呪術 | ナノ
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「…騒がしいですね」
「報告にない呪霊が出たとか、想定より上級が出たとか?なんだろうね」

任務の資料を読んでいれば外が騒がしい事に気が付いた。
呪術師と補助監督が打ち合わせで使う部屋で七海と名前が一緒の任務を受けたために一緒に読み込んでどう対処するかを話していた時だった。
普段騒がしくない、とは言い難い。高専という学生もいる場所故にそれなりに騒がしいことも少なからずあるからだ。
それにしても急に騒がしくなったのは事実。任務に同行予定の補助監督が呼び出されて数分だが戻る様子もない。

「こちらに要請があれば電話が鳴るでしょうが、それもないですし。怪我人が出たんでしょうか」
「最近多いもんね、報告以外の呪霊に上級の呪霊」
「活発ですからね最近。まったく」

ふん。と不満を露わにする七海に名前は笑う。
学生の時とは雰囲気がガラリと変わった七海ではあるが、そういう所は変わっていない。
笑う名前に不満そうにサングラスの置くから軽く睨まれた名前は誤魔化す様にまた笑う。
資料に目を落とし、再度読んでいると騒がしいのがだんだんと大きくなってきた。
こちらの棟に学生が来ることは少ないし、医務室がある場所からも近いわけでもない。
1級呪術師を探しているならば言った通りに電話をかけた方が捕まるだろう。オフであっても引っ張り出そうとするくらいには労働環境はよろしくない。人員補給だってちょっとやそっとではないから辞められたら困るのはそちらのはずなのだが。

「…上層部の誰かでも来たのかな」
「ろくなことがないじゃないですか、やめてください」
「でも、こっちの方なんて応接室もないから来る必要ないし…なんだろ」
「名前!!!」
「うわあ!!?って、え?げ、夏油くん?、な…ど、どうしたの?」

ドアをこれでもかを勢い良く開けて、まるで破裂音の様な音が響く。
驚いた2人だが、七海の方はすぐにいろんなものを察したのかとても嫌そうな顔をしてから名前に同情する目で見る。
この騒ぎの原因は夏油で、名前を探して騒がしかったのだろう、と。出て行った補助監督はその騒ぎに巻き込まれたのだと。
そのまま夏油は大きな足音を立てながら名前に抱き着く。
七海は「うっわマジかこの男」と内心でボロクソに言い、口に出すことはない。出すと面倒なのは学生の時から学習しているし面倒なことに巻き込まれたくはないからだ。

「な、なに!?え、なに!?七海くん!」
「私だろ!なんで七海なんだ」
「え、えー?ちょ、本当に、なに?え、なに?なんでここにいるの?え、な?え??」
「夏油さん、私たちこれから一緒の任務で資料を読んでいるんですが」
「うるさいぞ七海…」
「私の代わりに行ってくれるなら退室しますが」
「……私に、任務を押し付けるのか?」
「いいえ。そのご様子だと苗字さんと一緒に居たそうなので提案したまでです。小一時間ほどしたら2人で任務です」
「七海が1人で行ってくれないか」
「それは無理です。夏油さんが1人で済む任務でも1級では2人必要なようですよ」
「待って!なんで普通に会話してるの!?困ってるの私だけ!?」
「私も困っていますよ、だから提案したんです」
「呪霊貸してあげるからそれでどうにかしな」
「私呪霊操術ではないので無理ですね」
「夏油くん、なんでここに居るの?高専だよ?平気なの?」
「名前は!私のママだろ!!」

「………は?」という言葉が名前と七海の声で重なる。
面倒だとは思っていたが、拗らせていたらしい。
七海は関わりたくないと思ったし、名前は誰でもいいから助けてほしいし説明が欲しいと心底思っていた。

「七海くん、資料3枚目の上の呪霊なんだけど、私接近戦苦手だからそっち対応お願いしたいんだけど」
「わかりました。ではその下の呪霊は動きが早いらしいのでそちらお任せします」
「無視しないで!名前は私のママだろ!なんで…」
「ママじゃありませーん。あ、七海くん、悪いんだけど学長に電話して夏油くん回収できないかな」
「学長不在では?居たら騒ぎを聞きつけて来ていますよ」
「じゃあ五条くんで」
「駄目!!なんで悟とご飯なんていうの!?」
「………」

何言ってんだこの男。と言わんばかりの目で夏油をゆび指す七海に、名前は先日の話を簡単に説明すると、やはり「何やってんだこの男」という目で夏油を見ている。
五条と夏油の話は有名ではないが、それなりにかかわりのあった人間の間では周知されている。ついでに名前は知らないが、その間に挟まれているのも周知。
でもまさか本人の口から「ママ」という単語がでるとはだれも思っていなかった。あっても「恋人」「彼女」「嫁」「妻」あたりだろうと思っていたが、さすがに「ママ」は斜め上を行っていた。

