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『ちょっと名前、夏油くん説得して』

名前の電源が入ったスマホに鬼電がかかってきた。
ディスプレイには「実家」の文字。
名前が嫌そうな顔をしていれば、夏油に「出なよ」と言われたので渋々出れば開口一番それかよ。という名前の心の声。

「…なに?どうしたの」
『夏油くんがウチを辞めるって連絡してきたのよ!』

「なに傑、お前名前の家辞めんの?」
「うん、そう思って昼間連絡した」
「上手くやってたんだろ?名前から聞いてるぞ」

「夏油くん、辞めるの?」
「うん、そう思って連絡したよ」
「辞めるって」
『そこに夏油くん居るの?』
「酒飲んでる」
『さ、酒?アンタ今どこにいるの!退院したばっかりなんでしょ!』
「…友達の家。1人だと急な体調変化がわからないからって」

「物は言いようだな。まあ名前にしては良い言い訳だ」
「てか傑、お前なんで辞めんの?行った時楽しそうだったじゃん」
「物は言いようだね、悟。別にあそこが嫌というわけじゃない、集まる猿に嫌気がさしたのさ」
「でもお前一度帰らないとだろ?荷物とか」
「別に捨ててもいいものだし」

『名前からも説得してちょうだい!』
「私にできる説得なんてないよ?というか、私じゃなくて本人に言いなよ」
『出てくれないのよ!アンタ夏油くんと友達なんだから、それくらいしなさい』
「なんという難題。もう本人に代わるわ」

はい。と渡される電話。
色々と面倒になったのか受け取った夏油はスピーカーにして電話に出る。
圧倒的強者だ、と名前は思いながら五条が名前用にと用意してくれたジュースを飲む。

「はい、もしもし」
『夏油くん!?どうして家を辞めたいの?お給料?』
「いえ、そういうのではなく」
『なんなの?夏油くんに辞められると困るのよ』
「私は困りませんよ?」
『次の職場は決まってるの?』
「はい」
『そ、そうなの?どこ?』
「名前さんと同じ職場です、復帰しようかと思いまして」
「え、そうなの!?」
「ファー!!!」
「ウケる」

じゃあ辞めるよね。と名前が言えば家入はゲラゲラ笑うし五条は自分のスマホで動画撮影を始める。
個人的、というのか業界的に、と言うのはわからないが特級の夏油が呪術師に復帰するのは大変喜ばしい事だろう。簡単に言えば特級が入ればその分任務が少なくなる。

「お母さん、夏油くん復帰するなら家辞めるよ、給料段違いだもん」
『名前?』
「時給計算だと普通の企業の社員じゃ比べ物にならんもんな」
「私も家に就職しないな、安月給だもん。つーか帰りたくねえし?損しかないし」

それ食べたい。と家入がつまみにしている物に手を伸ばし、食べる名前。
五条は相変わらずスマホで動画を撮っているし、家入は飽きたのか名前と一緒につまみを食べ、他に何か無いのかと五条に言っている。

「冷蔵庫漁っていい?」
「いいよ、好きなの持ってきな」
「硝子なにがいい?」
「任せる。五条の冷蔵庫に不味いもんないし」
「わかる…」

まだ名前の母親が夏油と話し合いにならない話し合いをしているのを眺めつつ、名前は冷蔵庫まで行って中身を漁る。
あまり戻らない部屋なので物自体は少ないが、今は夏油が居るから多少生活環がある。
コンビニの総菜だったり、スーパー、ラベルとみるとデパ地下の物まで幅広い。
適当にサラダとチーズを手に取り、ついでに冷凍庫を漁ると限定のアイスが数個。

「五条くーんアイス貰っていい?」
「いーよー。好きなの食べな」

一番食べてみたかった味を手にしてスプーンを持ち、飲み会の現場に戻る。
先ほどに比べ名前の母親の勢いは弱い。もうすぐ終わりそうだ。
夏油に口で勝てる人間は夜蛾くらいだろう、アレはクチではないかもしれないが。

『どうしても、辞めるのね?』
「はい、辞めます」
「粘るねえ」
『名前、いるんでしょう!』
「お?なに?」
『夏油くん辞めるって!』
「うん、聞いた。アイス溶けるから食べたいんだけど」
『アイス!?あんた退院したばかりでそんなの食べて…もう少し家の事気にしなさい!』
「………そうね」
「そんな名前をイジメないでください」
「硝子、あれイジメてるの?」
「いや、ごく普通の一般家庭の親子の会話だろ。これ美味いな」
「前それ硝子気に入ってたから同じ店で買った」
『名前もたまには帰ってきなさい!年末帰ってこないで』
「入院したしな」
『さっきから入る声はどなたなの』
「高専の同期ですよ」
『え』
「あれあれ、夏油くんと一緒にカレンダー撮った五条くんも居るよ。ついでに美女の友人も1人」

言えば名前の同級生勢ぞろいだ。
呪術師をしている五条を先頭に、ここ高専に居る3人は何かあると集められて五条のご機嫌取りではないが一緒に飲み食いをして五条がニコニコするのが通例だった。
ストレスの多い仕事だ。気の置けない友人と五条は思っているのか知らないが、女性二人にしてみればタダ酒にタダ飯と有難い限りだ。

「なにより私、今朝がた見た夢にお兄ちゃんが出てきまして」
「傑兄貴居たっけ?」
「猫のスグルだよ。その猫が言うんですよ、名前が心配だから名前の傍にいてくれないかって」
『ええ…そんな、優まだ』
「え?死んだよ」
『え!?そ、そうなの!?なんで言わないのよ』
「言ってどうするの?あっそ。で終わるじゃん」
『ま、まあ…』
「そしてその兄の言いつけの通り、兄の妹である名前の傍にいようかと」
「別に私優の妹ではないよ?」
「ぎゃはははははは」

本気か何なのかわからないが、真面目に語る夏油に普通に突っ込む名前。
家入と五条はそれが何故がツボにはまり、仲良くゲラゲラと笑いだした。
すると名前の携帯から『もういいわ』と呆れた声が聞こえ、プツリと回線が切れる音。どうやら名前の母親は諦めたらしい。

「これからは一緒だよ、名前」
「「「キッショ」」」

暫く名前も一緒になって笑っていたが、段々と体調が悪くなって家入に怒られた。

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