呪術 | ナノ
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「げぇ」
「うっわ」
「あれ?夏油くんだ」
「何してんの傑」

学生寮の共同スペース。袈裟姿ではなく、私服、というのか洋服に身を包みソファにでんと陣取っている。
その部屋に学生の姿がないのは夏油のせいであるというのがすぐに理解できた。
あの不機嫌オーラを前に退散したのだろう。とくに虎杖は突かれるに違いない。伏黒が回収したかパンダか狗巻が同じ行動をしていたはずだ。

「楽しかった?」
「楽しかった!」
「そ、そう……」
「やだ傑ってば、何か期待してたの?」
「やーねー、男の嫉妬はみっともないわ」
「そういうなよ野薔薇、ゲトーさん苗字さんのことだーい好きだからな」
「靴、買ったんだね」
「真希と野薔薇が選んでくれたの。可愛いね」

歩きやすいように、という事でスニーカーにしたの。と笑いながら答える名前。
服装もそれに合わせたように変わっていた。五条が買い与えたのか、釘崎か真希が貸したのだろう。
夏油のもとに居た時とは違った笑顔でいるのだ、楽しかったのは間違いない。

「真希がね、クレーンゲーム上手でね」
「僕だって上手でしょ?」
「野薔薇はリズムゲームが上手だったよ。10年後はいろんなゲームがあってビックリしちゃった」
「苗字さん下手くそだったな」
「結局真希さんがとってあげたじゃないですか」
「これ、持って帰れるかな…」

寮の部屋に飾りたい。と言うが大人2人は実に微妙な表情をしている。
抱っこするにちょうどいい、そのぬいぐるみ。確かに女子から見れば可愛いのかもしれないが成人からみれば少々「すぎる」のだ。

「ま、僕が預かっておくから10年後取りにおいで」
「うーん、10年も待たなきゃなんだ…」
「私らからしたら一瞬だけど、苗字さんは10年だもんな…じゃあ私はコレ、預かっとく。野薔薇はどれ預かるよ」
「私?…じゃあ、これにする。10年経ったら取りに来てくださいよ」
「じゃあ、私と友達なってくれる?10年後も」
「「あったりまえ!」」
「わあ!青春!!みた、傑、これ青春だよね!!」
「猿が…」
「傑…」

当時青春というものに遠い位置にいた学生時代である。それでも、親友と呼べる相棒が居て、その相棒が逃亡した時に未来から来た同期が連れ戻してくれた。
その同期が未来で何をしていたかと聞けば「皆に色々良くしてもらって恐縮しちゃった」という。確かに、あの当時を経験していると意味が分かるし、そうしてやる気持ちも理由もわかった五条。それは夏油も同じなのだろう、だから余計に自分の着に食わない存在が名前を関わるのが嫌なのもわかるのだが、当の名前は真希を十分に気に入っているのだから口出しはさせない。

「名前が楽しんでるんだからそんな顔すんなっての」
「で、ゲトーさん何してるわけ?」
「迎えに来たんだよ」
「残念、名前は真希と野薔薇で女子会パジャマパーティーだから。提供は僕!」
「はあ?聞いてないんだけど」
「僕のとこ泊めるの駄目なら寮ならオッケーでしょ。ほら、傑は僕が引き受けるから君らは名前連れて行きな。あ、あとで誰の部屋でやってるか連絡頂戴」
「乱入するつもりか悟」
「違うよ、何かあった時にすぐ行けるようにだよ。青春邪魔しませんよ、僕は」

じゃあ行くか。と名前を連れて行こうとする2人。
名前は名前で「じゃ、じゃあね夏油くん、おやすみ!」と少し遠慮気味に挨拶をして2人と姿を消す。
ひらひらと手を振って見送った五条。ふうと一息ついて不機嫌を隠さない夏油の顔を見て「いい加減にしろよ」と忠告する。

「私は猿が嫌いだ」
「知ってる。でも真希は呪術高専に居て呪術師を目指している、お前の嫌いな猿とは違う」
「違わない」
「まあいいや、もうその論争面倒だし。でも名前の友人関係に口出すなよ、今の名前学生なんだよ」
「ふん、まさか悟に正論を言われる日が来るとは思っていなかったよ」
「僕だって傑にこんなこと言う日が来るとは思ってなかったよ」

がるるる。とまるで犬のように唸りそうな夏油と余裕のある五条。
10年前名前が夏油を連れ戻してからの夏油のあの懐き具合は五条であっても一歩引く部分があったほどだ。当然戻った名前はその夏油に戸惑っただろう、逃亡以前と以後では態度が違ったのだ。

「名前だって真希の事可愛がってたじゃん」
「………私は反対したけど」
「こうやって遊んでもらったからっていう事もあるけどさ、名前自身真希の事気に入ってるんだよ。同性ってこともあると思うけど。ていうかさ、お前もっと余裕のある男だったじゃん」
「うるさいな」
「明日戻るんだからさ、僕が言うのもアレだけど、余裕のある大人になれよ。ガキ通り越してクソ餓鬼だぞ今のお前」
「……ぐ。仕方ない、今日はこれで終わりにしよう。悟」
「なに」
「今日君のところに泊まるから」
「…は?」
「時間がないんだ」
「え…まあ、いいけど。でもお前、学生寮の部屋行くなよ」
「行かないよ!」

「………そ。ならいいけど」と一言。
五条がゆっくりと歩きだせば夏油がそれに続く。
学生の時は同じ寮住まいだったが、卒業してからは夏油はそうそうに高専所属をやめているし、五条はマンションを借りたが仕事スタイルに合わず効率を考えて高専に住んでいる。
卒業してからはお互いの部屋への行き来は最初だけで、もう数年は行われていない。夏油のところの双子が一番嫌がったのだ。そして年月が経つにつれて夏油は教祖の仕事も増えた。貧相なアパートから豪邸、屋敷といわれるところを拠点にしている。

「なんか懐かしいな、桃鉄99年やる?」
「やらないよ。明日は名前が戻るんだからそんなことで寝坊なんてしてられないだろ」
「うっわ…」
「なんだよ」
「別に?キッショとか思ってないし」
「思ったな」
「思ってねーよ。つうか、お前共同スペースにいるなよ、生徒たちが憩えないだろ」
「知らないね」

大人が青春邪魔するなっての。と五条が言えば、夏油はフンとそっぽを向いた。

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