呪術 | ナノ
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五条から夏油と猫の帰りのチケットと、名前自身の往復とチケット受け取って名前は1カ月ぶりに実家に戻る。
連絡は前もってしてあった事もあり、名前が新幹線を降りて改札に行くと父親だけではなく夏油の姿もあった。
顔色はよく、表情も悪くない。高専から離れて気分転換ができたのだろう。
実家に向かう車の中では父親がいかに夏油が真面目でいい青年だったかを名前に熱弁してくれたが、高専での夏油を知る名前にとっては「へ、へえ…」という言葉しか出ない。
最後には「このままうちに就職してほしいくらいだ」という。これには夏油も苦笑いかと思えば、普通に笑って流していた。それは少し意外だった。

「すぐる!」
「んに!!」

実家について車から降りれば黒猫がとトトトと軽やかに小走りに名前に近づき、名前は膝をついて猫を抱き上げた。1ヶ月ぶりの再会だ。

「いい子にしてた?」
「いい子だったよ」
「そっか。よかった」
「私も助かったよ、色々」
「優お兄ちゃんしたんだ」
「うん、お兄ちゃんだったよ、本当」

そのまま家に入って「ただいま」と言えば、奥から母親が出てきて「また夜に帰るでしょ?夏油くんの事もあるからさっさとしなさい」という小言をひとつ。
ご飯を食べて、猫の優を持ち帰るための準備をしつつ夏油はどうだったかと親に聞いてみる。
案の定「夏油くんいい子よ、このまま就職してほしいわ。優秀よ、彼」と絶賛している。
しかし名前としては、実家に帰ると友人がいるという状況は避けたい。夏油や五条でなければいいが、夏油も嫌だ。まあ実際そうなることはないだろうが。
夏油も嫌だろう、同級生の家に就職だなど。
ばたばたと準備をして、見送りだと今度は母親まで車に乗り込んだのには名前も驚いた。それだけ夏油を気に入っているのだろう。夏油は外面だけはいい。

「お世話になりました」
「なに、また嫌になったら逃げておいで。こっちは大助かりだし大歓迎だよ」
「そうそう。嫌になったら家に就職してもいいのよ、お客様にも評判良かったんだから」
「はははは、ありがとうござます」
「いってきます、ばいばーい」
「夏油くん、娘のこと頼んだよ」
「はい」
「頼まないで!返事しないで!!あらぬ誤解が生まれるから!」
「誤解?」
「五条くんと付き合ってるのかとか言われたの!硝子に!!」
「…へえ、そうなんだ」
「ほら、夏油くんに迷惑かけないのよ」
「かけないよ!あああ、優、ごめんね、揺れて嫌だったね」
「私にも優しくしてよ」

もう十分優しくしたつもりだけど。と少し意地悪で言えば、「そうかもね」と夏油は悪戯っぽく笑う。
名前の母親が持たせてくれたお弁当を新幹線の中で食べ、お茶と少しのお菓子を食べながら雑談をして道中を過ごす。

「私、案外名前の家の仕事向いてるかも」
「ええ…」
「お客さんにも色々言われてね、名前の同級生で今お世話になってるって言ったら名前の話題もあって」
「聞きたくない…」
「小さかった名前ちゃんもこんな彼氏がいるのかとか」
「勿論否定したよね?否定してくれたよね?」
「名前の小中の友達の親とか、名前の同級生にもあったよ」
「ちゃんと同級生ですって言ったんだよね」
「……(ニコ)」
「なに!?その笑顔!怖いよ!?」
「名前の両親にも名前をよろしくって言われたし、実質これもう私たち恋人だよね?」
「ちげーかんな!?」
「冗談だよ」
「わかんねーんだよ…」
「名前って、焦ったり混乱したりするとそうなるの?それが素?」
「…質が悪い人に合わせて悪くなるんだと思うよ」

キャリーに入った猫が文句を言うよに「にい」と短く鳴く。
それに夏油が「いじめてないよ」と言うから名前は思わず笑ってしまった。
1ヶ月で猫のスグルと人間のスグルが仲良くなったのだ。
名前が「仲が良いね」と言えば、夏油も夏油で「一緒に寝た仲だからね」と同じく楽しそうにして答えた。

