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「七海くん…助けて」

ひーん。と泣きつく名前。実際には泣いていないが、気持ち的には大泣きだろう。
普段であれば名前がこんな風に後輩である七海に弱音を吐くことはなく、むしろ同期に対する愚痴しか出てこない。
少しだけ嫌な顔をしたななみではあったが、「どうしたんです」と聞くことにした。

「五条くん叩いたっていう、アレあったでしょ?」
「ああ、アレ」
「色々あって、夏油くんのも叩いちゃって」
「…は?色々とは?」
「ん、まあ…色々。そこ話すと長くなるから…そしたらね」
「まさか夏油さんまで?」
「……うん。どうしよう」

それは、本当に…どうしましょうね。と力なく七海は相談してきた名前に呟くように答える。
これはまさかの相談だった。
まさか夏油まで、というのだろう。一応は五条より常識があるのに、と七海は溜息をつく。
別にそういう趣味を否定するわけではないが、それを同期である女性に向けるものではない。あの2人も色々大変なのはわかるが、それを身近な人間で済ませようというのはいただけない。まして教職でここは職場で、未成年である学生がいるのだ。

「学長に相談は」
「してある」
「…………夏油さんまで」
「夏油くんまで。なんか、五条くんと意気投合してしまい」
「いっそそういうお店を紹介してみては」
「五条くんには断れたし、夏油くんは行ってみたけど思ってたのと違うからって」

思わず口に手を当てて黙る七海に名前は乾いた笑いをこぼす。
先輩の性癖に、その性癖に困惑する先輩。その困惑をどうしていいのかわからない後輩。という図である。
呪術師である名前を弱い女性である、という考えは七海にはないが、それでも特級であるあの2人に比べれば誰でも弱いだろうし、単純な力の差では名前は絶対に勝てない。

「……夏油さん、案外行動力ありますね」
「なんか自分の性癖の確認とか言ってた。でもそれじゃ駄目だから、って」
「苗字さん、学生の時からですが玩具にされていますよね」
「まるで私が喜んでいるかのような発言やめてください」
「失礼しました。あの2人は苗字さんで遊んでいるのでは」
「!」
「自分で遊ぶのはやめろ、とでも言ってみては」
「それでいう事聞くと思う?」
「いいえ」

何とも言えない顔で七海を睨むように見つめる。いい案ではない、というのはお互いわかる。
そもそもあの2人から逃げることが無理ゲーというやつだ。物理的にも。
まあそれでも「一応」大人なので、任務の邪魔にはならないのが救いだろう。ついでに言えば教職と特級を兼ねているので名前以上に忙しい。
タイミングさえ合わなければ出会うことは少ない。しかし、五条はここ最近名前にまとわりついていたので色々と調整していたのだろう。

「名前ちゃーん」
「うげ」
「話をすれば、ですね」
「七海と一緒なんだ名前」
「どうも。苗字さんから相談を受けていまして」
「あ、傑も名前に尻を叩いてほしいってやつ?傑ひでーんだよ」
「いや、だって、だってだよ悟。私だって君の気持ちなんてわかりもしなかったけど、あの気持ちよさは、うん」
「うわ」
「七海くんもドン引きじゃん。ねえ私の気持ちわかる?わかってくれる?」
「苗字さんもういっそのこと京都校に行くか、京都校で補助監督するかしたらいいのでは?あちらの学長は五条さん大嫌いじゃありませんか、きっと喜んで迎えてくれますよ、嫌がらせために」
「歌姫さん居るし、いいかも…それ!」
「だめだめだめー!僕が許しませんー。ていうか、僕傑の乱入で叩かれてないんだけど」
「私が代わりに叩かれたからね。あの衝撃、快感……やっぱり名前じゃないと駄目なんだよ」
「苗字さん、こちらへ」

名前の腕を引っ張って後ろに隠すように立つ七海。
確かに今の言動ではかなりヤバイ人間である。いや、人の性癖に関してとやかくいうつもりは微塵もないが、嫌がる女性、後輩である自分に言うのが腹立たしいからだ。
まだそのような趣味があってもいいか、プロに頼むのが道というものだろう。まあ夏油の場合はプロに頼んで違うと感じた結果、なのだが。

「七海、君も名前に叩いてもらうとわかるよ」
「結構です」
「そう、あの尻から腰にかけての衝撃……消えてしまうのが惜しい痛みだよ」
「五条さん、貴方無下限はどうしたんです」
「まあその時はスキンシップというか、同期の気のゆるみというか。解いてたら名前の手がバシンってね。尻なんて叩かれてことないから最初混乱したよね。約連続2発、よかったな…」
「私も連発してほしいんだけど、どうかな」
「そこ、同期とはいえ女性ですよ。慎んでください」
「僕も傑もあと1回でいいんだよ」
「今連続っていいましたよ夏油さんは」
「まあ僕も連続に叩いてほしいけど。ほら、僕筋肉質っしょ?名前の大切なお手々が痛い痛いになったら可哀想だし」
「でも名前の手がいいと思うよ?道具じゃダメだよ」
「それな。」
「苗字さん行きましょう、早急に学長に相談しましょう、それがいい」

