呪術 | ナノ
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「えー…」

スマホのディスプレイに「悟」の文字。
久しぶりに親友からの着信に、夏油は少なからず驚き、戸惑った。
自分が呪術師ではなく、同級生の実家に就職すると言った時の心強い味方の最強の親友。
彼は今現在最強であって教師をして、また各地を飛び回っている。
その彼からの着信画面見ていると、ぷつりと切れて着信があったというポップアップ。
それから時間をおいて掛けなおせば『あ、やっほー!元気?』と実に呑気な声だった。
久しぶりに声でも聴きたかったのかと思って夏油がふにゃりと笑えば、実際はそんな可愛い内容ではなかった。
『実はさ、厄介な特級呪霊がでて宣戦布告してきたんだ。手伝ってくれない?』とまるで「明日遊ぼうぜ」という学生のノリでこの最強は言ったのだ。

「呪霊が宣戦布告?ありえないだろ」
『そう思うじゃん?討伐に当たった名前が瀕死の重体。その呪霊が高専に現れて名前を投げてきた。呪詛師が噛んでる可能性もあるけど、今は調査中。そもそも呪霊が人間の言葉や意思疎通ができるなんて聞いたことない』
「名前が重体?それ…!」
『硝子の反転術式で回復したけど、1週間は安静にしろって。決戦は名前の回復予定日。昨日だから、まあ6日後ってところかな』
「名前の様態は!?」
『意識はあるし、動ける。動けるってだけで、硝子曰く内面がズタズタで回復はさせたが弱った状態だ。安静にしないとデコピン一発で重体。ここまで酷いから任務はやらん方がいだろ、死にたくないならな。だって。補助監督か窓あたりをつけたいけど万年人手不足だし、今僕ん家の使用人を名前に当ててる』
「無事なんだ…」
『それを無事というなら、まあね。名前は優秀だから上としても切り捨てるには惜しいんだろ、珍しく休養要請が出たし。で、来てくれる?』
「………こっちも上に掛け合ってみるよ。もっと猶予があればな。まあ最悪辞めてそっちに行くよ」
『いいの?お前こっちのほぼ全員の反対押し切って名前の実家就職したのに』
「私が辞めるのと1週間の休暇、こっちにとってどっちが有益だと思う?」
『怖いねえ、お前。名前が実家乗っ取られないか心配するはずだよ』
「え」
『まあ早いに越したことはなから、すぐに来てよ。交通費は高専が出してくれるよ』

ゆっくり急いできてね。と変なことを言って電話は切れた。
夏油は呪術をやめて名前の実家に就職した。
それが学生の時、あの黒い渦の中にいた時に親友である五条悟と当時同級生の名前が手配して救ってくれたことに始まる。
ここは名前を筆頭に呪術師の理解はなく、名前はとても肩身が狭かっただろうと思う。しかしその反面、名前の両親たちは夏油を快く受け入れてくれた。
言えば非呪術師の世界だった。自分が守らねばならない、でも、何故?と悩んだ世界の人間たち。違和感は最初からあった。
夏油の目から見ても名前の兄と名前には差があったし、実子である名前と夏油にも。男が優遇されている。田舎である、ということもあるだろう。
今の時代に娘は東京で遊び惚けている。なんて名前の両親は客や取引先に愚痴るのだ。これでは名前だって「帰りたくない」と言うのも納得だ。
しかし、夏油は『呪術師』と言うものから逃げたくて、違和感のあるここに就職したのだ。
本来あるべきは特級という地位からも呪術師なのは明白だったが、逃げた。
そして場所を提供してくれた五条と名前。それが助けを必要とするならば助けない理由はない。

「明日から2週間ほど休暇が欲しいのですが」
「え…明日から?これから忙しくなるって言うのに?どうしたの」
「理由は必要ですか?有給申請に切り替えましょうか」
「いや、これから夏油くんを楽しみにしてくれる、ね?お客さんやらが、さあ」
「私は別に休暇でなくても退職でもいいんです」
「え…本当、どうしたの?」
「友人が大変だから来てほしいというので」
「ああ、あの白髪頭のイケメンくん?2週間か…仕方ない、新年まで親友くんの手伝いをしておいで。東京だろ?ついでに名前の様子も見てやってくれよ、彼氏がいないようならこっちに戻って見合いさせるから」



「だってさ」
「うっぜー!」

笑って送り出してくれた社長には感謝して、家入と五条の土産を買って新幹線に乗り込んだ。
新幹線に乗り込んですぐに五条にメールでそっちに向かっていると連絡し、駅に着けば黒いスーツを着込んだ神経質そうな補助監督が迎えに来ていた。
そこからすぐに高専に向かい、学長と五条に挨拶をすれば本格的な会議は明日だと言われ、それから名前の入院する病院に行ってお見舞いをしに来た。

「調子がよさそうで安心した」
「硝子のおかげ。明日には退院して自宅療養だって」
「五条家の、お手伝いさん的な人は?」
「入院中はお世話になるけど、自宅療養中はお断りした」
「悟が良く受け入れたね」
「そうしないと此処で結界術使って自傷行為に走るぞって」
「ああ、それは怖いな。名前自分の状態わかってるの?」
「わかってるから言ったんだよ。にしても、夏油くんが来るって、かなりヤバイね」
「悟のお願いに、名前が危ないって言うから。あ、ご両親には伝えてないからね、今回のこの重体」
「ありがてえ」

