呪術 | ナノ
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「うわあ……」

思わず漏れてしまった言葉だった。
弟が離反し、自分以外の家族を殺して逃走した。
その年の年末は帰る家も無ければ待つ家族も居ない名前に五条悟が「なら家おいでよ、部屋なら余ってるし」と半ば強制的に五条を迎えに来た車に投げ込まれ、着替えも無ければ準備もないまま車に揺られてきてしまった。
広い広い敷地にそれに見合ったお屋敷。
使用人が並んで「おかえりなさいませ、悟さま」と深々と頭を下げている。
それに気おくれしていれば五条が「名前先輩、風邪ひくよ」と言われて吃驚して脚を早めた。

「つーわけで、高専の先輩の夏油名前さん。しばらくよろしく」
「げ、夏油名前です…ご迷惑を、おかけします」

お屋敷の大きな広間に通されて父親と母親に挨拶をする。
弟の件で世話になった事もあり、両親はそれこそ定型文の如く「ゆっくりしていきなさい」と言われてから名前は使用人に案内されて客間に通された。
そこはまるで旅館の様に綺麗な内装をして窓からは大きな庭が見える。身を乗り出せば池やそこにかかる橋まであるのだから本当に旅館のようだ。

「名前先輩、入るよ」
「え、あ、うん」
「なに?庭気になるの?別になんもねーよ」
「立派だなって思って」
「広いだけな。先輩着物着れる?」
「ううん」
「げ、まじ?」
「着物着る機会ないから…」
「げー。じゃあ服買いに行こうぜ」
「じゃあその前に銀行行かせてよ、それかATMでも」
「は?なんで」
「お金下ろさなきゃ」
「いいよ別に」
「それは駄目。甘えすぎるのは良くないからね。お家誘ってくれるだけで私は助かったし」
「……ふーん、じゃ車ださせるから玄関で待ってて」

着替えてきた五条はさっさと部屋からでると長い足でスタスタと車の手配に行ったのだろう。
しかしながら名前はここに来てものの数分。広すぎる屋敷でどう動けばいいのかもわからない。とりあえず覚えている道順を辿っていけば玄関にたどり着けたが今度は靴が見当たらない。
その辺りをウロウロしていると外から五条が「なにしてんの」というので「靴が…」と呟く。そこ、と指さされた棚を開けさせてもらうと立派な靴の中にみすぼらしい靴がある。
名前の靴だ。

「金持ち……」
「腐っても御三家だから?まあ俺だって名前先輩利用してっし」
「ん?」
「本当は今日見合い相手が来るんだと。先輩使って潰した」
「……………かわいそ、その相手」
「見合い潰されて?」
「まさか。五条くんが相手で。いや、私その救いの手じゃん、お金貰わなきゃ」
「はー?この超絶美青年の悟さまの相手が出来ない事が損害だろ。名前先輩逆に金払ってやれよ」
「どうせ酷い事言ってお見合いぶち壊すつもりじゃない。手間をひとつ潰して私は助かったわけだし、ここはそれで手を打ちましょうや」
「ま、俺も先輩も利点だもんな」
「そういう事」
「どうせ寄ってくる女なんざ碌でもないかんな。で、どこ行く」
「お財布にやさしいファストファッションで。なんせ私天涯孤独の身なのでどこかのお坊ちゃんと同じ感覚で買い物はできませーん」
「うわー貧乏のヒガミはいやだね」
「葬儀やらなんやらあったからね、その節はお世話になりました」

立派な黒塗りの車に揺られて街にでる。
繁華街に入る前に車から降ろしてもらってATMによってお金を下ろしてファストファッションのお店に入る。そういう店にあまりは言った事がないのだろう。大量の服に安い値段、そして多くの人間。サングラスで隠れているとはいえ酷く嫌な顔をしているのがわかる。

「なにここ…」
「年末のファストファッションのお店。ささっと下着とか着替えとか見てくるね」
「は?俺に待てっての?」
「………私の下着とか一緒に見るつもり?」
「なんか問題あんの?」
「んー、一般的に見ないと思うよ。彼氏彼女でもないし」
「ぜってえ一人だと女寄ってくるんだけど」
「一人で待てないの?」
「は?」
「喋ったら女の人逃げるから大丈夫でしょ」
「………言うじゃん先輩。つか、先輩の方が俺と一緒の方がよくね?」
「マスコミに写真撮られて好き勝手書かれるぜ?俺がいたら圧力かけられっけど?」
「仕方ない、お願いしまーす」

