呪術 | ナノ
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「なに?今度はガチのケンカしたの?」
「名前の機嫌悪かったのは七海が原因か…何したの」
「お2人には関係ないでしょう」
「あるに決まってんじゃん。僕ら名前狙ってんだよ?」
「私が癒してあげるよ七海、今までお疲れ」

休憩室に大きな男が3人。
特級が2人に1級が1人。1人掛けのソファを陣取って真ん中に座った七海建人を2人は揶揄うように笑う。
苗字名前、今の姓は七海名前。その夫である七海建人は現在妻と冷戦中だという。
先日長期出張から戻った名前、翌日は酷く機嫌が悪く周りが心配するほどだった。後輩である伊地知が事情を聴けば、話すことはなかったが自分が不機嫌で周りに迷惑をかけていると気づいて平常に戻りはしたが周りは心配していた。
それとなく家入の耳に入り、家入が名前に聞けば「七海くんとちょっとね、今ケンカしてるの。ごめんね、心配かけて」というではないか。
それを知った特級がこうして七海を揶揄って遊んでいる。

「で、名前に何したのさ七海」
「………ちょっかいをかけただけです」
「七海のちょっかいねえ…名前が怒るって相当だよ?悟じゃあるまいし」
「どういう意味だよ傑」
「そのままさ。七海が名前が怒るほどちょっかい出すとは思えないんだけど…?」
「僕紳士だし!」
「紳士は人に火傷を負わせないよ」
「それまだ言う!?」
「名前が言うだろ?」
「お前は名前じゃないだろ」
「私だって名前狙ってるんだから、ライバルは蹴落とさなきゃね」
「人妻ですよ」

だから?と言わんばかりに2人が笑いだす。
クズなので本当に「それがどうした」状態なのだろう。
片方は御三家でそんなものどうにでもなるだろうし、人誑し・唆しが上手いもう一方だって人を転がすのにはたけている。
唯一の救いは名前がそのクズたちの本性を知っているという所だろう。
何かあったとしてもこの2人に気持ちが傾くという危険性はかなり低い。

「で、何したの」
「関係ないでしょう」
「だって可愛い同期ちゃんが悲しんでるんだよ?」
「そうそう。私たち同期だから、力になりたいんだよ」
「くだらなすぎて笑い死にますよ、お2人」
「いいねいいね、何があったのさ」
「最中に他の女の名前でも呼んだ?」
「そんな最低なことはしていません」

最中も何も、そこまでいけていないのだ。とは口が裂けても言えない。
そもそも、気持ちのすれ違いが起きているのだから。
七海は名前を好きだが、名前の様子からは七海を好きなのは異性としてではない。利害の一致で手を打った、そう思っているらしい。
七海は七海なりに好意を持っていた。
名前も七海に対して好意的だと思っていた。いい年をお互いしているし、突然とはいえプロポーズを受けたのだ。

「五条く…げ」
「「げって言った」」
「んんっ。五条くん、学長が呼んでたよ。」
「名前さん」
「じゃあ私ちゃんと伝えたから」
「待ってください」

休憩室に顔を覗かせて、七海の顔を見るなり「げ」と言った名前。
五条に用事を伝えて早々に退室するが、その後を七海が追う。休憩室では特級2人がゲラゲラと笑っている声が聞こえてくるが、今はそれどころではない。
あの日、名前の結界術で動きを封じられてキーケースからは名前の部屋の鍵を抜かれて自室の鍵を返され、名前には冷たく「出て行け」と言われた。
少し抵抗すれば名前は慣れたものだと言わんばかりに結界術の応用で七海を玄関から外に投げ出した。ガチャンと鍵のかかる音。しばらくして玄関があいたと思えば靴が投げ出された。

「名前さ」
「触らないでください」
「名前さん」
「話すことはありません」
「怒っているんですか」
「そうですね、怒っています」
「申し訳ありませんでした」
「まだ私怒っているので話したくありません」
「ではいつ対話していただけますか」
「…………」
「名前さん!」
「はなして!!七海くんと話すことなんて私ない!」

