があるらしいが、それにしても今の雰囲気では学生そのものである。

「あの学生」
「そ、名前さん。ちょっと前に悠仁との任務でああなった。呪い自体は大したことないからあと3、4日位じゃない?戻るの」
「何も私は聞いていないのですが」
「なんでお前に言うのさ、必要ないだろ?」
「………ですが」
「上には隠してるし高専内であれば融通効くし、匿うにはいいだろ。何が不満なんだよ。あ、もしかして教えてもらえなくて不満なわけ?」
「……………」
「図星かー!」
「うるさいですよ」

まあ挨拶くらいしておけば?と五条に言われる。
挨拶であれば先ほどかわしたが、そう言う意味ではないのだろう。

「精神も戻っていますね」
「お、わかる?」
「私を見ても反応がなかったので」
「名前さんなら何が言うからね。話がしたいなら紹介するけど?」
「別に貴方の紹介がなくても結構です、自分でするので」

ニヤニヤとしている顔に腹が立つ七海。しかしここで言い争っても良い事はないくらい学習済みである。
大きな溜息をひとつついてから少し離れた学生たちが休憩している階段に行く。

「ナナミン」
「皆さんこんにちは」

七海が挨拶をすると全員が口ぐちに挨拶を返す。
子どもらしいというか、素直だというか。挨拶を返すくらいは子供も大人も関係がないな、と思う七海だが、比較していたのが五条だったのだから仕方がない。
階段の下段に腰掛けていた名前の目線に合わせるように膝をつき、サングラスを外す。

「七海建人です」
「は、はじめまして…夏油名前です」
「何か不自由はありませんか」
「え……えっと、特には、ありません」
「スマホはお持ちですか」
「いいえ、家入先生が預かってくれています」
「……そうですか」
「なに?どうしたのナナミン」
「五条さんに何か不満があれば私が保護を買って出ようと思った次第です。何もないのであれば問題はありません」
「はー!?なんで僕が名前さんに不満持たれるんだよ!」
「そういうとこじゃない?」
「そういうとこですかね」
「全面同意!」
「なんで名前さんは七海にビビらないの!?七海だってデカいじゃん!グラサンじゃん!顔恐いじゃん!!」

当たり散らす様に騒ぐ五条。
名前以外の学生は「また始まった」と思って呆れているが名前にしてみれば慣れていない。ぎゃあぎゃあ騒ぐ大柄の成人男性は見慣れたくはないが、困惑している。

「ななみさんは、ゆっくりだったし、目線もあわせてくれた、ので?先生より恐くないです」
「名前さんまで言う!!??」
「だってナナミン大人だし」
「僕だって大人ですけど!?」
「やーい28歳児」
「中身も大人になってください」
「先生28歳なんだ…」
「え…待って、名前さん…今の、どういう意味」
「28にもなってその落ち着きのなさは無い。というあたりでは」

五条が名前を見れば名前はサッと目線をそらす。
その様子が面白かったのか周りの人間は笑いだすし五条は五条で「七海のくせに!!」と七海に当たり始めた。

「やめてください。これから任務なので」
「うるせー!お前ばっかり!」
「それでは皆さん失礼します。名前さん」
「はい」
「何かあれば家入さんに言ってください、私も協力しますので」
「は、はい…?」
「そこは返事しないで!」
「ええ…」

七海なんか早く行っちまえ!!と子供の様に舌をだして手で「シッシ」と追いやる五条。
その様子に名前を含めた学生が「ないわ」と言わんばかりの顔をしている。
最初こそ驚いたが名前という人間にはそれほど大きな害はなさそうだと七海は判断した。
五条がそばにいることは脅威であり最大の安心だろう。それを本人がわかっているかは別として。五条本人が名前に危害を加えることはないし、その気がない害は学生たちがいる。普段の行いが悪い五条に対応できなくとも、だ。


「伊地知くん」
「はい?」
「君は名前さんの件、知っていますね」
「え、あ……はい」
「私の所には来ていなかったのですが」
「五条さんが高専内だけの、と言いまして…」
「そうですか」
「お会いになったんですね」
「ええ、驚きました」

任務に向かう車内。
伊地知の「名前さん、とても穏やかで呪術師じゃなければああいう人なんでしょうね」という言葉に七海は黙って頷いた。

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