呪術 | ナノ
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「あっははははは!!マジか名前」
「マジマジ、大マジ。もう最悪だよ」

医務室の机をバシバシと叩いて大笑いする家入に名前は大きなため息交じりに「笑い事じゃないよ」と恨めしそうにする。
最近五条に追いかけられているんだって?という家入に事情を説明すれば、このざまである。

「お前も災難だな」
「本当だよ」
「で、五条の尻はどうだった?」
「硬かった。まあ叩いたの2回だし、私怒ってたし。堪能はしてないよ、これからするつもりも予定もない」

だいたい男の尻なんて叩いても全然面白くない。とカップに入ったコーヒーを一口。
同期である家入、五条、夏油、苗字はまあ同期である分には仲が良い。
1/2は特級だし、付き合いも長い。戦闘タイプである家入以外では同じ任務に就くことも0ではないし、名前は嫌がるが特級の2人は名前を構うくらいには好きである。

「ぜーんぶ学長が助けてくれたんだけど、そろそろシメてくれないかな」
「五条の事だ、今度は外堀埋めてくるかもしれないぞ」
「やめてよ…」
「何を思ったか名前に付き合えって言ったんだろ」
「え、なんで」
「夏油が言ってた」
「硝子からも五条くんに言ってよ、私をそんな趣味に巻き込むなって」
「あれが私が言ったところで『はいわかりました』なんていうタマかよ。名前もう1度叩いてやればいいじゃないか」
「そうだよ名前!!」
「うわあ!」

タイミングよく開いた医務室のドアに五条が立っている。
それには家入も予想外だったのだろう、名前同様に大きく肩を震わせて同じくそちらを呆然と見ている。
ふふん。と何やら得意気に入室し、2人が雑談してるのに割って入るのに抵抗がないあたり五条悟という人間である。

「名前が叩いてくれたらこの問題は解決するんだよ」
「しないだろ、五条お前味をしめたらまた名前に強請るだろ」
「でも、満足するかもだろ?硝子も叩かれてみる?」
「私はそういうの興味ないから。あ、でも夏油あたりハマるかもな、七海も」
「ちょ、硝子…どうしたの、急に」
「そういうのはああいうタイプがハマりやすい。五条、名前を独占したいなら他に勧めるのはやめておけ。とられるぞ」
「うん?よくわからないけどオッケー。で、叩く気になった?」
「なるわけないだろ阿呆か。硝子はどっちの味方なの」
「害がなければなんでもいい」

裏切者ぉ!と思わず言いたくなった名前ではあるが、そもそも仲間という意識はこの件に関してはないので全く裏切者ではない。
まだこの件に関しては夏油や七海は仲間ではあるが、家入は誰の味方もしていなかった。
故に五条の味方でもない。

「で、何か用事か五条」
「いや、2人の声が聞こえたから来ただけ」
「じゃあ帰れ」
「硝子からも名前に言ってよ。もう僕ら付き合えばいいって」
「言わん。それとこれとでは話は別だ。お前のようなクズに名前も歌姫さんもやらん」
「しょうこ…!」
「僕と付き合うか尻を叩くか、その2択だよ名前」
「七海くん助けて…!」
「じゃあもう名前は七海と付き合えば」
「そういうんじゃない!!」

さあさあ選ぶんだ。と言わんばかりに威圧する五条に名前は唸る。
助けてくれていた人間がいないこの場で名前ができるのは選ぶこと。
この場合付き合うを選択すると結果的にお願いという要求を聞かねばならなそうなので、付き合うという選択を省いた「叩く」がいいだろう。
もう諦めた方が早いというより無駄がなさそうだ。
名前は一つ大きな溜息をついて「わかりました」と両手をあげる。

「叩けばいいんでしょ、叩けば」
「お!」
「これで最後だからね、もうそんな要求しないで。それが約束できるなら叩く」
「えー、うん。まあ、それでいいや」
「いいのか?ハマってまた叩いてほしくなったらどうするんだ」
「そうなったらもう冥さんじゃないけど対価を払う!」
「もうプロに頼めよ…私名刺あるからそこ行きな?」
「なに名前、そんな知り合いいるの?」
「窓でそういう人がいてね」
「名前、早く早く」
「アラサーの大男が同期に尻を叩いてくれって強請るとか悪夢だな」
「硝子はまだ外野じゃん…私当事者だよ」
「ご愁傷様。ほら、もう早くやれよ。こっちは同期の男の醜態なんざ見たくないんでね」

諦めた名前は五条の背後の近くを陣取り、もういっそのこと盛大に一発かまそうかななんて思いポジションをとる。
しかし相手は名前よりも大きくて筋肉もあって柔らかくもない男である。単に力では勝てないし、だからと言って呪力を込めれば「違う!」と絶対に怒るだろう。あの時は怒りはあったが、さすがに呪力を込めるほどではなかった。というより、さすがに仲間あいてにそんな酷いことはしない、たぶん、だけど。と名前は意味もなくいいわけをする。

「じゃあいくよ」
「おう、かましたれ」
「なんで硝子が言うの。さあこい!」

名前が利き手を振り上げ、スパンと降ろす瞬間の事だった。
その体型が変化したのだ。ただ名前はもうスパンと気前よく叩くつもりだったので振り下ろす手は止まらない。もうこれで解放される、という気持ちだったからだ。

「い!?」
「え、あ、な……なんで夏油、くん?」
「あっはははははは!」
「……っ、京都校の東堂に頼んだんだよ、悟の姿と名前の姿がないから」
「ああ、3年の。……で、五条の代わりに名前に尻を叩いてもらった、と」
「〜〜〜〜っそういうつもりじゃなかったんだけどね!なんで私は名前に尻を叩かれたんだ」
「五条くんがあまりにしつこいから最後の1回ねっていう約束で。まあ、不幸にも夏油くんの、尻に、なった、わけだが」
「女性が尻言わない!」
「あっはははははは!」

ご、ごめんね?と一応謝る名前。
そもそも五条に頼まれて仕方なくした行為がまさか学生の術式で人が入れ替わるとはおもっていなかった。むしろ名前は被害者なのでは?と言いたいが、相手は夏油である。一応今まで味方をしてくれていた人間をないがしろにはできない。そう思って謝った。

「いや、私もごめん」
「で?夏油、名前に叩かれた気分は?五条の気持ちはわかったか?」
「………ちょっと、わかった。」
「え」

数分後、ものすごい足音を立てて医務室のドアが壊れるのではないかという音で開ける五条がやってくるのだが、大笑いしている家入とドン引いている名前と混乱する夏油はまだ知らない。

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