呪術 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

「七海くんと伊地知くんの写真が欲しい」
「駄目。」
「やだ、欲しい」
「私がいるじゃないか」
「やだ、欲しい欲しい欲しい。スマホで撮りたい。若い二人の写真が欲しい」

硝子にまた怒られるよ。と呆れた風にいうが、夏油は面白くない。
名前がポソっといったのだ「若い2人の写真がほしい」と。
夏油自身、伊地知はよく知らない。とりあえず2つ下の学年のさえない男子。言えばダサいしモテないだろうという、言えば夏油から見ても「名前が好き」というタイプではないと思っている。
それに対し七海は夏油から見ても整っているし、紳士である。警戒すべきは七海だが、七海は呪術界から離れる。

「ねえ、なんで七海の写真撮りたいの」
「若い七海くん可愛いから」
「私は?」
「あー…うん…まあ、かわいい、かなぁ」
「大人の七海、知ってるの?」
「うん」
「なんで?」
「なんで?とは?」
「だって七海呪術師にならないだろ?一般企業就職予定だって聞いたよ」
「あ、あー…個人的なお付き合い?が、あって」
「お付き合い?恋人ってこと?」
「違うよ、お仕事。呪術師じゃないから、それ関係の相談にのってたの。七海くん凄くかっこいいんだよ」
「……ふーん?」

そうか。と素直に納得する夏油。
確かにこの中であれば相談しやすいのは名前だろう。
家入は戦闘タイプではないし、戦闘タイプの代表格は特級、後輩の伊地知はわからないが、名前が一番相談しやすいのは確かだ。夏油ももし七海の立場であったなら名前に相談するだろう。実にわかりやすい。

「共同スペース行きたい」
「まあ、それくらいなら。でも騒いじゃ駄目だからね」
「騒がないよ。あと抱こうとするの止めて、自分で歩ける」
「硝子に怒られるよ」
「もう数時間で戻るからいいの」
「…戻るの?」
「戻るよ?今日最終日だから」

よいしょ。とのろのろ立ち上がってよたよた歩いて共同スペースを目指す名前の後ろを心配してついて行く。
今現在の名前が不在で、目の前にいる名前が未来の存在だというのをわかっていたはずで、わかっていなかった。
この強引さは10年のうちに培われていて、それでいて友達でいてくれている、ということなのだろう。五条に対しては「懐かしい」というくらいだから、五条も10年で大人になっている、ということだろうか。

「あ!七海くん!」
「は、はい……起きて、大丈夫なんですか?家入先輩から、あまり良くないと…聞いていますが」
「写真撮らせて!」
「は?」
「写真!」
「い、いやです…」
「なんで?」
「いや、後ろの、夏油先輩が、すごい怖いので」
「え?」
「うん?」
「…これは、怖いな。」

思わず名前が納得してしまった。しかし名前は「それとこれとは別だけど。若い七海くんの写真が欲しい、1枚撮らせて」とお願いしている。
夏油は名前が七海に好意を寄せているのだろうか、勘繰るが名前からはそうではなく、好奇心のようなものしか感じられない。

「何してんの」
「ああ悟…名前が七海の写真撮りたいって」
「はあ?七海より俺を撮れよ。そのケータイで」
「スマホね、スマホ。五条くんあんまり変わってないんだもん。七海くんがいい、まだ可愛い七海くん」
「はい?」
「七海くんね、大人になると凄ーく凄ーくかっこよくなるんだよ。体つきもがっしりして、超格好いい。ギャップが凄い、写真欲しい。」
「なんで七海の大人知ってんの?付き合ってんの?」
「七海一般企業就職で、呪霊関係の相談受けてるんだって」
「ああ、一般人だと呪霊祓うとなると手間な部分あるもんな」
「そうそう。1体で出るわけじゃないし、おおきいビルだと集団でいるし。その先行投資としてさ、写真欲しい。伊地知くんのも欲しい」
「俺は?」
「そのくだり、さっき夏油くんとしたからもういいです」
「はあ?」
「はいはい可愛い可愛い」

いやです。
お願い。
い や で す 。
お願い、先輩のお願い。
と食い下がる名前。
別段仲が良いわけでもないが、悪いわけでもない。
あの4人の中では異性でありながらも話しやすい部類の名前なので、まあ先輩として慕っていても、それ以上も以下もない七海にとっては勘弁してほしい事だろう。

「名前、七海嫌がってるよ?やめてあげなよ」
「……七海くん、だめ?」
「嫌です」
「けち。いけず!」
「いけずって…この場合苗字先輩の方が意地が悪いでしょう…」
「苗字、先輩…」
「…?」
「どうしたの?」
「いや、もう、ずっと、七海くんにはそんな、先輩とか、言われてないから……なんか、きゅんと、ね」
「具合悪いんじゃね?」
「うるさいなっ。七海くん、卒業してから先輩じゃなくて苗字さん、だし。なんか、いいね、先輩。懐かしい。で、写真撮らせて」
「嫌です」
「ぐぬう…夏油くん、七海くんの写真が欲しいよう…」
「仕方ないな、私を撮ればいいよ」

うわ。という声をだして七海は「用事があるので」と逃げていく。
五条は五条でゲラゲラと笑いだす始末。
なにが「仕方ない」なのか、と問われれば「嫌がる後輩を守るのも先輩の務めだからね」とさらりと言うのだろう。

「えー…いいよ、無駄に入ってるし」
「何が?」
「五条くんと夏油くんの写真」
「は?俺まで?」
「うん。なんか知らないけど、何かある度に2人して私のスマホで自撮りするんだよね…」
「なんで?」
「私が聞きたい。何かと成長したでしょって言ってくる」

