呪術 | ナノ
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『苗字さん、七海さんが怪我して入院することになりまして…』
「え」
『今家入さん出張で不在でして……』

苗字さん、七海さんの事をお願いできないでしょうか。という伊地知からの電話に名前は戸惑った。
ケンカ、というよりも名前の我儘で冷戦中なのだ。
あれが名前の我儘だという自覚はある。
結婚を軽く考えていた名前に非があるのだ。七海は悪くない、と名前は思っている。いや、多少は悪い、かも?と頭を傾げる。

「鍵、ない…んだよね、」
『預かっていますので、なんとか…』

伊地知は知っている。七海と名前の関係を。可愛い後輩であり、とてもいい補助監督である。
名前は電話口で「わかった」といえば見えない伊地知がほっとした様子なのを察した。
伊地知の気遣いなのか、七海がそうしてくれと言ったのかは知らない。でも、伊地知に迷惑はかけられない。
数十分後に伊地知から七海の部屋の鍵を渡され、名前は渋々七海の部屋に入る。
七海の部屋には数回行っているが、誰もいない時に行くのは初めてだ。

「お、お邪魔しまーす…」

誰もいないけど。と自分で突っ込む。
寝室に行ってクローゼットをあさり、必要な着替えを数セット持ってきた紙袋に入れていく。ついでに読みかけらしい本と、本棚にある小説を数冊。スマホの充電器に、筆記用具…は必要だろうかと悩んでとりあえず投げ込む。
次にキッチンに行って病室内でも口に入れられそうなお菓子を探したが、それらしいものは見つからない。前に名前が持ってきた日持ちするお菓子が隅に追いやられているのを見つけたくらいだ。次があるならドリップコーヒーあたりが七海は消費しやすいのかもしれないと名前は思った。
それから病院に向かう途中でコンビニで歯みがきセットに他愛もないお菓子をひとつ買って袋の中に忍ばせておいた。
病室個室でノックをすれば、中から七海ではない声が「どうぞ」という。
五条だ。

「あ、名前じゃーん」
「え、名前さん?」
「…なんで、五条くんと夏油くんがいるの?」
「お見舞いだよ。七海が怪我して入院だっていうから」
「そーそー。硝子まだ戻れないっていうから入院。運がないねーお前」
「ふうん?これ、一応必要なもの持ってきたから」
「今冷戦中なんだっけ?」
「うるさいですよ。お手数おかけします」
「いいえ、お気になさらず。置いて行くのでご自由に。他必要なものはご自身の出来る範囲でお願いします。鍵、お返しします」
「すごい他人行儀…七海、本当君名前に何したの」
「名前ーこれから一緒にお茶しない?」
「しない。任務はいいの?特級のお2人」
「私は時間を見つけてきたんだよ、そしたら悟が居たんだ。そろそろ私出るけど、名前高専戻るなら一緒に行く?」
「車借りてきたら」
「送って?」
「えー、じゃあ僕も高専戻ろうかな」
「夏油さん!やめてください、五条さんも」

ガルルルルと威嚇するように唸る七海。
すると2人は「怪我に障るよ」とケラケラと笑う。揶揄って遊んでいるのだ。

「怪我人で遊ぶなんて趣味悪いよ」
「あのスカしてた七海が名前が絡むと面白いんだもん。僕の可愛い名前奪うし、いい気味だね」
「そうそう。一番名前に興味ありませんみたいな顔して名前のこと攫うんだもんな」
「お2人はもう結構です、さっさと帰ってください」
「じゃ、私戻るから」
「名前さんは!………すこし、よろしいですか」
「「だめー!」」
「え、え?」
「名前は僕らと一緒に高専に戻りまーす」
「1人寂しいだろ?今日久しぶりに飲もうよ、名前の好きなアイス買ってくるからさ」

わーい。と言わんばかりにアラサー男2人が同期の女性を中心にはしゃぐ。
一応は病院内なので小さめにしてはいるが、図体が大きいのだ。小さな動きでも大きくて邪魔だ。

「飲み会は行かないよ」
「なんで?冷戦中ならいいじゃん」
「そういう問題じゃないの」
「ね、私とちょっと火遊びしようよ」
「馬鹿じゃないの。ほら、怪我人がいるんだからさっさと帰るの」
「名前さんは、少し待ってください」
「名前帰ろー」
「名前さんはまだ帰らないでください」
「私名前と戻りたいなー」
「2人で仲良く手でもつないで帰れ!」
「…元気じゃん」
「きゃー七海くんてば超怖い。さと子帰るー」
「すぐ江も帰るー。名前、七海とケンカしても私がいるからね」

七海で遊んだしそろそろ戻るわ。と散々かき回して特級は仲良く病室を後にする。
落ち着いて七海の姿を見れば、包帯にガーゼとなかなかに痛々しい恰好をしている。普段家入がいるおかげでそんな姿の呪術師を見ることは少ないから余計に不安になる。
まして入院だ。

「……元気そうで、よかったです」
「入院しているんですが」
「騒いでいたので」
「…こちらの椅子に座りませんか。御覧の通りベッドから降りるのも大変な状態なので簡単に近づけません」
「……うん」

警戒しつつ、椅子に座るがベッドから離れる。
確かにその状態ですぐに動くのは難しそうである。

「先日、驚かせてしまい申し訳ありません」
「………」
「私は名前さんが好きで、名前さんも私が好きだと思っていました」
「………だって、勢いで、お互いのメリットだって言ってた」
「名前さん、意識してないから一緒に寝たりも抵抗なかったんですね」
「私なんて、興味ないと思って…た、から」
「…すみませんでした」
「結婚して?」
「いいえ。それは私には後悔はありません」
「そ、そうですか…」
「しっかりと交際期間を持たなかった私が悪いのでしょう。勢いで押し切った非があります」

お互い親からの結婚の催促が面倒でしょう。という事から始まったのは名前も認める。だからこそ呪術師をしている身の上、まあいいかと思ってしまったのだ。お互いのメリットのために。

「まったくもってそう見られていないとわかって、あのような行動を起こしました。怖がらせてしまって済みません。気持ち悪かったと」
「だ、だって…舐められると、思わなかった、し」
「口の中べろべろに舐めるし舌だって吸いますよ」
「ま”っ!?…じ、で?」
「………もしや何もご存じではない?」
「いや、漫画とかドラマとかそういう世界の事で私に関係ないと思っていたので。あれって本当にするの?ほら、AVのファンタジーってあるでしょ?それじゃないの?」
「AVのファンタジーはご存じなんですね」
「口にくわえてご奉仕的な?」
「どうしてそんな知識はあるんですか…」
「私の同期、クズが2人いるから」

少し伏せた目で言えば、「ああ…」と同情するような声が聞こえた。
あの2人の事だから半ば強制に近く見せたのだろうと七海は思ったに違いない。学生時代は名前を可愛がるという名目で構い倒していたクズなのだ。
言えば名前がそういうものは全てファンタジーだと思うのも納得してしまいそうだ。

「すべてがすべてファンタジーはありません。まああの手のものは男性の願望がつまっていますので…って、何説明をしているんだ私は」
「…七海くんも、ああいうの、してほしいとか、したいとか、あるんだ…」
「体が動けば今すぐにでも教え込みたいですよ…」
「う、うわ…こ、こわい」
「しませんよ。いいですか、あのクズ2人には気を付けてください」
「クズだから?」
「それもありますが、私が前に言ったの覚えていますか?」
「…いのち、…狙われてる?」

馬鹿なんですか。という七海の呆れた声が病室に響いた。

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