呪術 | ナノ
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「どこ行くの」
「……あ、起こしちゃった?」
「私は『どこに行くの』って聞いたんだけど」

高専への復路の宿。宿と言っても民宿のようなところで老夫婦が営んでいる民家のようなこじんまりとした宿。
こういうところは個人情報を細かく求められないだろうという名前の勘で飛び込みで入り、泊まることにした。
勿論老夫婦には少々怪しまれたが「弟と姉の子供で…色々ありまして…」と意味深に言えば察しましたと言わんばかりに快く受け入れてくれた。

「………まさか猿のために?」
「この頃から猿って言ってたっけ…」
「?」
「ま、そのまさかかな。ついでだし」
「危ないから駄目」
「なんで?」
「女の子だから。夜なんて危ない」
「私コレでも1級よ?」
「私より弱いじゃないか」
「特に深く聞いてこなかった老夫婦へのチップじゃない」

夕食が終わるころに言われた話である。
ここ最近怪我やら行方不明になったと思ったら2、3日後に何事もなかったかのように戻ってくるような変なことが頻繁に起こるから夜には外でに出てはいけないよ。という忠告を受けたのだ。
言えばよくある「夜出歩くのは危険だ」という忠告なのだが、ここ最近というところに違和感を感じた名前が少し詳しく聞いたのだ。
まあ行方不明になった人間はその時間が経っているという記憶がなく、言われて初めて自分が行方不明だったというのを知るのだという。怪我はそれに関係しているのかは不明だが、その事件が起こるようになって頻発しているという。
名前は思うに怪我はあまり関係がないだろう。日々どこかで誰かが怪我をしているのが事件によって不安によって表明化しているだけだと予測した。

「名前が行方不明になるかもしれない」
「大丈夫でしょ」
「駄目」
「なっても2、3日経てば戻るんでしょ?まだ時間はギリあるし」
「それでも駄目。名前が猿のせいで一時的でも行方不明の危険があるなんて許せない」
「ええー…」
「名前」
「あーもう…仕方ないな…」

はいはい。と名前は返事をして討伐に向かおうとしていた足を部屋に向ける。
手に持っていた呪具は夏油が取り上げ、名前の後ろを歩いて外に行かせまいと陣取るように背後を取る。
部屋は余っているから。と料金はそのままで部屋を余分にかしてくれた宿主。
宿主は夏油1人男だからと気を使ったのだろうが、名前が1人部屋を使わせてもらっている。

「美々子ちゃんと菜々子ちゃんは?」
「寝てるよ」
「そう」
「うん」
「で」
「うん?」
「いつまで私の後ろにいるのかな。呪具も返して、寝るから」
「本当に?」
「本当です。呪霊でもつけて見張る?」
「え、いいの?」
「冗談に決まってるでしょ、本気にしないで。私寝るから」
「………」
「呪具、返して」
「勝手に行かない?」
「行かないよ。だって見つかったし」
「じゃあ、これ預かってていいよね」
「……好きにしたら?明日朝ごはん食べて少ししたら出るからね」
「……うん」

おやすみ。という小さな夏油の声に、名前も「おやすみ」と返し部屋に入る。
まあ名前は呪具を奪われたくらいで諦める性格ではない。というより、余計たきつけられた気分で「明日祓うぞ」くらいなものなのである。
攻撃型ではない結界術を得意とする名前なので祓うには呪具がほぼ必須となる。
今の相手は呪霊というよりも特級の夏油の方だ。

翌朝朝食を食べ、夏油はあまりとっていなかったが名前に「子供の前なんだから食べなさい」と言われて渋々食べ、準備をして早々に宿をでる。
もう行くのか。と聞かれたが「目的地まで時間がかかるし早く子供たちを休ませてあげたい」と言えば何も言わなくなって見送ってくれた。


「話が違うじゃないか」
「違うくありませーん。夜でなかったし?行かないとは言ってない」
「けんか?」
「げとうさまをいじめないで!」
「そうだそうだ!私をいじめるな」
「いじめてないし。ちょっと私、呪術師のお仕事をするだけだよ。君たちは車で待ってて?ささーっと終わらせるから」
「名前!」
「はあい」
「どうしても行くなら私も行く」
「駄目」
「どうして」
「子供はどうするの」
「…連れて行く」
「それこそ危ないでしょ」
「じゃあ、呪霊をここに護衛として置くから」
「一般人に見えないでしょ?置き去りと勘違いされちゃう」
「菜々子ちゃん達、夏油くんとここで良い子でまってられるかな?」
「げとうさま…」
「げとうさま、さみしいって」
「美々子…」

いや、夏油くんさ…と口にしかけたが目で物を言う名前。
迎えに来た当初はまだ子供っぽくて可愛いな、なんて思っていたが、ここまでくるとウザいの一言だ。甘えられなかった過去ではあるが、対象が自分となると少々面倒な男だ。

「寂しいから行かないで」
「ごめーん。行くね」
「名前!」
「ささーっと終わらせるから、すぐ終わらせるから。いい子で待っててね、傑くん、美々子ちゃん、菜々子ちゃん」
「名前………」
「はいはい色男、そうやって何人の女落としてきたんだ?あ?」
「子供の前だよ…」

呪具を片手に「じゃ、いってきまーす」と軽やかに車から離れて行く名前。
さっと小型の帳を降ろす。この大きさであれば何も知らない窓が近くに居てもすぐには見つからないだろう。

「名前の、帳の精度が…」

上がってる。
夏油はそう思わず口にした。

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