呪術 | ナノ
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「……は?」
「七海さん、ご存じでは…?」

あ、あれ?という顔で伊地知は怒った様子の七海を伺う。
名前が長期出張。それは呪術師でなくとも十分ある仕事である。出張も、長期の出張も。別段不思議なことはない。
ただ、ここ最近は学長の配慮もあって七海建人と苗字名前の厄介な任務はなかった。それの期間が終わった、というのならわかる。
なんせ呪術師は万年人手不足。それこそ代々呪術師でなければ結婚だってあまりしない人間たちの集まりだ。

「聞いていません」
「…え、あ……」
「なーに七海ぃ!伊地知なんてイジメちゃって!名前とケンカでもした?」
「離婚の危機ってやつかな?私たちにもチャンス到来かな」
「あ?」
「んで、どうしたの?」
「あ、いえ……なんでも」
「あるよね?言いな伊地知、特級2人の命令だよ?聞いておいた方が身のためだ」
「……………」
「名前さんが長期出張なだけです」
「名前が?」
「長期出張?へえ…学長が贔屓してたけど、もう手一杯だったわけか」
「で、なんで七海ご機嫌斜めなわけ?」

失礼します。と青い顔をした伊地知は退散する。
呪術師も忙しいが補助監督も十分忙しい。呪術師を補助する立場、またその卵である学生のサポートもある。七海には悪いが仕事も呪術師並にあると言ってもいいだろう。
心の中で「すみません七海さん…!」と謝り倒して逃げるように補助監督が事務をする部屋に逃げた。

「どこ出張?」
「……」
「七海?」
「聞いていません」
「は?」
「おいおい、本当にケンカしたの?名前と?」
「していません。ただ、黙って行かれただけです」
「それ、一般的になんかあったって、やつだろ」
「悟、七海が可哀想だろ?そんな本当の事言ったら」

サングラスの奥でギロリと睨む七海。
しかしそんな睨みも特級相手でては意味はない。相手は特級である、しかも学生時代の先輩。いろんな意味で規格外である2人に規格内の七海がどうしたところでどうにもならないのだ。
面白そうにしていた2人だったが、七海様子がいつもと違う事を感じ取ると少しだけ神妙にする。

「何?何があったのさ」
「なんでもありません」
「あるだろ。名前が結婚相手に黙って出張とかないよ」
「……少し、ありましたがお2人には関係ありません」
「あるだろ。僕ら名前の事好きなのに?」
「じゃあ、傷心中の名前を慰めに行ってもいいんだ」
「どこにいるかも知らないでしょ」
「んなもん補助監督に聞けば一発だろ?」
「そうそう、私たちが他の呪術師の居場所を聞いてはいけない規則はないし。何より私たちは特級だよ?それこそ日本各地に出張命令なんてよくあることだし、そこに呪術師がいるのだって不思議じゃない」

じいっと2人を見て、七海は黙る。
七海自身わからない。急に名前の様子が変わってしまったのだ、学生の時の、2人が言う猫を被っている時のように。
急に大人しくなって、謝りだした。
七海は最初、自分が名前に対する想いの誤解が解けたのかと思ったが、次第にそうではないことに気が付いたが名前は受け入れることもなく引きこもってしまった。
これはいけないと修復をしようと思ったが名前の様子では無理だと判断した七海は名前の部屋を後にしたのだ。

「…やはりいいです」
「じゃ、七海は名前が離婚したいって言ったらちゃんと応じろよ。慰謝料くらいは払ってやるさ」
「いいね、私も参戦するよ。慰謝料も私がたんと払ってあげるから」
「そんなに名前さんに離婚歴をつけたいんですか」
「バーカ、僕と初婚が一番に決まってるだろ」
「私は離婚歴があっても愛してるし?何も考えられないくらい激しく愛してあげれば名前の心も癒えるかな」
「名前さんの夫は私ですよ、そういうのはやめてください。離婚の意思はありませんから」

クソ。と言いたげに舌打ちをする。
名前という人間がそんなことをするとは思わないが、相手はこの特級2人はやりそうなのが不安要素である。
体格もよく、言いくるめるのが上手い人間だ。非常に女性ウケはいい。
しかし名前もこのクズとは付き合いがながく、普段受け流すが上手い。
それこそ七海の目の前で口説いていても見事なほどにスルースキルを発揮していた。

「白無垢とウエディングドレス、やっぱどっちもかな」
「盛大にしないとね。でも再婚だと名前は式嫌がるかな…でも式は挙げてないんだし、いいか」
「離婚の意思はありませんし、式もしないとは言っていません」
「ねえ指輪どこのにした?」
「ブランドに物言わせては駄目だよ、一緒に選ぶんだよ悟」
「それいーねー」
「だから」
「でも、名前は離婚したいかもしれないじゃん?」
「…そ、それは…」
「七海、名前を狙ってるのは特級だよ?それを忘れちゃ駄目だよ」

その言葉に七海は黙るしかない。
周りが知っている通り、交際日数は0。飲み会の席でのプロポーズ。翌日にやり直して勢いで名前の実家に行って、そのあと自分の実家に行って婚約、婚姻になった。
応じてくれたからには名前も自分の事を好いてくれていると思っていた。


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