呪術 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

「名前さん、夏油様と恋人になったんでしょ!」
「夏油様が言ってた!ゆくゆくは結婚だって」

わくわくわく。と希望が宿った目で美々子と菜々子に詰め寄られた名前は思わず持っていたスマホを落としそうになった。

「うっそー!ゲトセン恋人いんの?」
「ゲトセン言うな!」
「俺五条先生から苗字さんと付き合うことになったって聞いたぞ」
「俺も俺も」
「はあー!?何それ」

釘崎、伏黒、虎杖が順にした言葉にまあまあ気が遠のきそうになる。
まだ釘崎の言葉はわかる。「先生に恋人がいたのか」という単純な驚きだ。しかし次の男子学生の言葉は納得できない。名前は誰とも恋人という関係になった覚えはないからだ。
もし先日の強制飲み会の件であるならば、あれは断じて違う。ついでに言うならご主人様になった記憶もつもりもなく、断ったのだ。

「断じて違う。そんな事実はありません」
「なーんだ」
「でも名前さんが夏油様の奥さんになるの、ちょっと楽しみだったのに」
「まあ五条先生のいう事なんで信じてませんでしたけど。苗字さんもいい加減あの2人に対してどうにかした方がいいですよ」
「それな。つか、あの2人にどうにかできる人いんの?」
「うーん、学長とか?前に2人が叱られてるの見たことあるよ俺」

元担任らしいからな、と伏黒。
今の名前にとってそれはどうでもいい。今問題なのはどうしてそんな話が学生内であるのか、である。あの特級クズ2人の事だから示しあって陥れようとしているのではないかと勘繰る。
飲み会の場では一応は引いた2人ではあるが、ならば外堀から埋めてしまえという魂胆か。

「あんの野郎ども……」
「双子はわかりませんけど、俺たちは信じてませんし」
「私、名前さんが夏油様と恋人だったらいいと思う」
「私もー!小さい時色々お世話になったし、私も名前さん好き」
「あのクズのどっちかでも可哀想じゃね?苗字さん」
「そーか?どっちの先生も格好いいじゃん」
「見た目だけはね」
「はあ!?野薔薇、夏油様中身も最高ですけど!!」
「まずJKに様付けをさせてるあたりがアウトだろ」
「伏黒は五条先生のなんかないの」
「…ない。ただ俺も苗字さんには世話になってるから、できればあの2人以外と幸せになってほしい」
「伏黒くん…君はなんて良い子なんだ」

あの五条悟が育てていたとは思えない子だ。と名前は大げさに涙するリアクションを取る。
そのリアクションがうざい感じはあるにしても、あの特級2人に比べたら可愛い部類で伏黒は「まあ、抵抗はしておいた方がいいですよ。俺は苗字さんがあの2人とは付き合わないの知ってるんで良いですけど。双子みたいに信じる人いると思うんで」と有難いことに名前が思っていたことを的確にアドバイスまでくれた。




「ってことがあったんですけど、変な噂流すの止めていだたけます?」

高専内にある呪術師の休憩室の1室。
長い長い脚をテーブルの上に仲良くあげてソファに座る特級2人の姿を見つけた名前は抗議した。
にこやかに、それでいて怒りの感情を忘れずに。言葉こそ丁寧ではあるが言葉には棘とつけて。
しかし2人には効果がなかったのだろう、可愛らしく顔を見合わせてから名前を見て、同じ方向に頭を傾げる。

「だって、ねえ傑」
「ねえ悟」
「僕らのご主人様になってくれないなら、こうするしかないじゃん?」
「そうそう。外堀から埋めてね、ある意味根競べだよ名前」
「根競べ?」
「そ!名前が僕らのご主人様になるか」
「本当に私たちと恋人という関係になるか」

ねー!!と2人がギャルのテンションできゃいきゃいとしだす。
地獄。それが名前の頭に浮かんだこの情景を表す言葉だった。
そもそも事故だった五条の尻を叩いたのが始まりにしても、これは無い。無いだろう。
片や御三家でもある五条家の当主に片や親友にして同じく特級の男だ。
人の性癖をどうこういうつもりはないが、それに巻き込まないでほしい。まして名前はその道の人間ではなく、同じ職場の、級は違えど呪術師だ。

