呪術 | ナノ
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「……ねえ名前」
「んー?」
「この事、悟には黙ってて」

ど田舎もど田舎。人間よりも野生生物の方が多そうなこの土地の一角のボロアパートの一室。
ここに双子と夏油は質素に暮らし始めていたらしい。
名前が乗ってきた車を駐車場というよりも寂れた空き地に停めさせてもらい、荷物やらを準備するのに来た。
冷蔵庫の中身の処理に、双子たちの服、勿論夏油自身の準備もある。
しかしわんわんと泣いた双子は疲れて眠ってしまって、今は部屋で気持ちよく眠っている。

「…………私に一方的に殴られた事?」
「違うよ。ほら、私、年甲斐もなく、泣いた、じゃないか」
「あー、それね。言わないよ、そんなこと。で、これ夕食足りないよね」
「え、ああ…名前もいるしね」
「いや、これじゃ夏油くん足りないでしょ。私買ってくるよ、スーパーあるでしょ?」
「今から?まあ、あるけど…」
「じゃあ場所教えて」
「1人で?」
「子供置いて行けないでしょ」
「私が」
「そんな顔で?」

う。と夏油が黙る。
泣きはらした顔をしているのだ、この色男は。
それにこんないきなりやってきて自分の保護者をしている人間に殴りかかった人間を子供は信用しないだろう。名前がその立場だったら絶対に信用しない。

「…名前は、私が逃げるとか思わないの?」
「逃げるならとっくにしてるでしょ。夏油くん呪霊操術で移動用の呪霊でさ」
「これか逃げるかもしれないのに?」
「大丈夫。私信じてるから、夏油くんはちゃんと良い子でここに待ってるって」
「……そんなこと、言われたら」

夏油の背中をポンと叩き、教えてもらったスーパーに車で向かう。
道中ほぼ人がいなかったのに対し、スーパーに近づけば人が見えるようになる。スーパーといえど、商店にプラスα、もしくは少し大きいコンビニくらいの位置づけ。
名前の思っていたようなスーパーではないが、これも少し自分の田舎を思い出す。
ほぼ全員が顔見知りの状態の中、名前は店員と客が楽しそうに会話しているのをすり抜けて夕食と明日の朝食、あとは移動の際に食べるお菓子を買えばいいだろうと子供ウケのよさそうなお菓子を数袋。
お総菜もあれば一品になるし、味は保証されているとそれも子供を意識して選んでかごに入れた。

買い物を終え、アパートに戻ってドアをコンコンとノックすると少し間をおいてガチャリと夏油が顔をのぞかせる。

「ピンポン押しなよ」
「寝てるかと思って」
「まあ、まだ寝てるけど。これだと夜寝てくれなくなりそうだから、そろそろ起きてほしいんだよね」
「起こせないの?」
「うーん、ぐずるとね…」
「ご飯の準備しつつ様子見してみる?匂いに誘われて起きるかもだし。食べる前にお風呂でも入れてあげればいいんじゃない?」
「名前が入れてくれるの?」
「なんで私。夏油くんがパパでしょ」
「2人を見るって大変なんだよ…一応気を使ってくれて良い子にしてはくれているけど」
「あのね、夏油くん。いきなり保護者殴った人間を子供は信用しないでしょ?私と夏油くんは学生時代という下地があるけど、あの双子ちゃんは知らないの。ゼロどころか私マイナススタートだからね?ってことで、夏油くんは双子ちゃんをちゃんと見ること。で、明日高専に戻るんだからね」
「………わかったよ。でも、私処分だろ?」
「させないから大丈夫。そのあたりは手を回してるから、私」
「また悟案件?」
「勿論。御三家当主の力は使うためにあるんだよ」
「名前…10年でなにが」
「それ、私も未来で思ってるよ。五条くんと夏油くん見て」

それとなく未来では夏油もしっかりと仲間として存在しているのだ、と言えば、夏油はどこか居心地の悪そうな顔をする。
買ってきたものを夕食、朝食と適当に分けていると夏油に「お菓子?なんで?」と言われたので「移動用のお菓子。子供の気晴らしになるでしょ?」と言えば納得したようだった。

「げとうさま…」
「あ、起きたね。美々子は…ああ、2人とも起きた」
「なんで、あのひと、いるの?」
「あの人は苗字名前。私の……お友達。私を迎えに来たんだよ」
「げとうさまに、ひどいことしたのに?」
「………うん。私を迎えに来てくれた、大事な友達。だから2人にも名前と仲良くしてもらいんたいんだ」

幼い双子はお互い顔を見合わせてから恐る恐る名前を見上げる。
名前は立っていた姿勢からしゃがみ、目線を合わせてニコリと笑って見せる。とりあえず敵意はない、というアピールである。

「はじめまして、美々子ちゃん、菜々子ちゃん。苗字名前です。夏油くんとは高専のお友達です。今ちょっと事情があって大人バージョンだけど、戻った私と仲良くしてね」
「名前…それ、意味わからないと思うよ?」
「そっか…だよね」
「げとうさま、いじめるひと、きらい」
「わ、わたしも…」
「名前は私をイジメたんじゃないよ。私、名前の事大好きだから」
「げとうさま、あのひと、だいすきなの?」
「うん、大好きだよ」

じゃあ…みみこもすき。ななこも。という可愛らしい会話のはずなのだが、名前は正直、いや思い切りドン引いた顔をして夏油を見ている。
「おまえ、うそだろ…」という顔だ。隠すこともなく、堂々と。
学生時代から口が上手いと思っていたが、それをこの子供相手にまでするのか。

「あ、あれ?名前?」
「よし、お風呂準備。夏油くん、お風呂入れてあげて」
「ご飯の準備私も手伝うよ」
「いや、結構。2人と一緒に風呂に入ってくれ、本当」
「でも…」
「起き掛けの食事より時間がとれる、食べる、本格的に寝る。それでいいでしょ」
「おふろ?」
「おねえちゃん、も?」
「お姉ちゃん!?いや、お姉ちゃんは入らないから、夏油くんと入っておいで」
「名前…と、お風呂」
「入れねえよ!夏油くん、調子に乗らないで」
「甘えていいんだよね?」
「時と場合を考えろ」

甘えたようにする夏油の頭を名前は迷いなくバシンと叩いた。

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