「……その、さ。ママって五条くん?」
「え?」
「いや、この前五条くんにも『名前は傑のママでしょ!』って言われたんだよね。あと早く離れて、暑苦しい。資料読みづらい」
「五条さんにも言われているんですか?最悪ですね」
「でしょ?ママじゃないって言ったけどさ」
「ママだよ…名前は、私のママだよ…」
「ママじゃねーわ。なら硝子もママでは?」
「ああ、そうですね」

家入さんもママになりますね。と七海が真面目に答えると地の底を這うような声で夏油が「硝子はママじゃない。ママは名前。名前がママ」と意味の分からないことを言う。
ついでにこの部屋にいる3人は部屋の外にいる人間の気配も感じているので特級の夏油傑が1級の苗字名前を捕まえて「ママ」と言っている。という現実を数人どう受け止めていいのわからず様子を伺っているのもわかっている。
恐らく夏油以外の2人もそれをどうさばいていいのか分かっていない。

「あ、そういえば」
「まだ何かあるんですか?もういっそのこと呪術師辞めた方が良いですよ苗字さん…」
「辞めたらママになってくれる!?」
「五条くんがさ」
「無視しないで!」
「なんかね、結婚前提で付き合ってるっていう噂流してやるって言ったのよ、それでさ」
「悟と結婚なんて認めない!」
「苗字さんよく無視できますね…」
「それから行くと五条くんパパになるよ、夏油くんもっと心閉ざすよって言ったら喚かれた」
「悟がパパなんて嫌だ、地獄だ、嫌過ぎる…名前のお腹に帰る…」
「誰も入っていたことねーんだわ」
「つまり、処女…!?」
「ねえ七海くん、いい弁護士さん知らない?」
「確か…最近呪術師になった、日車さん、が、弁護士をなさっていたような」
「何か困りごと?私に任せて」
「紹介してもらえる?得意分野は何だろう、こういうのに対応してる人かな」
「そこまでは。弁護士の腕の方は存じませんが、呪術師の腕はすぐに1級になれそうだとか」

へえ、凄い人がいるんだね。と世間話のようにしながら夏油の頭をこれでもかと力押しで引きはがそうとするが、腕力では到底敵わない夏油に対して焼け石に水状態。
夏油は夏油で「誰が何と言おうと名前はママだから、私のママだから」と意味の分からないことを言っている。
これには七海も名前に対して本気で同情をするしかない。名前は先輩として尊敬も信頼もしている。こんな同期が特級でも健気に呪術師として働いているのだ。

「傑!?」
「さ、さとる…!?な、なんで…」
「まあこの騒ぎですし、敷地内に居れば気が付くでしょうね」
「やっぱりママじゃん!名前、傑のママじゃん!」
「ねえ七海くん、どう思う?私ってママ?独身フリーなんだけどさ」
「そうですね、私はママではないと思います。まあ保護者枠なのかと思う事はありますが」
「だ、だって…名前が悟と、ご飯て」
「食事ですか、良いですね。これ終わったらどうですか苗字さん」
「お、いいねぇ。この前話したパン屋さん、カフェとバーしてるんだって。そこ行ってみない?任務地からそう遠くなかったはず」
「七海とご飯行かないで!私と行って!懐石だって、フレンチだってご馳走するから!」
「あ、そういうのいいです」

うわああん。と子供のように縋る大きな成人男性に名前は無視を決め込むかのように七海と会話する。
五条は五条で相手が夏油でどうしていいのか分からないのか、いつもなら傍若無人なくせに困って名前をちらちらと見て助けを呼んでいる。
しかしこの苗字という先輩も大概、いや、大変だと七海は本当心底同情する。同情しかできないも事実。
特級が2人、他人に反転術式を施せるのが1人、そしてその3人には珍しさは及ばないが結界術が秀でている。どちらかと言えば、七海寄りの呪術師だ。まず自分が名前の立場であればまず絶対に無理だと断言できる。まあ、本人は呆れめている、無の境地という奴かもしれないが。

「名前、皆でご飯行こうよ!硝子も誘って、同期で!」
「目の前に七海くん居てよくそんなこと言えるね」
「こちらからお断りしますのでお気になさらず」
「まだ、さとるむり…名前……」
「勢いだけで来たな」
「うん……」
「すぐるぅ……」
「それで夏油さんは私と任務変わっていただけるんですか?」
「私安い仕事はしない質でね」
「そうですか。では部外者は出てください」
「な!?七海……君ね…一応先輩だよ?」
「そうですね。では先輩同士積話もあるでしょうし、五条さんとお茶でも行けばいいじゃないですか」
「う……ぐ、う……名前……助けて…」
「夏油くん」
「なに?」
「邪魔だから帰って」

ほら、五条くんもさっさと戻って。と手で追い払う仕草をする。
特級2人にこんな態度をとれるのも名前以外に家入硝子だけだろう。特級という立場からこんな雑に扱われることはそうそうない2人。
だがまさか七海も「どうしてそんなこと言うの!?」という成人男性が2人目の前で騒ぐとは思ってもみなかった。


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