呪術 | ナノ
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※スピネルIF

「……、どうしたの?顔色悪いよ?具合悪い?」
「あ……名前……おつかれ」
「う、ん………」

共同スペースの一角。
学生が使うソファに夏油傑が背中を丸めて座っていた。
任務が終わって戻った名前、時間は19時を過ぎたころ。共同スペースには夏油以外の姿はなく出払っているのか自室にいるのか。
ここ最近は幼い双子を連れて戻ってきた夏油が比較的学校にいることが多いが、多いといっても名前よりは低い。
今回こうして共同スペースに居たことも久しぶりと言っていいだろう。

「美々子ちゃんと菜々子ちゃんは?」
「今日は、夜蛾先生の家に泊まるんだ」
「そうなんだ…顔色、よくないよ?具合悪いんじゃない?硝子のところ行く?」
「大丈夫、さっきまで悟と、話して、たし……」
「でも…部屋で横になった方が良いよ。ご飯食べた?食欲ある?」
「そんな、顔色、悪い…?」
「うん……熱は?」
「ない。と、思う」
「頭痛い?喉は?お腹は?」
「痛くないよ」
「ご飯食べた?ご飯食べられる?」
「あんまり…食べたくない、かな」
「ちょっとでも食べてから休もう。今日はもう任務ないでしょ?この時間だし、多分」
「今日はね」
「あ、カップスープあるけど、それ飲めそう?コーンスープ」

うん…貰おうかな。とまるで生気のない顔で笑う夏油の姿の痛々しさに名前は気づかないふりをした。ここでもっと心配そうにすれば夏油は無理をする。
それはあの村の事件で高専関係者が「夏油も子供だ」ということを突きつけれた事件だ。
高専で夏油に関係のある人間は大人びた雰囲気から心のどこかで夏油は大丈夫、と勝手に思い込んでいた。しかし夏油も言えばまだ17年しか生きていないのだ。不満のぶちまけ方も肩の力の抜き方も、泣き言を言っていい相手も、何もわかっていなかった。
名前は自室に戻り、小腹が空いたように常備していたカップスープを箱から二つとりだして共有スペースに戻る。
棚にある夏油が使っているマグカップと自分のマグカップを取り出して中身を出してお湯をいれて、スプーンを入れてソファに座る夏油に渡してから自分も少し離れて座る。

「…ありがとう」
「飲めそう?」
「うん、大丈夫」
「いつからそんなに顔色悪いの?」
「自覚ないからな…いつからだろう」
「五条くん何も言わなかった?」
「……………うん」

熱いスープをふうふうと冷ましている間の、その奇妙な間。
いつもであればそんな間などあけないのに。と少しだけ違和感を覚えた。
疲れている?それもあるだろう。夏油は一時行方不明となったが特級である。まして幼い子どもを2人養わなければいけないのだからそれなりに任務もある。
本人が気づいていないだけで体調が悪い。十分あり得る。無自覚な体調不良は誰しもあり得る。

「…………全部、飲める?」
「え、ああ、うん」
「吐き気ある?」
「大丈夫だよ。名前は心配性だな」
「顔色悪いんだもん…心配にもなるよ。あんなことがあったばっかりだし」
「あはは…ごめん」

スプーンでマグカップの中を回すカチンカチンという音が立つ。
2人とも黙ったままスープを飲み、先に名前が飲み終わってテーブルの上に置くと夏油が「もう飲んだの?早いね」と笑った。

「ご飯は?」
「補助監督さんと食べてきた。夏油くんは?」
「これがご飯、かな。ちょっと食欲なくてさ、美々子と菜々子が居たら2人に食べさせないとだから作るんだけど、今日はお泊りで居ないからさ」
「好きなお蕎麦も食べてないの?やっぱり具合悪いんだよ、医務室行く?」
「駄目そうならそうする。マグカップ貸して、お礼に洗うよ」
「いいよ、具合悪い人は部屋に戻って。私がする」
「まだ顔色良くない?」
「あんまり。でも、私が戻った時よりいいかも」
「じゃあ私洗うから名前拭いてよ」
「………具合、」
「大丈夫だよ」

少し胃に物が入ったから。と笑いながら立ち上がって名前のマグカップを持ち上げて流しに立つ夏油。
警戒しながら夏油が洗ったマグカップとスプーンを受け取る名前。洗い残しや意地悪を警戒しているのではなく、倒れられた場合名前では潰されてしまうからである。
大声を出せば誰かしら来てくれるだろうが、潰されたくはない。

「おーい、傑…なんだ名前戻ってたんだ」
「さ、とる…」
「さっきね」
「何してんの」
「夏油くんの顔色悪くて、食欲無いって言うから一緒にカップスープ飲んでたの」
「俺のは」
「五条くん元気でしょ」
「腹減ったんだよ、なんかねえ?お前から前貰ったゼリーとか」
「えー……あ、この前実家から……夏油くん?どうしたの?」
「傑?おい、傑、どうした」

