呪術 | ナノ
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「あ、おきた」
「げとうさま、おねえちゃんおきたー!」

ぱたぱたと足音を立てて双子が名前の寝ていた部屋から出て行く。
流石に目が覚めて一番に子供の顔は心臓に悪い。ついでに少なからずビビった名前は怪我が酷く痛んだ気さえする。
昨晩は家入お手製の強力な薬のおかげで痛みは軽減されて落ち着いて眠ることができた、というよりも寝落ちた、強力過ぎて起きていられなった。
何が入っているのだろうか、と思ったが、これはこれで楽に過ごせるのだからあえて聞かない方が良いだろう。聞いてもわからいだろうし、と名前は考えるのをやめた。

「起きたか」
「学長…」
「学長じゃない」
「今は先生でしたね。夏油くんは?」
「上層部と色々あってな。私も悟も傑も」
「あー…あえて聞かない方向でお願いします。悪化しそう」

それがいいな。と夜蛾の一言。その一言が大変だったというのがよくわかる。
それから「起き上がれるか」「食事は食べられるか」「あとで硝子を呼ぶから診てもらえ」と最低限の事を聞いて、伝えたいことを言って出て行った。
それから暫くベッドの上でぼーっと過ごし、薬のおかげで痛みはそれほど強く感じないがダメージを感じる体を引きずって顔を洗う。正直風呂にも入りたいし着替えたい。

「名前!」
「あ、五条くん」
「ばっか!!お前、何起きてウロウロしてんだよ!」
「あ、ごめ…上層部の人いるの?」
「ちげーよ!!お前反転術式使えないくせに硝子の反転術式断って、そのボロボロの体で何してんだって言ってんだよ」
「ああ、なんだ…それなら五条くんのその大声の方が怪我に障るよ」
「な!?……そーかよ!」
「大きい声ださないでって」

がるるる。と何か言いたげに唸る五条。
名前の知る現在の五条にはない青さである。
確かにこのくらいの時は何かにつけて噛み付いてきたり、絡まれたり、馬鹿にされたりしていたのを思い出した。当時の五条は悪ガキというよりクソガキ、クズがお似合いの性格をしていた。いや、現在もクズといっても過言ではないが夏油の忠告を聞いてオブラートに包んでいるようないないような、という感じである。

「……飯は」
「え?あ…んー、食欲はないけど、食べないとかな」
「何食えんの」
「…………五条くんだけ?」
「あ?」
「いや、他に人、見えないから」
「硝子は現場、傑は謹慎、七海と伊地知は補習!」
「補習?」
「一般教養の時間がないから!」
「あー……そっか……で、五条くんはなんで居るの?」
「あーもう!!傑と、お前が心配で来たんだよ!!」
「上層部のお話終わったの?」
「終わらせた!!で、何食うんだよ!」
「んー…食欲無いからなぁ…なにが食べたいって言われても…でも薬あるから食べないとだし…」
「だから!何が!食えるんだよ!!」
「そんなこと言われても…怪我のダメージあるし、薬服用してるから頭すぐ回らないんだよ…」
「悟」
「あ?なんで傑、お前…部屋で謹慎だろ」
「部屋だけじゃ生活できないだろ。寮内謹慎だよ」

髪をまとめず、両脇には幼い双子。
先ほどまで大声で怒鳴るように名前と話をしていたので双子は怖いものを見る目で五条を見ている。
夏油が歩くと置いて行かれないようにちょこちょこと歩いてその脚に捕まる。

「具合どう?」
「あー…うん、硝子の薬が効いてて痛いことは痛いけど動けないほどじゃないかな」
「ご飯食べられる?」
「食欲ねえってさ」
「うん…あ、でも、薬の関係もあるから食べた方がいいんだけどね」
「蕎麦は?それともゼリーなら食べられる?」
「少しなら」
「はあ!?なんだよソレ!俺が聞いた時あやふやだったのになんで傑には答えるんだよ!」
「悟…名前は怪我して具合が悪いんだよ、名前に聞いて答えらえる選択肢をださなくちゃ。それさえもないのに薬が効いててふわふわしてる状態の人間に聞いても欲しい答えは返ってこないよ。あと怒鳴らない」
「お風呂入りたい…」
「駄目だよ、危ないから」
「入らないよ、着替えないし」
「げとうさまといっしょにはいればいいよ!」
「うん!げとうさま、きれいにきてくれるよ」

いや、それは…駄目だろう…というのがこの場の双子以外が全員一致で思った。
あの五条でさえも、だ。
一般的に相手が子供ならまだしも、成人女性を風呂に入れる未成年男子は無理である。刺激が強いとかそういうものではなく、ある意味のジャンルになってしまう。
夏油が双子に対し、「それはちょっと…無理かな」と言えばきょとんとしていた。

「名前、着替えないの?」
「まあ、うん。あ、五条くんゴメン、お金返してなった」
「あ?ああ、そういやそうだったな。忘れてたわ」
「取りに行くね、今」

ふら…と名前が揺れてその場に座り込む。
痛み自体はカットされているが、具合が本当に良くないらしい。
夏油は急いで名前に寄り添い、内心で舌打ちをする。あの時しっかりと止めていれば、いや、むしろ夜のうちに一緒に行けばよかったのかもしれない。と。