喋りながら歩いて、普通の何倍かかけてやっとついた共同スペース。
そこにいた伊地知はハッとしてから一礼し、逃げるように出て行った。上級生と未来から来たという上級生が怖いのだろう、というのはわかるが逃げることはないだろう。
まあ、しかしである。高身長のごついのが2人いれば威圧されるの事実。
名前や家入は慣れているし、あの幼い双子だって夏油に懐いている。こういう反応はある意味新鮮捉えられる。
名前は「あーあ…伊地知くん、行っちゃった」と悲しげにしてはいたが、溜息ひとつついてソファに座る。七海よりは興味が薄いのか、それとも変わり具合は七海以下なのだろう。

「あ、お茶持ってくればよかった」
「私が入れるよ、温かいのでいいかな」
「うん、ありがとう」
「俺ココア」
「悟は自分で入れな。ちゃっかり名前の隣に座るな」
「なあ名前、その俺らの写真ねえの?」
「んー?見たいの?」
「見たい。まあ、俺が超絶美男子なのは変わりないがな」
「はいはいGLGね、GLG」
「なにそれ」
「あ、うん。まあまあ……あ、これなんてどう?最近高専に夏油くん来て、五条くんと一緒に何故かいきなり脱ぎ始めて写真撮らされたやつ」

うわ。という五条の声に、意味が分からない状態の夏油。
名前のためにお茶をいれて、マグを持って五条の反対側に名前を真ん中にして座る。
名前の持つそれを一緒にのぞき込む夏油。

「え」
「なんかわからないけど、ここ最近やたら脱ぐんだよね、2人とも」
「うわ、傑なに目指してんだよ。つか、袈裟って…お前坊主にでもなってんの?」
「まあまあ。五条くんもまあ、あれですよ」
「悟、顔と体釣り合ってないよ」
「お前ガチムチじゃん。俺のはバランス取れてんの」
「はあ?まあ悟の場合肉弾戦よりも呪術戦だからね、私呪霊操術で私自身狙わる可能性あるから鍛えているんだよ、余計に」
「あ?んだと?じゃあどっちが今の時点でいいか名前にジャッジしてもらおうじゃん」
「なんでだよ。ただでさえ具合の悪い名前にそんなこと…」
「よし、じゃあ名前見ろよ。若い男の裸なんて見てねえだろ」
「脱ぐな脱ぐな」

地獄絵図を描くな。と笑いながら言うあたり、慣れっこという印象さえ持てる。
受け取ったマグカップに口をつけて、ふう。と一息。
見た目にはわからないし、名前自身自覚もないが体の負担は大きい。まして反転術式を受けていないのだから、そのつらさは想像できない。

「あ、でもまあ、2人の、ここの腰…骨盤の上あたりの、この筋肉の隆起具合は好き」
「……そこ、好きなの?」
「名前の趣味わかんねえ」
「胸も、雄っぱいって感じで、いいよ…私脂肪だし」
「パッドの間違いだろ」
「お黙り」
「…名前は、私と悟、どっちの体つき好き?」
「えー…?んー、どっちが好きも嫌いもないかな」
「厚い方がいいよね、その、おっぱい?ってのは私だろ?」
「うわー、面倒臭ぇ感じがするぞ」

あはは、と楽しそうに笑う名前。
何が楽しいのかわからない2人は眉を顰める。お互いに自分が褒められると思っていたからだ。
五条は五条で自分には自信があるし、夏油も自分を助けるという名目でわざわざ来たのだから自分が可愛いのだと思っていた。
しかし名前の答えはどちらにもつかないもの。面白くないはずがない。

「……鍛えてやる」
「まあ、大人の2人は今の2人よりすごく鍛えるからね。凄いよ」
「別に俺、お前の事これっぽちも好きじゃないけど、腹立つ」
「さんきゅー!私も五条くんに好きとか言われたら困るし」
「はあー!?お前…本当腹立つな……」
「おっと、私は怪我人、そして夏油くんを連れ戻した功労者。お礼を言っても文句を言える立場かな、五条くん?」
「…っくそ」
「ま、もう少ししたら今の私が戻るからさ」

もう少し我慢なさい。素直で可愛い私が戻るよ。と名前は笑う。
少しずつ口をつけて、やっと飲み上げたお茶を流しに持って行こうと立ち上がるので夏油が「私が」と言えば「これくらいできるよ」と制止する。

「お前さ、んなよろよろ歩いてマグカップ割るんじゃね?」
「大丈夫。戻った時割れてなかったから」
「気に入ってんの?それ」
「んー?普通かな、愛着はあるけど」
「私が洗うよ」
「いいのいいの」

洗って拭いて、食器棚に戻す。
一連の動きはとても普通で、まあ具合の悪い人間なのだから動きは鈍い。
くるりと振り返ってから

「2人とも、仲良くしろよ?周りに少しは甘えなさい、大人の名前さんからの忠告だよ」
「はあ?バーカ」
「え……な、なに?あ、あれ?寮?え、あ?あれ?」
「戻った…」
「派手な演出とかねえのかよ…」
「おかえり…おかえり、名前」
「た、ただい、ま?あ、夏油くんだ。よかった、戻ったんだね。夏油くんもおかえり」

あ、先生。夜蛾先生のところ、行かないとだよね?私、行ってくる。と逃げるように共同スペースから出て行く名前。
先ほどまでの動きの鈍い名前ではない、同じ学年の名前。

「…よかった…、本当、よかった…」
「なんで傑が泣くんだよ」
「ここで、名前が、死んだらって思って…戻って、硝子が、治してくれるだろ…よかった」
「大好きかよ」

オッエー!と五条は嫌な顔をした。

/