カゴを持って着替えを探して合うサイズを確認してカゴに入れていく。
最低でも三が日くらいはお世話になりそう、というより御三家なので三が日は慌ただしいし次期当主は動けないだろう。名前一人だけ寮に返してもらうという事も恐らくは無理だろうと判断し、最悪洗濯機を貸してもらおうという図太い精神で行く事にした。

「げ、そんな安モンでいいわけ?」
「お坊ちゃんとは違うんです。次下着ね」
「うっわ。こんなん使う女の気が知れねえ」
「お嬢さまと結婚してくださいな。まあ五条くん跡取りだからより取り見取りだし心配ないけど」
「まーな。色気無さすぎ」
「色気より機能性よ機能性」
「うわ…先輩彼氏できねーよ、それじゃ」
「彼氏作れないよ、家があんなだもん」
「………、次電気屋行こうぜ」
「え?なんで」
「先輩の部屋にテレビ置くから」
「え」
「ついでにゲーム機とソフト買おうぜ。年末年始先輩の部屋でゲーム三昧しようぜ、桃鉄しよ」
「桃鉄…次期当主なのに」
「現じゃねえからいいんだよ」

会計をして大きな袋を持つ。
こういう時に荷物を持とうとしないあたり、お坊ちゃんだなと名前は思った。
別に持ってほしいわけでもないし、非力でもない。逆に荷物を持つなどと言われたら恐くて夜眠れなくなってしまうだろう。
そのまま電気屋まで歩き、小型のテレビとゲーム機、ついでにコントローラーを吟味するわけでもなく店員に言って持たせて購入する。

「…すげー」
「あ?」
「何のためらいもなく買うなって」
「五条家の坊ちゃんだからねー。どこぞの小娘とは違いますわ」
「やべえな」
「やべえぞ」
「どうやって持ち帰るの?宅配?」
「車呼んであるから乗せていくんだよ。宅配じゃ今日遊べないじゃん」
「………年末年始のイベントはちゃんとこなしてくださいね、悟坊ちゃん」
「それは名前先輩次第じゃね?」
「え。私?」
「先輩が俺のご機嫌取ってくれれば考えてやってもいい」

自分よりデカいガキの子守りは嫌だな。とついうっかり口に出してしまった名前だが「あ、今ので俺のご機嫌マイナス1」と乗ってきたので、まあそれなりにしてくれそうではある。
帰り道にコンビニに寄ってもらって洗顔や歯ブラシ、歯磨き粉etcを買ってお屋敷に戻った。
荷物を抱えて宛がわれた部屋に行くと、出る前とは違って色々と家具が設置されている事に驚いて部屋を間違えたかとも思い、調度通りかかった人に聞けば間違いないという。

「え、こわ…」
「先輩入るよ。ってか入った。お、ちゃんと準備してあんな。ここテレビ置くから」
「え、あ…う、ん?本当にここで?冗談ではなく?」
「あ?なんで冗談言う必要あんだよ」
「一応、ここ私が使わせてもらうお部屋じゃない?」
「そーね」
「別のお部屋が良いと思うけど」
「は?んな事したら俺がここで遊べねえじゃん」
「いや、だからね。こことは別の部屋で遊びましょって事よ。私寝る時とかプライベートな時間があるわけで。五条くんは多分そんな事関係なしでゲームするつもりでしょ」
「ったりめー。俺が先輩の部屋くる口実だし」
「うわー迷惑、超迷惑」
「俺が居た方がいいぜ先輩。先輩の事よく思ってねえのこの屋敷でもいるわけだし」
「えー…」
「俺がいれば手出しできねえじゃん」
「その心は」
「一応客の先輩の相手をしていれば爺の相手を回避できそうだから」
「うーん、まあ私一人よかマシか!でも寝る時とかは出てってね。あとお見合いある時は私を巻き込まないで。本当よろしく」
「げ。つーか先輩ここ泊まるんならフリ頼めばよかった」
「絶対に嫌。断る、熨斗つけて丁重に断る」
「1回10万でフリしてよ」
「15万」
「じゃあ次回15万でお願いしまーす」
「内容に寄って加算するんで、よろ」

コンセントどこ。とセッティングし始める五条に名前は考えるのも馬鹿馬鹿しいと思ってやめた。

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