ふふふふ。と笑う名前の顔にも大きくガーゼが覆っているし、腕には管、四肢にも包帯。その病院着の中にも包帯がかかっているのだろう。
家入の反転術式をつかってるのでほぼそれがカモフラージュであったとしても、その体のダメージは大きいに違いない。

「スグルは?」
「優?死んじゃったよ、もう」
「え」
「お爺ちゃんだったら。今年の春くらいかな?学長にお願いして高専の敷地内に埋めさせてもらったの。美々子ちゃんと菜々子ちゃんの方が私より泣いてたな」
「そ、そう…なんだ」
「優、あの双子ちゃんの面倒よく見てたからね。そんな顔しないでよ、夏油くん何も悪くないのに」
「でも、私もスグルにはお世話になったし…じゃあ、後でお墓参りしようかな」
「場所は五条くんも硝子も学長も知ってるし、あとパンダも知ってるから」
「ぱんだ?」
「学長の最高傑作のパンダ」

えー?と夏油がいぶかし気にすると、名前はまた笑う。
しかし猫の死は夏油にとって思いの外ショックだった。名前が大切にしていたという事もあるが、自分も世話になったこともある。猫の世話、ではなく猫に世話になったのだ。
猿が煩わしい時、どこからともなくやって来ては「にゃあ」と鳴いて助け出してくれた猫。
同じ呼び名の猫。
不思議な猫だった。

「苗字さ…、ああ、夏油さん。こちらにいらしていたんですか」
「え…どちら様?」
「七海くんだよ、夏油くん」
「え」
「七海くん。ひとつ下の、七海建人くん」
「お久しぶりです」
「ま、まさか彼氏?」
「違います」

コンコンというノック音がして、名前が返事をすると金髪ベージュスーツの高身長の男性の姿。見慣れないサングラス。
名前の知り合いにしては名前の趣味とは到底思えない男性だった。
しかしその正体を知った夏油は思わず大きな声をだしてしまった。
個室でよかった。と思う所だろう。
大きな声を出した夏油に名前が笑った。
聞けば数年前に復帰したというではないか。

「学生の頃とは…随分変わったね七海」
「格好良くなったよね」
「ありがとうございます。これ、例の件の資料です」
「ありがとう」
「え、ああ…そっか、名前も参加するんだもんね」
「会議の参加はしないけどね。人使い荒いよ全く」
「それは同感です。むしろあの状態からすぐ参戦だなんて、これだから呪術師もクソなんですよ」

イスを出して、五条家のお手伝いさんがお茶を出してくれ、ついでにと品のいいお菓子が出てきた。
名前は食欲がないからと断り、夏油と七海はそれを頂く。そんなことであれば名前の地元のお菓子を持ってきたらよかったと思う夏油だが、ここでそれを出せば名前が嫌がるに違いない。五条家御用達のお菓子と地方のお菓子ではレベルが違いすぎる。

「でもなんで七海が来たの?」
「復帰直後は苗字さんにお世話になったので。昨日はまだ面談謝絶で。お見舞いも兼ねて。まあ夏油さんが居るとは思いませんでしたが」
「私も夏油くんが来ると思ってなかった。びっくりして私死んだのかと思ったよね」
「冗談にならない冗談やめてください。苗字さんご自分の状況聞いてないんですか?かろうじて呼吸があって死の瀬戸際だっただったんですよ?家入さんが綺麗にしてくれましたが、本来では自宅療養だって、退院だってまだまだ先なんですから」
「そうなの?詳しく七海」
「うわ、面倒な気配がする…」
「………苗字さんの身体の状態でいえば先ほど言った通り、家入さんの反転術式で外面だけは綺麗な状態に戻った、という事です。内面はボロボロ。上はすぐに戻れというので1週間しか休みを与えなかった、という事です。家入さんは……ひと月は休ませたいと」
「悟は?」
「五条さんですか?今学長と」
「違うよ、知ってるのかって聞いてるの」
「……知っていますよ」
「私が聞いた話と違う」
「五条さんの親友である夏油さん、貴方呪術師を退いて五条さんがどんな人か忘れたんですか?」
「……ああ、そういうこと」

確かに動ける。自由にではない。
1週間で回復。万全ではないが動けないこともない。
元気。死んではないから。
あらかたそういう事なのだろう。
五条の性格を思い出して大きなため息をつく夏油。
いや、確かにそうだった。五条には反転術式がある、だからこそ他人の状態には疎い。

「…七海は名前が6日後に戦場復帰には賛成?」
「まさか。五条さんならまだしも普通の呪術師には無謀でしょう」
「私も反対。名前、君馬鹿なの?」
「上に言ってよ。私がしたくてするんじゃないし?まあ学長か五条くんがちょちょいってしてくれれば高専内警護になるかもだけど、結界術重要視されると前線配備だよね」
「七海、会議は明日だけど君も参加?というか、今何級?」
「1級ですが」
「じゃあ名前を私近辺配備にするから、君も賛同して。七海も近辺に配備しよ」
「宣戦布告の時点では東京と京都の2カ所ですよ?」
「特級も今2人だろ?」
「3人です」
「3人だよ」
「え、九十九さん戻ったの?」
「ううん、乙骨憂太くん?今1年の男の子。五条くんに聞いたり、高専で気配感じか無かった?特級過呪怨霊に呪われてるの。彼学生だから高専待機だけど」
「聞いてない…え…特級過呪怨霊?どんな呪霊?強い?過呪怨霊だもん、強いよね。え、欲しい…」
「貴方何しに来たんですか」

呆れた七海の声が病室に重く響いた。

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