同期であるだけで可哀想なのに。と七海は愚痴る。
そもそも、女性が男性の尻を叩くなんてことが職業以外にあってたまるか。と口にはしないが内心で怒る。名前がそういうことをする人間でないことは七海自身承知しているし、戦闘系で尊敬できる先輩でもある。

「だいたい、夏油さんはそれ美々子さんや菜々子さんの前で言えますか?五条さんは伏黒くんや虎杖くんや釘崎さんの前で」
「ぐ」
「僕全然言えるけど」
「…嘘でしょう?」
「言える」
「う、うわ……それ教職としてどうなの?ねえ夏油くん、親友としてどうなの、そのあたり」
「うーん、ノーコメント。さすがに私だって美々子と菜々子の前では言えないよ。あ、でも名前が私と付き合って最終的に結婚まで行けば話は別か」
「話飛びすぎでしょ、それ」
「ダメダメダメ、それ僕の計画だから」
「苗字さん、京都への転属か夜蛾学長に相談して特級から物理的距離を取りましょう、それがいい」
「うん、そうする。この2人怖い。変な計画立てて怖い……」
「残念だけど名前、これから君私と任務だよ」
「え!なんで!?」
「君が一番良い帳を降ろすからだよ。補助監督より名前のほうが強固だし」
「どれだけ大きいの使うつもりなんですか夏油さん…」
「私が指名されるくらいの大物がいるらしいから、それなりに?ほら、名前」
「いや私そんな話聞いてないし」

確かにそのような大きな任務があるなら前もって関係する呪術師に連絡があるはずである。まして特級が動くのだ、個人プレーである五条は別として、今回その件が本当であるなら名前に連絡がないのがまずおかしい。
名前は補助監督ではなく1級の呪術師である。
夏油が言うように名前は補助監督よりも立派な帳、結界術が得意な呪術師であって補助監督ではない。
1級の呪術師なので日々任務はある。帳のためだけにその任務になる、という事は考えにくい。

「さっき決まったんだよ」
「嘘じゃないよ、僕証人。特級の任務が入って、帳が補助監督じゃ対応できないねって」
「やだー!夏油くんと一緒の任務!」
「え、なんで!?」
「普通に考えてこの話の流れで嫌だと言われても何もかしくありませんよ。私が苗字さんの立場であれば私でも嫌です。普通に考えて尻を叩いてくれという異性と一緒に居たいと思いません」
「そうだそうだ!」
「でも学長から任務命令でるよコレ」
「……夜蛾学長ついてきてくれないかな…ほら、元担任のさ」

まあ無理だけど。というのは誰にでもわかる。
しかしそれをあえて言葉にしたのが五条である。
ケタケタと笑って「無理だよ、僕でもわかるし」というのだから他はもう溜息しかでないのだ。

「あ、苗字さ…え、なんすか?どうかしたんすか?」
「いいえ。苗字さんに御用ですか新田さん」
「あ、え、あ、はい。先ほど苗字1級呪術師に至急の任務がでました。夏油特級呪術師との合同任務っす」
「ほら」
「はい?」
「こっちの話」
「補助監督は私が付きますので!出発は1時間後、これ資料です。確認お願いします」
「はい……」
「どうかしたんですか?」
「なんでもないよ。ほら、名前」
「ぐぐぐぐ……七海くん…」
「あ、七海1級呪術師、先ほど伊地知さんが探してたっすよ」
「じゃ、僕はこれから可愛い生徒の実習付き添いだから〜。傑、抜け駆けすんなよ」
「さあ?」
「抜け駆け?」
「気にしないで。ほら名前資料だよ、打ち合わせしようよ」

頭に「?」を浮かべ、とりあえず一礼して準備にもどる新田を見送り、五条は学生の元、七海は伊地知の元に行ってしまった。
残された名前は居心地が悪そうに夏油を見上げると、それに気づいた夏油はニコリと笑う。

「取って食うわけじゃないのに」
「同級生に尻を叩けと迫られる私の気持ちを理解してほしい」
「私なら嬉しいかも」
「私そういう性癖ないです」
「特級の尻を叩けるなんて名前は凄いんだよ?」
「そんな凄さはいらないよ私。資料確認したいんだけど」

じゃあ一緒に確認しようか。と夏油は再び笑った。

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