呪術 | ナノ
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「じゃあ私としますか?結婚」

呪術界の繁忙期を終え、定例となっている飲み会の一角。
テーブルは多く、座席指定はなく各々好きな席に着き、言えばグループ飲み会の大きな会場で催されてる状態。
このテーブルには端に名前、その隣に七海、2人の正面には五条と夏油。家入はちょうど京都の方に出張が入り不在。

「んえ?」
「だって、ちょうどいいじゃありませんか」
「ちょうど、いい?」
「私も言われているんですよ、両親から。お互い呪術師、高専の先輩後輩、大体の事はわかりますし」

明日から実家に行って見合いして、それから任務だよ。と愚痴った名前。
一般家庭出身で、あまり呪術師という職業を理解していない名前の両親は「いつもで遊んでいるつもりだ」「結婚して安心させて」「子供を産まない女は人間じゃない」という昔気質で何度も何度も電話が来るし、見合いの写真やら話が来るし。と名前は嫌気がさしていた。
親の言い分もわからなくもない。自分の子供が結婚し子供をもうける、一般的な「幸せ」というものを享受させたい。

「付き合ってもいないのに?」
「体の相性ですか?性格的なものはわかってるでしょう?それに、お互い割り切ってしまえばいいじゃありませんか。親の結婚しろ攻撃の回避ですよ」
「じゃあ私でなくてもいいんじゃない?」

七海くん、お酒入ると意外なこというんだな。と名前は思いながらビールを飲む。
七海の手には日本酒。居酒屋らしく様々な酒がメニューにラインナップされているので皆好きに注文しては飲み、食べている。
ここは高専が昔からよく使っている居酒屋なのでわがままも慣れたものだし、何より高専は金払いがいいのだろう。リクエストすると次回必ず入っている。
名前自身あまり酒に興味がなく飲みたい時に適当に飲むという人間にはあまり関心はないが、七海や家入や夏油の様なタイプは色々とリクエストをしていた。

「つれませんね」
「てか、七海くんそういうこと言うんだね」
「意外ですか?」
「うん」
「それで、返事は」
「んー。アルコールが入ってない時に言われたら考える」
「堅実ですね」
「なになにー?2人でなにコソコソ話ししてんのさー」
「七海ばかりズルいじゃないか」
「苗字さんにプロポーズしてました」

はあ!?と五条は持っていたメロンソーダのジョッキをダンとテーブルに叩き付けるし夏油は持っていた箸を思わず落としてしまった。
周りは相変わらずうるさいのでそんな音がしても誰も気にする様子もない。むしろ特級2人を引き取ってくれてありがとうレベルなので大きな音程度では学長でさえもチラリと見て終わるのだ。

「な、なななな…ま!?」
「え、七海って名前の事…ゆ、許さないから私」
「私以上に動揺しすぎ」
「な、なんで名前はケロってしてんの?」
「まあ、酒の席だし?むしろなんで2人の方が動揺してんの。あ、私に先越されそうだから?特級なんて引く手数多じゃん?愛人持ち放題でしょ」
「なんでそんな話に?」
「んー?明日お見合いでさーって愚痴ったら。七海くん、お酒飲むとそうなるタイプ?今回初めてだよね」
「じゃあ素面であればお返事いただけるんですか?」
「七海くんと結婚か…ドキドキちゃう。七海くん格好いいもん」
「私は!?」
「僕だってGLGですけど!?2人より背が高いし」

冗談にそんな盛り上がるなよー。と名前はキャっと笑う。
明日はとても早いわけではないが、実家に戻る関係もある。早々に切り上げるために食べたいものを注文して、頂いて席を立つ。
毎回この飲み会は出入りが自由になっている。呪術師という仕事柄、任務終わりにくる呪術師も、これから任務だという呪術師もいるからだ。

「あれ、名前帰るの?」
「えー、やだー帰らないで」
「送ります」
「え、いいよ。飲んでて」
「なんだ七海、君もう名前のフィアンセ気取りなの?」
「彼氏でもないくせに。名前、気をつけな?七海送り狼になるつもりだよ」
「七海くんは2人とは違いまーす」
「送り狼されたんですか」
「してないよ」
「してないね」
「苗字さん、本当交友関係見直され方が良いですよ」
「いやだな、出来るならもうしてるって。じゃあ、お先。お疲れ様」
「待ってください、私も」

名前が無視して荷物をまとめて部屋を出ると七海も続いてでる。
名前が「いいの?ただ酒だよ?」と言えば「帰る口実も必要です」というので名前は口実に使われたらしい。まあ帰りたいという気持ちもわかるので、どうこう言うつもりは全くない。
名前だって飲み会は好きだが、それは友人関係がメインの時だ。職場関係の時は楽しい時とそうじゃない時の落差が激しい。今回は翌日の予定のために早々の離脱だが、今回はまあ、悪くはなかった。

「タクシーですか?」
「ううん、電車と徒歩」
「危険では」
「いつもそうだよ。だいたい五条くんとか硝子とかと一緒だったけど」
「高専住みですからね…送ります」
「いいってば。別に初めてじゃないし」
「女性を夜中に1人で歩かせる男だと?」
「今更じゃない?」

呪霊相手にしてる呪術師ぞ?と酒の入った赤ら顔で名前が笑えば七海は黙る。
そんな七海を見て名前はバンバンと背中を叩いて「じゃあね!お疲れ様!ばいばーい!」と上機嫌に名前は雑踏に姿を消した。




翌朝、名前が荷物をもって玄関を出ようとするとインターホンが鳴った。
時間はまだ早く、五条の悪戯か?とも思うがあの男の場合インターホンは連打されるので違うだろう。夏油も数回連打するので夏油でもない。では家入かと思うが家入は朝来たことがない。

「…七海くん?どうしたの?あ、おはよう」
「おはようございます、アルコールが抜けたので伺いました」
「…ん?」
「結婚してください」
「………は!?」
「素面です。考えていただけるんですよね」
「…え?な、うそ、あれ本気だったの?」
「はい。勢いというのもありますが本気です」

見ればキャリーケースを持って来ている。
「それ」と名前が指せば「このまま苗字さんのご実家にご挨拶をと思いまして。有休もとってきました」というではないか。
名前の中の七海建人という人間はこのような人間ではない。
思わず「熱あるんじゃ…」と言えば「健康体です」とスパっと言われてしまった。この言い返しは七海らしい。
名前の記憶では七海と仲はいいがそんな雰囲気も、そんな素振りも心当たりはない。
確かに七海は異性である名前から見ても顔は整っているし背は高いし声も良いしスタイルもいいし性格も問題があるとは思わない。対象が特級という事もあるが、名前からしたら七海はとてもいい男性だ。しかし、それはそれ、これはこれ。それとこれでは話が違う、という奴だ。

「…七海くん、結婚焦ってたの?若いのに?」
「ひとつしか違わないでしょう?」
「んーまあ、そうだけど…」
「それで、返事は今頂けるんですか」
「えええ……な、七海くん、私が断るとか思ってないの?」
「私の覚悟です。どうせ冗談だなんて言われては困りますから」

私と結婚していただけますか。
真剣な視線が名前を射抜いた。

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