名前にたかる五条。
並んでいた夏油が急にしゃがみ込み、小刻みに震えているのが2人にもわかる。
名前は驚いて同じくしゃがみ、様子を伺う。

「夏油くん?気持ち悪い?吐きそう?」
「………」
「傑、おい!どうしたんだよ!」
「……ちょっと、気持ち、悪い、かも」
「わー!五条くんその引き出しからビニール袋出して!早く!!」
「お、おう!これか!?」
「それ!はい、夏油くん。持って!」
「お、俺は!?」
「医務室の連絡準備!具合が回復しなかったら連絡。背中さすって大丈夫?」
「…うん」
「お、俺も?」
「いい……」
「いいって…どっちだ」
「しなくていい。の、いいだと思う」

沈黙が場を支配する。
夏油はビニールの準備をしてじっとしているし、名前は少しでも楽になればと背をさすり、五条はどうしていいかわからずただただ立って五条と名前を交互に見て片手にガラケーを握っている。

「…立てる?」
「………」
「医務室の先生に連絡して来てもらおうか。吐き気だけ?熱は…無いみたい」
「医務室に連絡か?」
「…いい、そこまでじゃない」
「五条くん、夏油くん部屋に送ってあげて」
「お、おう…」
「……夏油くん?」

ぎゅっと、大きな手が名前の手首をつかむ。
夏油の手だ。
じんわりと熱が伝わって、それと同時に震えている感覚も伝わる。しかし不思議と強く握られているわけではなく、痛みはない。力が入らないのか、加減してくれているのか。
その行動には五条も驚いたのだろう。
小さな声で「お?…お?お、う??」と混乱している。

「名前が、一緒に来て……」
「え……え?医務室?」

ふるふると違うと頭を振る。

「もしかして、自室?」
「…うん」
「倒れたら潰されちゃうから…無理だよ、五条くんに頼もう?五条くん」
「おい、す」
「うえ……」
「ああああ、戻しちゃった。全部でる?トイレ行く?」
「だ、だいじょう、ぶ…」
「でも…」
「自分で、立てるし、歩ける…から、」
「…………」
「わかった。部屋のカギは?」
「ある、左のポケット」

ビニール袋を握りしめ、名前と同じようにゆっくりと立ち上がる。
背を丸め、名前にぴったりと寄り添い、まるで甘える子供の様だ。
ただそれからは全くと言っていいほど五条を見ようともしない、むしろ視界に入れない様に努めているようにも見える。

「五条く、ん、は……一応夜蛾先生に連絡しておいて。夏油くん、具合悪くて明日休むかもって。あ、美々子ちゃんと菜々子ちゃんがお泊りに行っているから、気づかれないようにね」
「お、おう……」
「夏油くん、行こう」
「うん…」

名前が「五条」というだけでわずかだが、夏油の身体が強張った。それを感じて「五条くん、お水持って来て」と言いかけた名前はそれをやめて担任への連絡に切り替えた。
夜蛾からも夏油の変化に気づいたら連絡を、と言われていたという事もある。

「あ、口ゆすごう?気持ち悪いでしょ?」
「……うん。」

シンクで口をゆすぐ夏油。
名前は共用冷蔵庫をあさってミネラルウォーターを一本見つける。名前は「夏油」とあるので問題ないだろう。
五条がどうしていいのかわからない、という顔をしているので名前は小さな声で「部屋戻っていいよ。そこで夜蛾先生に連絡して、何かあったら連絡するから」と言えば黙って頷いてから夏油を気にしつつスペースから出て行く。

「さとる、行った?」
「うん、行ったよ。歩ける?」
「…うん、ごめん」
「具合悪いんだから気にしないで。戻しちゃったけど、お腹大丈夫?」
「うん。ここに2人が居たら大変だったな」
「そうだね、泣いてるね。部屋行こうか、薬…は、駄目だね」
「ごめんね、女の子に送ってもらって」
「本当だよ、倒れないでね。潰されちゃう」
「頑張るよ」

ゆっくりと歩いて男子寮へ入り、自分でカギを開けて夏油は自室に入る。
握っていたビニールはギュッと口を縛って蓋のできるゴミ箱に投げ入れられた。
名前はあくまで送った側なので出入口に立ち、ベッドに入るところまでを見届ける。

「…名前」
「なに?熱測る?」
「ううん、大丈夫……」
「明日、硝子に相談しようね」
「……気づいた?」
「なんとなく。私から夜蛾先生に相談しよう?」
「……少し、時間が欲しい」
「解決はしないと思うよ?」
「……うん」
「………おやすみ夏油くん」
「…うん、おやすみ」

名前は静かにドアを閉めた。

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