呪術 | ナノ
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「…それ、猫?」
「うん、優」
「持って行くわけ?」
「うん。優、賢いから夏油くんの助けになると思って」
「傑の?」
「そう。私に一番懐いて、追いかけてくるくらいなの家族知ってるから。何かあっても優がにゃーって言えば夏油くん逃げられるでしょ?」
「そういう…じゃあ猫の分も金払うから。あとで請求しろよ」

早朝荷物を持って夏油が来るのを待っていると五条がやって来て新幹線のチケット渡しつつ、猫のスグルが入るキャリーを見て言った。
「え、ちょ、そんないいよ」という前にさっさと行ってしまったあたり、夏油と顔を合わせる前に、という事なのだろう。
今までの五条がどういう風の吹き回しだろう。昨晩家入に事情を話すと家入は家入で「明日は槍か矢が降ってくるんじゃね」とケラケラと笑っていた。

「…おはよう名前」
「おはよう夏油くん。珍しい、ポニーテールだ」
「変かな」
「ううん。いつもお団子だったからちょっと新鮮」
「それ、スグル?」
「うん。夏油くんの面倒みてもらうの。ね、優」
「にー」
「…私の?」
「うん。きっと頼りになるよ」

変なことを言うなあ。と言わんばかりの夏油。
駅までは補助監督が送ってくれるというので厚意に甘えることにして車に乗り込む。
少しばかり空気が重いが、それの仕方がないと割り切って黙ったまま。
駅について補助監督に礼を言って車を降り、猫の運賃を支払うのに窓口まで行く。

「ねえ、猫、いいの?」
「いいって?」
「ほら、名前を追いかけて来ただろ?」
「にー」
「いいって。お兄ちゃんが助けてやるって言ってるよ」
「お、おにい?」
「苗字家では、優の方がお兄ちゃんだから。弟分の夏油くんを助けてくれるって。昨日話してあるから大丈夫」
「…そ、そう?」

それから朝ごはんを買うために動いたが、名前は猫がいるからと食品のところは夏油に頼み、ついでにお土産を適当に頼んだ。
暫く待ち、両手に大荷物になっているを驚きつつ、時間を見てホームに行って新幹線に乗り込んだ。

「凄い量」
「何がいいかわからなくて。任務がない新幹線って初めてだ」
「忙しいもんね」
「好きなお弁当選んで、私の好みに寄ってると思うから名前の後に食べるから」
「いいの?」
「いいよ」

ガサガサと漁ってみていると、夏油に似合わない可愛いお弁当が見えた。

「あ、それ名前が好きそうだなって思ったんだ。どうだろ」
「可愛い。私コレ貰っていい?いくら?」
「ご馳走するよ、気にしないで」
「でも」
「いいよ」
「五条くんに、請求する?」
「しないよ…私そこまでしそう?」
「ごめん」

少し笑ってから2人で並んで小さく「いただきます」と手を合わせて食事を開始する。
任務があればもう朝食を取って現場にいたり、授業に出ている時間だが今回は違う。遅い朝食だ。
これが美味しい、それ美味しそうと楽しむ。
時折猫の様子を見つつ、何とか時間を過ごして目的の駅で降りる。
半日まではかからないが、およそ半日はつぶれてしまった。

「これから電車かなにか?」
「ううん、お父さんが迎えに来てくれてるって。改札のところに…あ、お父さん!」

名前が手を振る先を見れば中年男性が1人こちらを見て手を振っている。
それが父親だというのはすぐわかった。
名前を見て「名前!」というのだ。
夏油はその男性に一礼して名前の後ろについて歩いて行く。
夏油から見れば背は低いが名前よりは背が高い。夏油から見ればガタイが良いとは言えないが、一般的にはガタイが良い方だろう。
挨拶と自己紹介をすると名前の父は笑って「いやー助かるよ」と言う。

「あ?なんだお前、優まで持ってきたのか」
「うん。夏油くんのお世話してもらうの」
「…君もスグルか…はははは!うちでスグルというと1人と1匹来ちまうな!」
「優はお父さんが呼んでも来ないよ」
「ま、この猫は名前にべったりだったからな」

飯は食べたのか。という問いに食べていると名前が答え、そのまま車に乗り込んで実家に向かう。
その途中で名前の父から夏油に色々と質問があり、緊張しつつもうまく受け答えができるあたり優秀さを出す夏油。
道中ですっかり気に入られるあたり、流石である。
家に着き、名前がキャリーから猫を出すと猫はぐぐぐと伸びをする。狭い空間はやはり猫でも窮屈なのだろう。

