呪術 | ナノ
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※夏油生存・教師IF

「夏油先生」
「ん?名前、どうしたんだい?まだ始業前に珍しい」
「五条先生がイタズラしてるんです」
「悟が?」
「3年の教室で、高専の制服着てるんです。丸いサングラスかけて」
「……んー…わかった、私が行くから名前は……そうだな、1年の教室に行っていなさい。悟が行ったら教室に戻ればいいよ」
「はい」

失礼します。と受け持っている学生の声がしたと思えば足音は夏油まで来て、そう切り出した。
現にこの職員室には五条悟の姿はなく、いえばそれは今までごく当たり前だった。あの遅刻魔が時間通りに来る方が珍しく、また任務で不在であるほうが圧倒的だったからだ。
名前は夏油の言葉に頷いてから1年の教室に向かったのだろう。
あの悟の事だ、ふざけてそんな格好をして名前をからかったに違いない。名前は真面目だからあんな義兄で苦労するよね、と夏油は内心クスリと笑う。
さてと。と椅子から立ち上って3年の教室に向かう夏油。
そろそろ叱ってやらないと1年の授業にだって支障がでるだろう、あの宿儺の器だっている事で問題は大きいのだから。

「悟、君ね…」
「あ、傑…なんか老けてんな、お前。髪も伸びてるし」
「はあ?何言っているんだい、君ね、いい加減そんなふざけた格好してないで着替えて教室に行きな」
「教室ここだろ?何言ってんだよ。てかなんで机1組だけなんだよ」
「当たり前だろ。今3年は1人なんだから」
「は?」
「ほら、着替えて1年の教室に行きなよ」
「なんで1年の教室に行くんだよ。3年なんだけど俺」
「……は?何言ってるんだ、ふざけるのもいい加減、に…待って、今君3年って言った?」
「言った。てか、さっき来たあの女誰?あんな奴いたか?編入生?俺の顔見るなり『げ』って言って出ていきやがった」
「…………ちょっと確認だけど、君今何歳?」
「じゅーなな。傑だって同じだろ、にしては老けてるけどな!!オッサンじゃん!!」

ゲラゲラと下品に笑う五条悟に夏油は眉をしかめる。
あの五条悟は10代から外見は大きく変わっていない。整った顔に幼さ残っている。青い眼も白銀の頭髪も変わらない。

「ふざけるのもいい加減にしな。17って、君28だろ」
「……は?」
「それに名前にも失礼だろ」
「誰それ」
「君が買った義妹。名前困って私の所まで来たんだよ」
「俺が買った?キッモ、なんで女なんか買うんだよ、趣味悪!てか傑も嘘つくんだな!!」
「………悟、着いて来て。硝子に診てもらおう」
「あ?」
「いいから」

んだよ。と文句を垂れながらも夏油の後ろを歩いているあたり素直である。
夏油はポケット入れていたスマホを取りだして名前に電話で「暫く私も悟もそっちに行けないから名前と1年は寮で待機してて」と要点だけを伝えて電話を切り、次に家入硝子に電話を掛ける。
酷く低い声で呻くように「わかった…」と切られた。
夏油の持つスマホに興味を持った様に「なあ、それなんだよ!」と絡んでくるが「あとでね」と流す。
嫌な予感、というのだろうか。まあスマホを見た反応でなんとなく全て察してしまう。
この五条悟は恐らく17歳、高専3年なのだ。なった原因は呪いだろう、原因はわかってもいきさつまではわからない。あの五条悟がそんな呪いにわざわざかかる意味がわからないからだ。

「っは。ご推察の通り、呪われてるね」
「硝子ババア」
「あ?」
「元に戻るには何か必要?」
「さあ?時間経過で様子見かな。あの五条悟が呪われてるんだ、今の時点では『わからない』だよ。私も調べるから後は夏油、よろしく」
「授業に任務に悟の世話まで?特級の仕事?」
「名前は良い子じゃないか、七海あたりに投げても七海が良くしてるだろ。1年は通常授業でもさせておけよ」
「あー七海という手があったか」
「七海もいんの?」

医務室で患者用の椅子に五条が座り、家入が診る。
経緯も何もわからないが結果として呪われておよそ10年前の高専時代の五条悟になっている、らしい。
同級生である家入に夏油。その成長を見てなんとなく察し、そして受け入れることにしたのだろう。五条は「あーあーメンドクセー!!」と大きく口をあげて舌をだして喚いている。

「学長には私から連絡しておく」
「悪いね。こっちは名前と1年の対処考えるよ。言われた通りに七海に名前を投げようかな」
「夏油より懐いてるからな、名前。それが良いと思うぞ」
「え、そうなの?私なりに名前のこと可愛がっているんだけど」
「本質見抜いてんじゃね?その名前って女。まあ七海が良いかは別だけど、俺の顔見てゲッて言ったのは許さねえ」
「それこそ名前本質見てるじゃないか、お前を見てゲッていうなんて。クズなんだからゲッて言われても不思議じゃない」
「あ?」
「まあまあ。普段から名前は悟の事好きじゃないから安心しなよ」
「安心の意味知ってるか傑」
「はははは!まあいいから帰れ」