新幹線を降り、改札を出て、補助監督が迎えに来てくれていた車に乗り込む。
顔なじみの補助監督という事もあり、夏油が返ってきたことを素直に喜んでくれた。
ついでに夏油がいない間の五条の働きっぷりを言うから、少し夏油の顔に陰りが入る。
フォローのつもりではないが、名前も「でも。夏油くんがいないと大変だったんだよ」と付け足した。
お礼を言って車を降りて、荷物を持って寮まで歩く。ここで猫を外に出してあげたいが、足が汚れてしまう。実家では気にしていないが、流石に家族ではない人間がいる場所では名前も気を遣うのだ。

「よ」
「…やあ、悟」
「おかえり傑。名前も、猫の方のスグルも」
「ただいま。名前の実家は居心地が良かったよ。悟も私が居なくて居心地が良かっただろ?」
「はあ?」
「んにぃ!!」
「優…?」
「…わかったよ、私が悪い言い方をした」
「…なに?お前、猫と話せんの?」
「1ヶ月一緒に居れば大体の事はわかるよ。名前の家で呪術師から離れて、忙しいけど誰も怪我も死にもしない世界は居心地が良かった。でも、特級としての私は居心地が悪くてね。何してるんだろうと何度も思ったよ」
「……あ、あの、私、行ってもいいかな…」
「駄目。まだ居て」
「随分口調が優しいじゃないか悟。名前が言ってたけど、硝子にも悟と名前が付き合ってるのか聞かれたらしいじゃないか」
「あ?それがどうした?」
「私は名前の両親から直々に娘をヨロシクって言われてるんだからね」
「……あ?お、おお?」
「彼氏面しないでもらえるかな」
「え?なに?傑、お前名前の実家で変なもん食った?」
「疲れたから寮に戻りたい。優…狭いところゴメンね…」
「リフレッシュには、なったかな。ちなみに名前の家のご飯は超旨い。まず米がいい。味噌も塩も美味い。野菜が新鮮。今度私にも野菜とか米とか送ってくれるって言ってたからそれを楽しみにしてる。あと蕎麦が好きだって言ったら沢山持たせてくれた」
「何それ…聞いてないよ…うちの親めっちゃ夏油くんの事気に入ってるじゃん…こわ…」
「だから実質私が彼氏!」
「いや、違うだろ…」
「五条くんがまともだと…!?」

うっせ!と大きな声で言って、力が抜けたのか「寮の共同スペースで話そうぜ」と五条が切り出す。
そもそも外で話すことではないが、もう男子2人で話せばいいのだから共同スペースの意味がわからない。と名前は思う。共同スペースで、となれば名前を真ん中に立たせるつもりなのだ。
案の定寮の自室にいれば名前の携帯が鳴って『共同スペース早く来いよ』と電話で言われてしまった。
名前は溜息をついてから自由になった猫の頭を撫でて「行ってくるね。お風呂入りたいのにな」と愚痴る。

「あ、硝子もいる」
「おかえり。私逃げるけど」
「え」
「クズの相手してらるか。名前も逃げな」
「残念、召喚したから帰さない」
「うげ。あ、土産は?」
「今回なし!」

残念。と笑って家入は逃げて行った。

「名前、これ報酬」
「報酬?なんの?」
「傑の世話代」
「いや、んー…世話、えー…?んん−…」
「どうした」
「いや、実際我が家夏油くんがいて助かったし、交通費は出してもらったし…報酬を、もらうっていうのも…変、かなぁって」
「貰いなよ。私の送り迎えの人件費だよ」
「ええー…ん、じゃあ、優のお給料という事で」
「猫かよ」
「実際猫には助けてもらったからね、私」
「まじ?」
「色々聞かれそうな時とか。特に若い女性客なんて面倒でね、彼女いるの?とか煩い猿かよって感じで。スグルが来ると大抵猫に寄って行くし」
「へえ。賢いな」
「本当だよ。猿の相手をしなくていいんだ、流石名前を追いかけてくるだけある猫だよ」
「2人、仲直りしたの?」
「まあ、そんな感じか?あと、これもやるよ」
「いや、アイスあるなら先に頂戴よ!溶けちゃうじゃん」
「食べごろだろ」

食べ頃は!私が決めるの!と名前は渡されたアイスを急いで冷凍庫に入れた。

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