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※ご都合とんちき呪い


「虎杖くん!!」

一瞬の出来事だった。
言えば油断、一瞬のミス、不意の一撃。
任務自体は難しい事はなく、1級の名前が任された仕事であって、いつもつかないサポートとして高専1年の虎杖悠仁が一緒だった。
それ以外普通の、いや、名前がこなす仕事としてはいつも通りの仕事だった。
任務に向かう途中で二人で「一緒なんて珍しいね」と雑談するくらいに任務内容としては緊迫するレベルの内容ではなかったし、それこそ長時間任務になりそうなほど雑魚が多いとか、まして1級レベルの呪霊が数体出るという事でもなかった。
任務の内容通りだった。そうだったのだが、ただ最後に例外が出てしまった。
大きな呪霊に気をとられた虎杖の背後に脚の早く、そして弱い呪霊が最後のあがきだと言わんばかりに呪いを残して祓われた。
その一瞬に名前が身体が衝動的に動き、その呪いを受けた。

「名前さん!」

勿論虎杖悠仁の肉体は名前が押した引いたでどうこうなるものではない。
だから名前はそこに割り込んだのだ。
恐らく虎杖悠仁が宿儺の器だとか、そんなことは関係なく。名前はただ庇わなければと何かが名前の身体を突き動かした。

「名前さん!名前さん!!」
「……ぅえ…」
「大丈夫?俺別に丈夫だから……名前さん?」
「は、はい……」
「変な呪いに当てられたんかな…体平気?」
「あの……」
「ん?」
「あの、ここ何処ですか?その制服、呪術高専の先輩ですか?」
「へ?」

帳が上がると同時に虎杖の「ええええええ!!!???」という大きな叫び声に、驚いた補助監督の伊地知が走ってやって来て事の次第を確認する。

「記憶喪失、というより後退でしょうか…でも、少し体格が小さく感じますね」
「やべえじゃん」
「ではすぐに家入さんに連絡をします。虎杖くんは名前さんと一緒に車に向かってください、すぐに行きますから」
「応!じゃ、名前さん。行こ、車あっちだから」
「は、はい…」

先に歩く虎杖の後ろを不安そうに付いて行く名前。
後ろの伊地知も気になるのかチラチラと後ろを伺う気配がする。

「補助監督の伊地知さん」
「いじち、さん……?」
「そ。あ、俺虎杖悠仁、呪術高専の1年」
「1年…?」
「どうかした?」
「わ、私も1年……京都の、高専の人?」
「東京」
「……でも、私一人だったのに?」
「あー………」

まあ、ちょっと事情があってさ。と誤魔化す虎杖。
先に車について、虎杖が自分のポケットを探ると狗巻がくれた飴が出てきたのでひとつ名前に渡す。

「あ、ありがとう…」
「たぶんだけどさ、今名前さん呪い喰らって自分が高専の1年に戻ってるんだと思うんだ」
「戻ってる?」
「そ。名前さん今1級なんだぜ」
「私が?へー…」
「そんで、今俺が名前さんのサポートに入ったんだけど……俺がちょっとヘマして、名前さんが呪われた、んだと思うんだ。わかんねえけど」
「………よくわからないけど、そうなんだ」
「お二人とも!家入さんと連絡が付きました、高専に戻ります。名前さんは怪我はありませんか」
「え、あ、…はい、大丈夫、です」

車に後部座席に乗り込み、シートベルトを締める。
名前からしたら知らない人間二人と同じ車で不安もあるだろうが、虎杖の制服を見ているので不安は少しだけ解消されている。しかし知らない人間であることには変わりない。
少し俯きながら車にゆられ、時折窓の外を伺う。

「名前さん」
「…はい」
「これ、飲む?」
「え、あ…ううん、いい、です」
「そ?手つけてないし、顔色良くないし…」
「あの、私って、記憶喪失って、やつなんですか?」
「大丈夫ですよ。今高専に向かっていますから、家入さんが診察して治療をしてくださいます」
「だって、伊地知さんが言ってるし。そうだ、伊地知さん」
「はい」
「名前さんね、今呪術高専の1年なんだってさ」
「え」
「今俺と名前さん同級生!」
「………それは、困りましたね」
「え、困んの?」
「考えてみてください、今まで五条さんに関わる事名前さんが色々手をまわしてくれていたんです」
「お、おう…?」
「その頼みの綱の名前さんが!そうなられては……私達補助監督は………」
「え、あ…ほら、まだ決まったわけじゃないじゃん?家入先生が反転術式で、ほら、こう」
「そ、そうですね…まだ、困るのは早い、ですね………」
「あの、ご迷惑を、おかけしているみたいで、ごめんなさい」
「いいんです!気にしないでください!いえ、むしろいつもお世話になっているのはこちらでして…はい」

軽く声が裏返る伊地知。ハンドルをギュッと握り、背筋を伸ばす。
いつもであれば名前がその姿を見て「大丈夫だよ、伊地知くん」という一言があるのだが、今回はそれはない。
伊地知がバックミラーで後部座席の二人を見れば、虎杖は名前を少しだけ心配そうにしている姿と名前は申し訳なさそうに手を握る姿が見える。
行きの姿とは正反対である。
「ささーっと終わらせて帰ろうぜー!」と軽く息巻いていた二人なのだが、今となっては空気が少し重い。
それにこの事態が五条の耳に入る前に終わればいいが、それもわからない。
出来るだけ早く収束することをただ伊地知は願った。
そうでなければ五条の対応も、五条からこの事態の尋問も全て自分の所に来てしまう。いや、まだそれだけならいい。
あの五条の事だ、難癖をつけてくる可能性さえある。

「あの、伊地知、さん」
「はい!」
「信号、かわってますよ」
「え、あ!はい!すみません!!」
「伊地知さん大丈夫だって、家入先生ならさ!」

問題は五条さんです!と言いそうになったが、なんとか飲みこみ、「そうですね」と伊地知は愛想笑いでしのいだ。

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