呪術 | ナノ
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「面白くなーい」
「私もー」
「………」

名前と七海が仲直りして面白くなーい。と特級の声が重なる。
家入が戻り、七海が回復して現場に戻った。万年人手不足で喘ぐ呪術師の復帰は現場にとってとても大きい。まして七海は1級だ。
そして七海と名前が仲直りして面白くないと喚く特級。
あのまま離婚してしまえと思っていたが、七海が入院して数日で名前が七海の病室に通っているのを知って驚愕した。

「看護師に言い寄られただろ、なんで手出さないんだよ」
「ぜーったい、居たよね?七海に連絡先寄越した女。私たちは怒らないから出しな?」
「貰っていません、断りました。人を陥れようとするの止めてください」
「おもしろくねー」
「私が名前を慰めてあげるのに」
「結構です。すでに仲は回復しましたので、不要なお気遣いです」

がるるるる。と犬のように唸らんばかり。
名前を2人が狙っている。という七海の忠告に名前は「い、いのちを?」という勘違いをしたまま。
その2人が何故1級呪術師の命を狙わねばならないのかと聞きたいが、勘違いをしたままの方がよさそうなので黙ったままでいる。

「あ、お疲れー」
「お疲れ名前」
「お疲れ様です」
「五条くん、1年生たちが探してたよ。体術見てくれるって言ってたんだけどーって」
「あ、忘れてた」
「駄目じゃないか悟」
「夏油くんは新田さんが探してたよ、打ち合わせの時間が近いとか」
「駄目じゃん傑」
「で、名前は休憩?」
「そ。1級呪霊かと思ったら3級に格下げ。明日以降に1年生の課題になるみたい」
「そんなことってある?」
「あったの」

まあ私、これで終わりだからいいんだけどさ。となんとも上機嫌である。
激務が続いていたのだから早く上がれるのはいい事だろう。1級だから1級だけ、ではないのだ。今回の件は学生の実習に使えるという判断からだろう、普段であれば1級であっても任務にあたる。

「名前、もう七海と仲直りしたの?」
「……した、よ?」
「何です、その間は」
「いいの。気にしないで」
「気になるな…七海とケンカしたら私のところにおいで、味方になるよ」
「僕もー!」
「なにかあったら、硝子のところに行くから。気持ちだけもらっておくね」
「気持ちだけじゃなくて私も貰ってほしいな」
「じゃあ僕は名前貰うかな」
「や め ろ。人の妻にちょっかいを出さないでください!」
「僕なら名前とケンカなんてしないけど」
「火傷はさせたけどね」
「ぅぐっ!」

名前の会心の一撃。名前の一言に五条が胸を抑えるが、まあパフォーマンスなので誰も気にしない。
他人が言うよりも名前が言うのが一番効果的なのが無駄に証明されてしまった。まあ当の名前からしてみれば、これを言うと黙る程度の事で正直そこまで気にはしていない。家入のおかげで痕も残らずに過ごせているおかげだろう。

「それではお疲れ様でしたー。あ、忘れてた」

ポケットを探って名前が何か握ると七海のスーツの上着にポイと何かを入れ、「それじゃ今度こそお疲れ様でした」と名前は手をひらひらとして休憩室から出て行った。

「何入れたの名前」
「飴なら僕貰うけど」
「名前が七海に飴あげるとは思えないな…七海飴食べないだろ」
「なんでもいいでしょう。それではそろそろ任務の時間なので、お先に」

七海はさっとポケットを探ろうとする2人を手で遮って逃げるように退室して任務にあてがわれている補助監督が待つ駐車場に急ぐ。
その途中でポケットの上から形を探り、撫でた。


任務が終わり、名前が投げ込んだ鍵を持って名前の高専の部屋の前に立つ七海。
返ってきたという事は、そういうことだろう。
インターホンを押すとスピーカーから名前が『はい』という声が聞こえた。

「な、七海です」
『あれ?鍵渡したけどわからなかった?』
「あ、開けても、いいんですか」
『いいよー。』

アッサリと入室の許可が出る。
返された合鍵を恐る恐る鍵穴にいれ、回せばかちゃりと開錠の音。
あの特級の同期だ、もしかしたら合鍵と見せて偽物かもしれないと疑った七海は反省をする。クズの同期とはいえ、クズではない。深呼吸をしてからドアを開ける。
玄関には名前の靴とサンダルがある。可愛らしい装飾もなく、色も暗く、仕事用と、少し外に出るためのものだというのが実に名前らしい。
いつだったか「可愛い靴も、サンダルも、ヒールも服も欲しいけど、着る機会と使う時がないんだよね」と言っていたのを思い出してしまった。
あっても使わなくて物が可哀想、それなら使ってもらえる人のところに行った方が絶対にいいよね。と笑っていたのだ。
確かにその分、名前の持っている物はボロボロになるまでそのままだった。

「た、ただいま、戻りました」
「この場合、『おかえり』って言うのが正解なの?」
「おそらく」
「お、おかえり…なんか、変な感じがする」
「まあ、私の部屋というより名前さんの部屋ですから…」
「そ、そうですね…私の、部屋ですからね」

へへへへ。とへにゃりと困ったように笑う。
七海が入院中に色々と話し合い、七海と名前は和解した。
和解というよりもお互いの考えのすり合わせだった。
名前も七海が思っていたことを素直に受け止め、理解したし、七海も同じく名前の心情を受け止めた。
ただ、名前が自分をアイドル的な立ち位置にしていたのには正直驚いた。
七海から見れば名前は十分呪術師としての地位もキャリアもあると思っていたし、むしろ自分よりも断然上だろうとさえ思っていたのだ。
あの特級と反転術式を持つ人間たちの同期で結界術に至っては東京では右に出る者はいないとまで言われているくらいだ。何もできないと思っていたことにむしろ七海は驚いた。

「…ご、ごはん、どうする?」
「作ったんですか?」
「ううん。ほら、時間わからないから、食材はあんまり買ってないの、知ってるでしょ?デリバリーか、外食か……冷食、かな」
「では、2人でこれから買いに行きませんか」
「外食?それとも冷食…あ、お持ち帰り?」
「いえ、食材です。まだスーパーも開いていますし」
「今から?スーパーだって、まあまあ距離あるよ?」
「話す時間があっていいじゃありませんか。手など繋いでみませんか」
「すごい…デートみたい。でもな…ほら、私呪具もってるから、一般的な女性の手じゃないし…」
「私だって持っています。名前さんの手は私だけが知っていればいいんです、他は関係ありません」
「な、なんで七海くん私と結婚したんだ…これならもっといい人見つけられただろうに……モテ男こわい…」
「じゃあ行きましょうか」
「え、うわあ」
「何が良いでしょうね、名前さん何ができますか」

名前の手を引いて玄関に向かい、名前に靴を履かせて七海も履く。
そうだ、今度可愛らしい靴と服も買いに行きましょうね。と七海が言えば、名前は「へ、…え、えええ!?」と驚いた顔をした。


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