呪術 | ナノ
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※アンケより

「で、こうなるんだけど」
「先生」
「なに?」
「いい加減スマホ切るかマナーモードにするか出るかしてください」

軽快な音が教室に鳴り響く。その主である五条悟は音を無視して授業を続けるが、それに苛立ちを抑えきれなくなった学生の1人が代表するように手を上げて言ったのだ。
いいかげんにしろよ、という意味も込めて。

「僕特級だからさ」
「任務じゃねえの?」
「任務なら電話なんて使わず補助監督が来るでしょ」
「じゃあ、なに?ていうか、さっさと切るか出るかしなさいよ。それでも教師なの?」
「とりあえず誰から確認したらいいんじゃないですか」

伏黒の言葉に「それもそうか」と納得してディスプレイを見れば、本家からの番号。
めんどうだと言わんばかりにプチっと切り、再びポケットに入れて授業を開始するとまた電話、切っては鳴り、切っては鳴り、それを数回繰り返す。

「いや、マナーモードにするか切れや!!」
「切るのは駄目でしょ?僕特級だし」
「でもさ、先生。鳴るものナシじゃね?一回出てみれば?」
「どこからですか」
「本家」
「いや、出なさいよ」
「本家って、五条家?先生の実家?」
「そ、実家。僕当主なんだからさ、考えてほしいよね」
「何回も鳴るってことは急ぎじゃないんですか?高専に電話来るかもしれませんよ」
「そこまで馬鹿じゃないでしょ。じゃ、教科書の」

今度の着信の音が変わった。
どうやら五条悟という人間は相手によって音を変えているらしい。
黙ってディスプレイを見ると「あ、名前さん」と妻の名前を口にする。
断りも入れずにごく普通に出るあたり、まあアレだ。という顔を学生3人はする。

「ってなんだよ、名前さんじゃないのかよ」

「名前さんのスマホ使ってかけてきたな本家の人」
「名前さんて、先生の奥さんだろ?そのスマホ使わせてもらえるってどんな人だよ」
「あれじゃない?先生の両親。貸せって言われたら貸せない理由なくない?」

「で、なに?僕授業中なんだけど」

「なら出るなよって話よね」
「まあまあ…あれだけしつこかったから、理由があるんじゃね?」
「名前さんもよく五条先生と結婚したよな」
「「わかる、それな」」

「え!…それ、本当なの?」

「何かあったな」
「あったわね」
「声のトーン変わった」

「うん、うん……名前さんは?」

「名前さん、何かあったんですか」
「伏黒落ち着け」
「あんたが狼狽えてどうすんのよ」

「わかった。今日すぐ戻るから。何かあればすぐ連絡して」

ディスプレイを叩いてポケットに突っ込み、教卓に長い両手を打ち付けるように置いて「はあー」と長い溜息のように息を吐く。
名前を慕っていた伏黒の顔色は悪く、名前に何かあったのではないかと不安そうにしている。
他、虎杖と釘崎は電話の内容が気になって黙って五条の様子を見ている。
全員が授業だ、という心境ではない。それは共通しているはず、と五条以外が思い、五条の言葉を待つ。

「で、次の問題なんだけど」
「「おおい!!」」
「五条先生、名前さんどうしたんですか」
「あー、うん。まって、今僕も反芻しているから」
「はんすう?」
「繰り返して理解しようとしてるわけ?名前さんどうしたのよ」
「えー…うん、うん。うん…………」
「名前さん、具合悪いん?先生、なら帰ったほうがいいんでない?」
「え、あ…そう、うん…いや、大丈夫」
「いや、先生が大丈夫じゃないんよ」

うんうん。と伏黒と釘崎がそれに続く。
あの五条悟が取り乱している。動画を撮りたくなるくらいに珍しい事ではあるが、一般良識を持つ学生らはそうせず、とりあえず「何があったのかを話してくれ」という状態。

「名前さんが」
「「「名前さんが」」
「………名前さん、が」
「「「名前さんが?」」」
「妊娠、したって……」

沈黙が数十秒教室を包む。
学生らはお互い黙って顔を見合わせ、「え?にんしん?」「先生お父さんってこと?」「ていうか、今の沈黙って何?」「五条先生混乱してるな、これ」「え、やば」「これ、俺ら知ってていいのか?」「なんで?」「五条家当主の妻の懐妊のニュースだぞ?」「「あ」」というのを目で会話をする。
五条名前、旧姓を夏油。
あの夏油傑の姉、いえば特級の血縁者。その血縁者と特級の子だ。高い懸賞金がかけられるのは間違いないだろう。まして今妊婦になった名前だって命が危ない。

「せ、先生?」
「あんたがフリーズしてどうすんのよ」
「五条先生、帰ってください」
「帰れって酷くない?」
「学長に説明して帰れ。どうせ俺達は先生いないの慣れてるし、座学は補助監督さんでも問題ありません」
「ま、女の立場からしたら自分で言いたかったかもね」
「そういうもん?」
「さあ?私結婚も妊娠もしてないから分からないけど。ドラマとかだと母子手帳で教えたりとかするじゃない?で、夫婦でキャーって」
「ドラマの見すぎだろ。そもそもそんなの呪術師の家系であると思うか?」
「え、違うの?」
「知らん」
「知らないのかよ!」
「でもさ、名前さんも本家?にいるか知らんけど、不安なんじゃね?妊娠って」

まあ特級の子供だしね。という釘崎の声。
一般家庭だって大変じゃね?という虎杖の声さえも五条の耳には遠い。
名前が妊娠、妊娠、妊娠……という「妊娠」の文字が繰り返させる。そのための行為はなされているので、何も不思議ではない。
普段危険と隣り合わせの現場であっても、こんなに悩むことはないだろう。
いや、嬉しくないわけではない。十分に、それこそ術式を使って舞い上がるほど嬉しい。

「あ、これ口外禁止ね」
「なんで?」
「馬鹿ね、五条家の話なんだから当たり前じゃない。まして当主の奥様の事なんだから」
「正式に公表するまで、てことですか?」
「うん、そう。君らにも危険があると悪いし」
「で、授業続けられるわけ?」
「続けるよ?僕最強だから」
「先生、教科書逆だけど。本当に大丈夫なん?」
「最強だから大丈夫!」
「まああと5分だしな」
「え、嘘!?あちゃ…進もうと思った部分終わらないか。ま、できなかった部分は補助監督にしてもらえばいいか!5分なんて誤差でしょ、本日のこの授業お終い!」

じゃあね!と教室を飛び出る五条。
出て行ってから3人は大きな溜息をつく。

「心配なんだね、先生」
「素直じゃないのよ。さっさと行けばいいのに」
「処理しきれないんだろ」

ま、こうなると五条先生も人間だったなって感じ。
同じ感想が重なり、とりあえずお祝いではないが授業が終わったといえどまだ時間があるのでそれまでは大人しくていてやるか。と誰も席は立たなかった。

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