「立てる?」
「いま、ちょっと…無理かも…」
「硝子呼ぶか?」
「いい………ちょっと、立ち過ぎだただけだと思うし…」
「気分は悪くない?痛みは?」
「少し気持ち悪い…痛みは、わからない」
「部屋に戻ろう。水は飲める?部屋にある?それとも持って行こうか?」
「お水は、ない…」
「悟、水持って名前の部屋まで持って来てくれ。私は名前を運ぶから」
「俺運ぶ。お前ガキが2匹いて面倒だろ、俺が」
「いい、私の責任だから。私がしたことだから、戻るまでは私が」
「………おい、ガキ2人。お前らちょっと来い」
「悟?」
「俺んとこにもゼリーやらあるから、分けてやる」

ちらりと夏油を見た双子は不安そうにしている。
昨晩戻ってこなかった夏油と再会し、名前が心配だからと代わりに見に来て、夏油にくっついていたら今度は同じく長身で夏油より怖い男に言われたのだ。
親しげなのは理解していても、どうも恐怖心というのは拭えない。
「大丈夫だよ」という夏油の言葉に頷き「物をもらったらちゃんと『ありがとう』というんだよ?あとあの人は五条悟、私の親友…だから、大丈夫、怖くないよ」と2人に囁く。

「ふふ」
「名前?」
「五条くん、怖いよね。私も怖いもん、でもね、五条くんも2人が怖いんだよ。だから怖い振りしてるの……もう少しすると、怖くなくなるよ」
「ほんとう?」
「うそだあ…」
「怖くねーし!」
「未来の、2人と仲良くないけど。夏油くんの親友だから、2人も怖くなくなるよ」

2人は顔を見合わせてから夏油を見上げ、夏油が「行っておいで」というと頷いてからじりじりと五条に近づく。
あと数歩、というところで五条が揶揄うように「がー!」と威嚇すると2人はぱたぱたと急いで夏油の後ろに隠れる。

「悟…」
「っけ。悪かったな、おら行くぞ。水も持って行くからな」
「ごめんね」
「おい名前、お前何に謝ってんの?」
「んー…色々?」
「お前は傑を助けたんだから謝ることなんてないだろ。まあ傑にやられてその様なのは笑えねえけど」
「それは私の責任だ。それを責めるのは違う」
「違わねえよ。弱さは死ぬことになる。まあ俺らは最強だから、その割に生きてる名前はまあ偉いんじゃね?」

夏油くんにやられたわけじゃない。と言いたいが、夏油がそれを許さない。
どういうつもりなのかは名前は理解できないが、まあ呪霊にやられた、というより言い訳としてはいいのかもしれない。何かを考えているであろう夏油の考えは名前にはわからないし、面倒なのでそのままにしている。

「ガキ共行くぞ」
「げとうさま…」
「大丈夫、だと思うけど…2人で私の分も貰ってきてくれるかな」
「げとうさまのぶんも?」
「貰ってこれる?」
「やる!」
「やる!」
「私は名前を部屋に運んで、そこで待ってるからね。走らないんだよ」

びくびくとしながら五条の後ろをついて行く双子。それを見送ってから夏油は「抱き上げるよ。怪我、障らない?」と確認してからゆっくりと横抱きにする。
正直恥ずかしいというのが本心だが、体調が思わしくなく断る体力もあまりない。加えて気分が悪いとなればされるがままになるしかない。
ゆっくりと歩いて部屋に入り、ベッドに横になっているとドアがガチャリと開いて双子は入ってくる。

「こら、ノックをしなさい」
「のっく?」
「そう。ドアをトントンと叩いてから、部屋から『どうぞ』って言われて入るんだ」
「うわ、なに傑、お前そんなことから教えてんの?」
「悟……」
「おねえちゃん、おみず!」
「ぜりーもあるよ!」
「ありがとう」
「おねえちゃん?おばさんだろ?」
「あー…この口の悪さ、懐かしい。やっぱりこの口の悪さあっての五条くんだよ」
「あ?」

ゆっくり起き上がり、ペットボトルの水をコップに入れたのを夏油が差し出してくれたのでそれを受け取ってゆっくりと飲む。
喉を流れた水を感じ、案外喉が渇いていたのだと驚く名前。

「もものぜりーたべる?」
「ぶどうもあるよ」
「2人はどれ食べる?」
「おねえちゃん、えらんでいいよ!」
「私最後ので十分。2人が選んで。次、夏油くんね」
「え、私?」
「夏油くんの分もあるんでしょ?」
「私は…」
「…もも!」
「じゃあ、ぱいなっぷる!」
「「げとうさまは?」」
「え…じゃ、じゃあ…私はブドウにしようかな」
「おねえちゃんは、みかん!」
「ありがとう」
「俺じゃあメロン」
「五条くんも?」
「悪いかよ」
「おねえちゃん、はい、すぷーん!」
「ありがとう」
「私開けるよ、貸して」

ひょいとゼリーを持って簡単に蓋を開ける夏油。双子も開けてもらい、ぺたんと床に座ってゼリーを食べ始める。
それはまあ、床だが室内だし…クッションか何かあればよかったと思う名前だが、それ以上に五条もそこで食べ始めるので思わず見つめてしまった。
むしろここまで双子と一緒に来たことにも驚いているのだが。

「なんだよ、俺が食っちゃ悪いかよ」
「いや……ここで、食べるんだって、思って」
「寂しんぼか悟」
「…そーだよ」

悪いかよ。という五条に名前は「五条くんも今は子供だしなぁ…」と思わずつぶやいた。

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