呪術 | ナノ
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「どこいくの?」
「高専に行くんだよ。私たちと同じ呪力がある人たちがいるんだよ」
「こわい?」
「怖くないよ、大丈夫。私が前に居た学校だからね」

朝食をとり、出立の準備をして車に乗り込む。
借りていたアパートは後で五条にでも頼めば手続きをしてくれるだろうし、面倒ごとはすべて五条に任せてしまえばいい事だ。今名前のやるべきことは夏油の回収と双子の保護。
高専のこちら側からみれば夏油の回収が一番優先しなければいけない部分である。倫理的なことを考えれば子供の保護も優先されるべきなのだが、そのあたりは本人が知らなければいいだけなので名前は黙っている。

「夏油くん後ろ乗る?」
「いや、美々子と菜々子を乗せてもらうから、私は助手席に乗せてもらうよ」
「2人は夏油くんが前でいい?一緒に後ろがいいかな」
「みみこがいるからへいき」
「ななこがいるからだいじょうぶ」
「…そっか。具合が悪くなったら教えてね、あとトイレとか喉が渇いたとかお腹空いたとか」
「うん」
「わかった」
「こら、2人とも。返事は『はい』だろう」
「はい」
「はい」
「傑パパじゃん」
「名前ママならいいよ」
「は?なんで私?夏油くん時折変なこと言うよね」
「え」
「さて、では出発しまーす。長い距離だから疲れるけど、頑張ろうね」

後部座席のドアをしめ、運転席へ。続いて夏油も助手席に乗り込む。
高専の時から体格のいい夏油。乗り込むと助手席側に沈むのではないかと思ってしまう。それに背が高いから名前は気にならないが窮屈そうだ。

「名前、運転できるの?」
「昨日乗っただろ。ごく普通の運転ならできますよ、補助監督の運転技術を求めなければ、ね」
「あっちはある意味プロじゃないか」
「伊地知くん超上手いし」
「いじち…1年の?」
「あ、10年後の方。伊地知くんの運転テクは最高…」
「へえ、そうなんだ」
「夏油くん、ラジオ付けて。子供向けのなにか無いか探してえ」
「え、私が…?」
「後ろの子のためだよ。長い時間拘束するんだから、少しでも気を紛らわせてあげたいじゃない」
「テレビないし、ラジオもなかったから…」
「え、嘘でしょ」
「げとうさま、おはなししてくれたから、いいの」
「お話?」
「うん。ももたろうとか!」
「夏油くん…!」
「………名前も、聞きたい?」
「いや?別に。じゃあしりとりでもして暇つぶししてなよ、私抜きで」

私運転に集中するから。とうわべは言うが、本音としては「子供の相手とか無理だから、頼んだよ」という事だ。
高専までは距離があるし、なにせ今回は子供も同伴である。名前が好き勝手に飛ばした往路とは違い、ある程度ゆっくりいかないといけない。ざっくり倍の時間を想定している。
子供は具合が悪くなりやすいし、体が小さい分疲れも溜まる。いろんな容量が少ないのだからそれは仕方がない。大人である名前が見てもわからない部分は、夏油に頼るしかない。

「あ、あそこのコンビニに寄りまーす。トイレ休憩と気分転換でーす」
「もう?」
「1人と複数人乗せる運転は違うのだよ夏油くん」
「ああ…そうか。私も運転できたらいいんだけど」
「子供は気にしない。美々子ちゃん菜々子ちゃん、おトイレは大丈夫かな?降りたらおトイレ行こうね」
「だいじょうぶだよ」
「へいき!」
「いや、私にはわかる…2人をおトイレさんが呼んでいる…ということで、夏油くんよろしく」
「え!」
「パパだろ」
「ママは?」
「いない」

先に子供をトイレに向かわせ、終わって名前は夏油にも同じくトイレに行けといい、戻ると名前もトイレに入る。
トイレ、というよりも今までいた空間から切り離される。という気分転換に焦点を当てているのだ。夏油もずっと子供の相手をするのは大変だし、名前もトイレ位の短時間であれば双子もいう事をきいてくれるだろうという読みもあった。
戻ると店内をうろうろとしてる巨人と子供、と言いたくなるほどの体格差。老け顔に加えて疲れもあるので育児に付かれたお父さん感が半端ない。

「車戻る?」
「トイレだけ借りるのも気が引けるからコーヒーでも買うけど…夏油くんも飲む?」
「……私はいいよ」
「2人はジュースとお菓子車にあるけど、何かいる?」
「ううん」
「いらない」
「私も名前が用意してくれたお茶車で飲むよ。後ろかな」
「冷えても温かくもないけど…いいの?」
「大丈夫だよ」
「そう?」

カウンター付近でドリップの注文でもしようかと眺めれば、そのポップがない。
もしかしてまだドリップコーヒー対応前か?という名前の頭をよぎる。
あれ、いつからだっけ…と考え、結局冷蔵庫の方からお茶を1本持ち、小さなお菓子の袋を持って会計をしてコンビニを出る。
車に乗り込みペットボトルの蓋を開け、一口飲んでエンジンをかける。

「ねえ…ドリップってでてないの?」
「え…?名前、ドリップのコーヒー好きだった?どこか、そういうところに寄る?」
「おねえちゃん、どりっくのみたいの?」
「菜々子、ドリップコーヒーだよ。名前、寄るなら私たちは構わないよ」
「ううん…そっか…まだ、ないんだ……そっかぁ……」
「名前?」
「時代を感じるわぁ………よし、行くぞ!」
「おー!」
「おー!」
「切替早いな」
「時間は有限だからね。ちゃんと高専まで送り届けなくちゃ私が来た意味がないでしょ?さあシートベルトはしっかり締めたかな?忘れ物はない?飲み物の蓋は閉まってる?」
「さっき見たから大丈夫だよ」

夏油くんが答えるんだ…と名前が呟けば夏油は頭を傾げる。
まあ今までの事を考えれば納得といえば納得なのだが、それでもなあ…と名前は考える。
ハンドルを握り、道路に出て高専に向かう道中、これからだとはわかるが、なんだか色々と気が重くなる。
いや、実際のところ名前は早々に戻るので気にするところではないのだが。それでも歳をとったというのかなんというのか。子供のうちにする苦労じゃないなと改めて思ってしまった。

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