名前の手首を掴めば名前は強く拒否した。
いつもであれば「えー?なに?やだー」というくらいだったのが、ここまでの拒否をされるのは初めての事だ。
あのクズでさえここまでの拒否はすることはない。それだけ名前は腹を立てているのだろう。

「名前さんの気持ちを確認せず、自分勝手なことをしたのは謝ります」
「勝手に謝ってれば。話しかけないで」
「私は名前さんと話がしたいんです」
「私はしたくない」
「おーい、夫婦喧嘩は犬も食わんぞ。珍しいな、名前がそんな感情的なの」
「硝子」
「すみません、ご迷惑を」
「七海、名前を泣かせるなよ」
「泣いてない!」
「そうか?」

クマのある顔色の悪い家入が言い争う2人にだるそうに話しかける。
名前と同期で同性で、言えば仲が良い。クズよりもマシではあるが、何かあれば名前の味方にまわる人間である。
敵ではないが、あまり敵に回したくない人間だ。
足早に名前は家入に近寄り、家入を盾のように七海との間に立たせる。

「噂になってるぞ。お前ら2人がケンカして険悪だって」
「それについては悪いと思うけど」
「ガキじゃないんだ、周りに迷惑を掛けるな」
「…ごめん」
「で?何が原因だったんだ」
「……」
「言いたくない。笑われるもん」
「くだらない事なんだな」
「くだらない事、ないけど…私、嫌だったから!」
「い、嫌なんですか…」
「何したんだ七海」
「……キス、しました」
「はあ!?な、…名前、お前それでへそ曲げてたの!?」
「だ、だって…気持ち悪かったんだもん…嫌だったんだもん……しょ、うこ、みたいに、美人じゃないし…慣れてない、けど、気持ち悪かったんだもん……だって、皆モテるから、私の気持ちなんて、わかんないじゃん…」

唸るように言う名前。
実際名前は異性と付き合うという生活は送ってこなかった。それは呪術師としての生活が非常に忙しかったという点が大きい。実家からは見合いだのなんだのと言われていたのはよく愚痴っていたのも。だからと言って異性が嫌いというわけでももちろんない。
実際「七海くん格好いいよね」や「五条くんもいいよね、顔は」や「夏油くんも良いけど、中身がね」という程度には興味はあった。
ただ名前からしてみれば誰もがアイドル的なもので、自分には関係のない存在だった。

「はー。くだらねえ…おい七海、お前ちゃんと名前の事教育しろよ」
「す、すみません…まさかあそこまで拒否されるとは思ていなくて」
「硝子は掌で転がす方だけど私転がされる側だもん!怖いじゃん!!」
「お前、七海怖いの?」
「………怖い」
「おーよしよし。怖かったな」
「…ん」
「だってよ。まあ、なんだ。そうだな、しばらく名前に近づくな、時間をやれ。ついでにクズの牽制忘れんな」
「は?」
「わかっただろ、今名前は七海が怖い。時間をやれ、以上。まあこの年で異性が怖いっていうのもアレだが、まあ、うん。結婚したのに面白いなお前ら」
「勢いだもん!」
「いい年して『もん』言うな」
「硝子の馬鹿!うそ、好き!」
「はいはい」
「家入さん?」
「名前、ほら任務行け。新田が探してたぞ」

頷いた名前は逃げるようにして去っていく。
七海自身、まさか怖いと言われるとは思っておらず少なからずショックを覚えている。
強い拒否があって、悪いと思っていたが、まさか。

「まあ名前、学生の時から卑屈だったからな。気長にな、幸い名前には高専の部屋があるし」
「ですが」
「ま、ここまで拗らせてるのも面白いな」
「面白くありません」
「ま、あのクズ共にとられるなよ七海。私はお前派だ」

あーああ、今時犬だけじゃなくて猫もウサギもハムスターも食わんぞ。と家入は呆れた風に言った。


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