「ご主人も恋人もないです!」
「えー!」
「美々子も菜々子も名前が私の恋人だよって言ったら喜んでいたのに?」
「本人から聞きました。嘘を吹き込まない!伏黒くんは信じてないけど否定しておいた方がいいと言われたけど」
「恵…」
「……名前」
「なに」

何かを考える風をして、夏油は立ち上がって文句を言っている名前の前に膝様付、警戒する名前の手を取って名前を見据える。
その恰好は御伽噺の王子様の様だ。少々歳はいっているが。

「私と結婚を前提にお付き合いをしてほしい」
「お断りします」
「愛してる」
「それはどうも、私は友愛、親愛はあっても恋愛はないです」
「傑ズルい!僕も!僕も結婚を前提に付き合ってください!愛してる、結婚して!」
「ノリが軽いんじゃ!絶対好きとか愛とかじゃないのわかりきってるの!そんなに尻を叩いてほしいのか!!」
「「うん」」

感覚がズレている。名前自身もう普通という感覚はあまりないが、この2人は逸脱をしているのはわかる。
恋愛ドラマをみてキュンキュンする歳でも、ドラマ自体を見る元気も時間もないが、これは違うと断言できるし断言する。
好きや嫌いではなく、自分の趣味を楽しむために名前を巻き込もうとしているだ。

「名前だってメリットはあるじゃないか」
「私に?」
「そう。私たちのご主人様になれば特級2人、日本にいる特級の1/2のご主人様だよ」
「却下。気色悪い、そういうプレイがお好きならお店に行って」
「それじゃ駄目だったんだってば」
「僕は最初から名前一筋だよ」
「私たちのストレスは緩和され、それによって任務は速やかに遂行されて補助監督、学生、ひいては他呪術師にだって恩恵はあるよ」
「私に恩恵がないな、それ」
「こーんな良い男侍らせられるんだよ?凄いメリットだと思うよ。それに名前、今実家から見合いだの実家に来いとかしつこくて困ってるでしょ」
「なぜそれを…まあだからと言って2人を彼氏だとかは言わないけどな」
「でもフリで誤魔化せるよ?」
「結構です。だいたいそうやってどっちか本当にさせそうだから」

っち。という2人の舌打ちが重なる。
予測はしていたが、ここまで綺麗に本心が曝け出されると、思った以上に壮観である。学生時代からの付き合いで、もう10年にはなるが、よくもまあここまでこんな縁が続いたものだと名前もつくづく思う。
サッと自分の手を引き抜いて咳払いをする。

「でもまあ、こうやって私が2人に勝てるとは思わないので、条件付きでそのご主人様を飲もうと思う」
「!ほ、本当に?」
「ご主人様やってくれるの!?」
「条件がある。呪術師の縛りではなく、私は2人は学生時代からの友人として、で。縛りまで強力なものはしたくない…と思うけど、2人は悪用しませんか」
「しない!」
「僕も!」
「絶対に?」
「「絶対に!」」




「で、あのクズ共のゴシュジンサマになったわけか」
「押しに負けたというか、なんというか」
「まあ伊地知たちも助かってるみたいだし、まあ俗にいうWIN-WINってやつか?」
「最初こそ抵抗あったけど、尻叩くだけでやる気出してくれるしグズらないし?任務もちゃんとしてくれるし」
「躾がいいな」

くつくつとコーヒーを片手に家入が笑う。
医務室の一角で2人でコーヒーを飲みながら「そういえば名前、お前」と切り出したのだ。
条件付きではあったものの、あの2人はその条件を飲んで俗にいう「良い子」にしている。おかげで名前も呪術師にしては平穏な日々が続いている。

「でも縛り付けておけば良かったんじゃないか?」
「縛りねえ…考えたんだけど、一応ほら、学友だったわけだし」
「ふーん?優しいな名前」
「ここぞというときに踏ん切りがつかなかった、ともいうけど」
「ま、あの学生時代は2人にビビり散らかしていた名前があの2人の手綱を持つとはな。伊地知も学長も助かってるし、まあ頑張れよ」
「最近さ、あの2人が猫みたいに可愛がって!って言うのよ、猫じゃないだろお前らって思うんだけど…」
「調子乗ってきたな、シメな」
「うっす」

暫く真顔でいた家入が「おえ」というので名前が聞けば、「あの2人が猫のマネして名前にすりよってるの想像した」と言うので名前も一緒に「おああ…」とドン引いた顔をした。

/