呪術 | ナノ
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「おかえりなさい」
「た、…た、だい、ま…」
「1ヶ月の長期出張お疲れ様です」
「は、はい…」
「疲れているでしょう、まずは風呂でも入ったらどうです」
「は、はい……」
「洗濯物は洗濯機に入れておいてください、名前さんがお風呂に入っている間に回しておきます。食事の準備もしておきますので、どうぞごゆっくり」
「は、はひぃ…」

東京に戻り、高専に顔をだして自分の部屋に戻ると玄関には男性の靴が一足。
名前が「あ」というと上から「おかえりなさい」と声が降ってきた。
名前がもつキャリーケースをサッと持ち上げ、キャスター部分を拭き、言葉を淡々と交わして七海建人は部屋の奥に行く。
合鍵を持っているので居てもおかしくはないが、今日はオフなのだろうかと名前は心の中で疑問に思う。

「あ、あの……」
「なんですか?先に食事がいいんですか」
「え、あ…そ、そうじゃ、なくて…」
「なんです?ただいまのハグやキスが欲しいんですか」
「違う違う!…あっと、黙って、出張、行って、ごめん、なさい」
「私に言いたくなかったんでしょう?」
「………お風呂の、前にちょっといいかな」

少し考えた風にしてから「ええ」と短く返事をする。

「あ、あと、これ、おみやげ…お酒、好きでしょ?」
「家入さんの分では?」
「硝子のは別で買ってきたから、それは、違う」
「…そうですか」


ありがとうございます。と酒瓶を受け取る。
それから荷物をリビングに運び、ローテーブルをはさんで向かい合うように座る。
暫くの沈黙の後、名前が唸るようにして「あ、あのね」と切り出した。

「はい」
「えっと……黙って、長期出張いれて、ごめんなさい」
「先ほど聞きました」
「………勢いで、結婚して、ごめん、なさい」
「……なぜ謝るんです。後悔しているんですか」
「だ、だって…七海くんみたいないな、イケメンが私と結婚するとか、」
「私が名前さんが好きでは可笑しいと?」
「うん……うん?」

うつむいていた名前の頭がゆっくりとかしがる。

「名前さん」
「は、はい」
「私がどれだけ心配したかわかりますか。わかりませんよね」
「す、すみません…」
「高専に行って伊地知くんから貴女の長期出張を聞き、それを見つけたクズ2人にはケンカだとと言われ」
「はひ」
「挙句にはあのクズ共人を差し置いて貴女に会いに行ったんですよ?任務を入れて、さも仕事で私情ではありませんと」
「任務、したよ?」
「ええ、任務ですからね。戻って来て何を言うかと思えば名前とご飯食べちゃった、自分にもまだ勝機はある。ですよ」
「しょ、勝機?何かと戦ってるの?」
「あの2人は名前さんを狙っているんですよ!」
「ゲームの景品的な?」
「ガチです」
「んな阿呆な」
「あ”?」
「あ、ごめんなさい……まさか特級に命を狙われていたとは…」
「そこまで行くと芸術点が高いとしか言えませんね」

意味も分からず名前はとりあえず「あ、ありが、とう?」とお礼を言う。
分かっていない。
まあ特級2人は学生の時から名前の扱いが悪かったのでそうもなる。自業自得だ。
名前だって馬鹿ではない、学生の時から2人の女癖の悪さやクズ具合を間近でみているので引っ掛かる要素がほぼないと言っていいだろう。

「名前さん」
「はい」
「急なプロポーズをして勘違いさせてしまった非があります」
「…ん、うん?」
「私はしっかりとした好意を持ってプロポーズをしました。勢いだけではありません、交際期間がなかったのは申し訳ありません」
「え、あ…ん、はい?」
「愛しています」
「あ、あい!?え、うそだ!!ぜーったい、うそ!!騙されないぞ!七海くん、私と七海くんは勢いで、お互いのメリットで結婚したんだよ!!どこかにカメラ仕込んでいるんだな!五条くんと夏油くんが隠れてるんだな!私を笑いものにするんだ!!」
「しません、落ち着いて」
「いられるかー!!みんなして私を馬鹿にしてるんでしょ」
「していません」
「だって、そうじゃ、なかったら……ありえないでしょ?」
「ありえます。私は名前さんが好きで、愛していますので」
「嘘だぁ」
「なぜ嘘だと?」
「だって七海くんイケメンだし、身長高いし、紳士だから。結婚して親の結婚コール回避のためって言われた方がしっくりくる」
「私が名前さんを好きではおかしいと?」
「おかしい」
「では、どうしたら信じますか」
「え……んー、なんだろう……なにしても信じないと思うなぁ」
「どうしてみようもありませんね」
「だって、ありえないし」
「ありえているんですよ」
「五条くんと夏油くんがキスしたら信じようかな」
「なぜ」
「だって絶対しないもん」

そうだろう。
どうして七海建人の本気をあの2人が証明しなくてはいけないのか。
むしろあの2人は名前を口説き始めるに違いない。名前の出張先に出向いてちょっかいをかけていたのだ。心配をするふりをして、アプローチだ。まあ当の名前には一切効果がなかったのだが。

「では私が名前さんにキスでもしたら信じますか」
「信じません」
「愛でも囁きましょうか」
「居心地悪くて笑っちゃう」
「夫婦の営みは?」
「生理現象だし?」
「手ごわいですね」
「へへへへへ」
「褒めてません。一緒にお風呂でも入りますか」
「わ、恋人っぽい!しない!!」
「……強情ですね」
「七海くんもね」
「建人でしょう?」
「ケンティー」
「引っ叩きますよ」
「ほら、やっぱり好きじゃい」
「はい?」
「好きなら叩いたりしないもん」
「叩いてません」
「叩こうとしたでしょ?」
「してません」
「引っ叩くって言った」
「言葉の綾でしょう?」
「でも言った。そういうことでしょ?」

はい、じゃあお終い。私謝ったし、満足です。と立ち上がってキャリーケースを持ち上げ、寝室に入っていく名前。
その後に続いて七海建人が寝室に行くと、普通に荷物を広げて「洗濯もの沢山でめんどくさいー」と独りゴチている。

「うん?」
「せ、洗濯物、洗いますから、出して…その間に、お風呂入ってください。食事の準備もしますから」
「いいよ、そんなことしなくて」
「私がしたいんです」
「なんか七海くんがお嫁さんみたい」
「夫です」
「書面上ね。自分の事くらいできるから、大丈夫」
「私がしたいんです」
「あ、なんか愛されてる感あるね」
「わかってくれましたか?これで感じるとか不本意ですが」
「冗談。私が愛されるとか、好きだとかー、ぜーったい無いのでー」
「ここでその顎掴んでディープなキスしてやろうか?」
「キャー、こわーい。あ、そういえば夏油くんに七海くんの入った?って聞かれてね」
「あ”!?」
「セクハラって言ったんだよ。まあ私、七海くんが外で女の人捕まえても文句は言わないつもりだから安心してね。あと、好きな人出来たら言ってね、離婚にはすぐ応じます。慰謝料は…まあ、一応貰おうかな。無しってちょっとね」
「黙っていれば好き勝手に…」
「七海くん他に付き合った人いるでしょ?私と同じくらいの体格の子いた?入った?入ったら入るよねーあはは」
「じゃあ試してみましょうか」
「んえ?」

名前は後悔した。
相手は同じ1級と言えど男性だった、と。

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