シッシ。と手で追い払われて夏油はスマホを見る。
今の時間から行っても中途半端ではあるが名前の授業もあれば1年の事もある。
一番の問題はこの五条悟ではあるが、まあどうにかするしかない。
名前は基本的に良い子なので夏油の決定には従うだろうし、七海に最悪投げればいいだろう。
特級の2人のうち1人が休業となればその穴埋めは必然的に夏油になる。10代の乙骨憂太は高専生だし2人が教員になってから学生に危険な任務は与えていない。


「あれ?夏油先生、もういいんですか」
「……なに、してるの」
「皆でホットケーキ焼いてました。なんか長引きそうだと思って。先生も食べます?」
「いや、いいよ…」
「あ、俺食う」
「あっ」
「あ?」
「あ、いえ…」

寮の共同スペースのテーブルに大きなホットケーキが1枚。
名前が包丁を持ち、釘崎はチョコレートソース、虎杖はホイップクリーム、伏黒はコーヒーの入ったマグカップを持っている。

「五条先生今日目隠しじゃないんね」
「てか制服着てなんなの?」
「夏油先生のコーヒー淹れましょうか」
「あー…うん、じゃあ私達も仲間に入れてもらおうかな。それからお話があります」

うーっす。と声が揃う。
甘い甘いソースとクリームがホットケーキを彩り、名前が切り分けて各自皿の上。
高校生らしく質より量と言わんばかりに甘そう、いや甘いのだ。
伏黒から貰ったコーヒーが唯一の救いである夏油に対して五条の方は全く気にすることなく高専生たちと同じものを頬張っている。

「さて、今日の話をしようと思う。名前」
「はい」
「君は暫く七海と一緒に任務に出てもらう。七海にはまだ連絡してないけど」
「七海さん!」
「そして1年生諸君、暫く担任は不在です」
「先生いるじゃん」
「まあ要するに、だ。悟は呪われて心も体も約10年前になっている、今高専3年なんだって」
「うっそ!変わってないって事!?うっわ…」
「んだよ」
「それで五条先生はどうなるんですか?五条先生が不在なら夏油先生が代わりに?」
「いや、私は悟の穴埋めで飛ぶことになりそう。だから受け持ちの名前は七海に見えてもらうんだけど。君たちは補助監督や日下部さんかな」
「いいなー俺もナナミンがいい」
「で、俺はどうすんの傑。特級様よ?」
「君はここで待機だよ。いや、伊地知にまかせて飛ばそうか」
「夏油先生、それ伊地知さん可哀想」
「伊地知?」
「そう、伊地知。今補助監督してるんだよ」
「ふーん?」

誰よりもホットケーキにチョコレートソースとホイップクリームを使って一番量を平らげる五条。
釘崎が何か物言いたげではあったが伏黒の目配せに気付いて黙った。言ったところで面倒になるだけである、という共通認識がしっかりとある証拠だろう。
言えば名前も伏黒と同じで面倒だから必要最低限のかかわりにすると決めている。

「私七海に連絡するから名前は準備しておいで。1年は手配終わったら授業になるから教室待機」
「傑、俺は」
「君は…うーん、そうだな…待機?考えれば伊地知今任務出てるから投げられないし、だからと言って他の補助監督を今の君任せるには可哀想だし。まあとりあえず学長のとこ行っててよ」
「伊地知さんだって可哀想…」
「いつも無茶振りされてますからね」
「じゃあ五条先生も1年の教室で待機したらいいじゃん。他の先生来るんだろ?」
「はあ?なんで俺が1年と一緒なんだよ」
「ストレスたまるよ?君たち」
「俺の方だよ!!」
「私反対。ただでさえ面倒なのにこの状況で一緒とか最悪。無理」
「釘崎に1票」
「えー、五条先生楽しいじゃん」
「私後片付けして準備して駐車場待機します」
「はいはい、じゃあ皆解散。悟は取りあえず、まあ…うん、やっぱり学長の所行って」
「名前先輩、俺も手伝う」
「私も」
「俺も」
「悟は?」
「はあ?」
「あ、いいです。そんな人要らなんで。五条せ…ん、ぱ、い?先生?はどうぞ、行ってください」
「兄さんでいいんじゃない?」
「キッモ!」

うげー!と言いながら共同スペースから蟹股で出ていく五条をなんとなく見送り、学生たちは何事もなかったかのように後片付けを始め、夏油は七海に電話してそれから1年の手配にまわった。

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