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「名前さん」
「……は、はい」

名前の高専の部屋。
結婚して暫く経つが、名前は相変わらずこの部屋をメインに使っている。何度か七海の方から「一緒に住まないか」という打診は受けていたが、名前自身高専の部屋がある分には色々と楽だからとのらりくらりと避けていた。
七海建人、今現在名前も七海という姓ではあるが、どうも今まで後輩で彼を「七海くん」と呼んでいたこともあって下の名前で呼ぶのには慣れない。

「いい加減一緒に住みませんか」
「何度も言ってるけど」
「確かに高専に部屋があるのは便利です。私も利用させていただいています」
「今現在そうだもんね。昨日遅かったもんね」
「…それに関してはすみませんでした、起こしてしまって」
「いいのいいの、気にしないで」
「結婚したんですよ」
「したけど、だからって一緒に住まなくても良くない?こうして住まいが2つあると実際楽でしょ?昨晩みたいに」
「………………」

まあ勢いで結婚したようなものだし、一般的な夫婦の様なことはしなくていいのでは?というのが名前の心情である。
名前自身七海建人という人間は非常に好ましい。異性としては身長が高く、筋肉質、顔だちだって一般的にいえばイケメンの部類で、性格だって少々癖はあるが紳士的で真面目。悪いところは口が悪く、一見すると自由業のような雰囲気がある時がある、くらいだろうか。
高専からの先輩後輩という付き合いと、七海が呪術師に復帰してからも交流がある。
まあまさかある意味交際0日プロポーズがあるとは思わなかったが。

「名前さん、私の事嫌いですか」
「いや?」
「結婚しましたよね」
「はい、しました。でも、あれ勢いみたな感じじゃない?」
「………それを、言われると…元も子もないのですが……」
「付き合ってもいなかったし。お見合いというか、昔の『許嫁、結婚しろ』みたいな感じ」
「……はあ」
「溜息。疲れてるんだよ、もう少し寝たら?ベッド使っていいよ?」

また大きな溜息。
これには名前も困った。
昨晩遅くに名前の部屋に来た七海は大変疲弊していた。ここのベッドは1つ、「結婚しているんだし、いいか」という名前の軽いノリで名前は疲弊した七海をベッドに招いて一緒に眠っている。
勿論シャワーくらい浴びておいで。という名前の言葉に七海は素直に従って、置いてある七海の服を着て、名前の使っているシャンプーとボディーソープの香りをまとって名前によしよししてもらう形で、だ。
朝名前が起きる頃にはまだ眠っていたので名前はそろりそろりと静かに身支度して食事の準備をし、まだ起きない七海をおいて食事をして昨晩使った風呂を掃除をしたりしていると起きた七海に呼ばれたのだ。

「ご飯食べる?食パンあるよ」
「いえ…」
「あ、うるさかった?ごめんね、でも掃除したくて。高専の仮眠室行く?帰る?」
「名前さん」
「はい?」
「………」
「ケンティー?」
「やめてください。普通に呼んでください」
「ずっと七海くんだったからさ、なんか照れくさくて」
「…私だってずっと苗字さんと呼んでいましたけど?」
「私はそんな簡単にできないの。建人くん」
「くんは不要です」
「じゃあ建人くんも名前って呼ぶ?」
「………時間と、相談です」
「私も」

しばし沈黙。
お互い忙しい身の上である。休日はかなり貴重であるし、まして呪術師同士の結婚。
学長は喜んでくれているのだろう、仕事を定時で上げてくれるようにしてくれているし、休みもなるべく揃えてくれる。
現に今もそうである。

「私が、ここにくる意味わかっていますよね」
「楽だから?」
「…それも、ありますけど」
「それ以外に?えー?んー………わ、わたしに、あいに、と、か?」
「そうです」
「え」
「名前さんに会いに来ています」
「……ま?」
「?」
「ま、まじ、すか…?」
「マジです。そもそも好きで結婚したんですよ」
「えっ」
「なんです」
「い、勢いじゃん…?」
「私が勢いで誰でも結婚する人間だと?」
「え…あ…ん……んー……ほ、ほら、いろんな、人、いるし…」
「私はいたって真面目に結婚したつもりですが、名前さんは違うようですね」
「だ、だって…七海くんみたいな、人が、私なんか、好きになるとか、思わないじゃん…硝子みたいに美人でもないし、歌姫さんみたいに明かるいわけじゃないし、若くないし、可愛くないし、じめじめした場所が似合う人間だし…地味だし…」

そうだ。と名前は思い出した。
周りが凄いからなんとなくその部類にいるような気がしていたが、名前は「ない」人間側だった。
特級なんて無理だが、家入のように凄い術式はなし、美人でもない。同期の3人が仲良くしてくれるのは同期だからだ。七海だって慕ってくれたのは先輩後輩だからで、名前だからではない。
唐突に思い出し、名前はしどろもどろになる。
そうだ、そうだった。
七海の様なスタイルも顔もいい人間が名前を気に留めるわけがないのだ。

「ご、ごめんね…勘違いして」
「わかってくれればいいんです」
「…かえって、くれる、かな…」
「は?」
「勘違い、して、ごめんなさい……勢いで、結婚して、ごめんなさい…」
「私、振られているんですか?」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「名前さん?」
「ご、ごめん、な、さい……かえって、ください」
「どうしたんですか?」
「かえって、ください。ごめんなさい…」
「名前さん?どうしたんです?そんな様子で帰れなんて」
「ごめ、んなさい…ごめん、なさい…」
「帰れるわけないでしょう、そんな顔している貴女を置いて」
「じゃあ、わたしが、でていく……」
「名前さん!どうしたんですか?具合悪いんですか?急に。それにどこに行くというんです」
「出て行って、帰ってくれないから…」
「……私が、帰るといいんですか」
「………」
「わかりました。お疲れだったようで、私こそ配慮ができずにすみませんでした」

急いだ様子で着替えると顔も洗わず、荷物を持って出て行った七海。
見送ることもせず、名前は小さく震えていた。

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