「君もお疲れ様」
「………に。」
「よし、お家行こうね。夏油くんも行こうか」
「はーい」

玄関を開けて、名前が「ただいま」と言えば家の奥から女性の声で「はーい」と聞こえる。パタパタと足音がして中年女性「おかえり、名前。いらっしゃいゲトウくん」とにこやかに挨拶をしてくるので夏油も営業スマイルで挨拶をして頭を下げる。
玄関を上がり、居間に通されて名前の母親がお茶を出してくれた。

「遠いところ大変だったでしょ」
「いえ、それほど。これ、よろしかったら」
「まあ、ありがとう。ところで名前、貴女いつまで居られるの?」
「夜の新幹線で戻るよ」
「え、そうなの…?」
「急なのね。優も帰るの?」
「ううん、夏油のくんのお世話してもらうから置いて行く」
「はあ?何言ってんの。人に猫の世話押し付けるんじゃないの」
「夏油くんのバイト終わったら連れて帰るからいいの。ねー優」
「んに」
「まったく。その子アンタ以外に懐いてないでしょ」
「大丈夫だよ、優ちゃんと出来るって約束したから」
「仲が良いんだね」
「まったく。この子ったら小さい時からこうなのよ、学校で迷惑かけてない?人の気が引きたくて変なことばかり言うのよ」
「名前さんはとても真面目に過ごしていますよ、とても人の事を見てくれて心配もしてくれて、とてもいい同級生です」

思う所、というよりも境遇としては同じなので貶されているのは許せないと言わんばかりに口調が少し強い。
むしろ、高専は名前と同じ人間の集まりだ。仲間を思えば肉親とて反抗を、思らずしてしまった。
そこに名前の父親が戻り、一緒にお茶を飲んでから夏油が使う部屋へ案内された。
そこは普段使っていない奥の客間らしい。あとでテーブルと布団を持ってくるからと言われ、夏油は素直に「ありがとうございます」と礼を言う。

「夏油くん、これ優の診察券。こっちで様子おかしくなったらこれを使って、動物病院は家族皆知ってるから」
「わかったよ」
「後でお兄ちゃんが戻ってくるけど、まあ、それなりに仲良くしてね。夏油くんなら大丈夫だと思うけど、ほら、お母さん言ってた通り、ここだと私変わった子だから」
「名前は変わってないのにね、わかったよ」
「じゃあ、明日から頑張る夏油くんの職場見学行こうか」
「え?」
「優もおいで、みんなにタダイマーってしようね」
「…んにぃ」
「うわ、いたんだ…ああ、ゴメン、気づかなかったって意味だよ」
「さすが同じ名前だけあって気持ちわかるんだ」
「なんとなく嫌な顔されたのはわかったからね」

こっちだよ。と名前が夏油を案内する。
足元には黒い猫を引き連れて。
案内された先に行けば名前を見つけた人が「おや名前ちゃん、帰って来たのかい?彼氏?」と大抵同じことを言ってくる。そのたびに名前が「違うよ、学校の同級生。知ってるくせに」と名前が笑って答えていた。
気が付くと猫がおらず、名前に言えば「ここには入ってこないの、外で待ってるよ」というので、実際終わって外に出るとどこからともなく猫が姿を現した。

「さて、では私東京戻るね」
「うん…色々、面倒かけて悪いね」
「ううん、私はいいの。優、夏油くんのお世話頼んだよ?」
「んにい」

名前が猫を抱っこして鼻キスをすると、名前が驚いた顔をする。

「どうかしたの?」
「へ…あ、ううん。なんでも、ない……はい、夏油くん。優抱っこして」
「え、っと、こ、こうかな」
「そんな感じ。じゃ、夏油くん優の事よろしくね。優、夏油くんの事頼んだよ」
「なんか変な感じ。私もスグルだよ、名前」
「そう、だね。へへへ。すぐる、すぐるをよろしくね。」

じゃあね。と名前は父親の運転する車に乗り込んで、窓を開けて1人と1匹に向かって手を振る。
エンジン音が遠ざかり、車の姿が見えなくなると猫は体をねじってストンと地面に着地して「に」と夏油に向かって短く鳴いた。

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