呪術 | ナノ
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※スピネル
※夏油生存教師IF

「この前さ、名前に尻叩かれたんだけどさ」
「はい?」
「え、待って。悟、君名前に尻叩かれたの?物理的に?」
「物理的に」
「…なんで?」
「まあ、いろいろとあって。なんで叩かれたかは忘れたけど、叩かれたんだよ尻を、物理的に」

3人掛けのソファで任務時間の調整かつ休憩をとっていた七海と夏油。
各々好きにコーヒーを片手に新聞や雑誌を読んできたときだった。
3人掛けと言っても大柄の男性が2人端に座ればもう誰かが座りたいとは思えないスペースしかない。そこにまた大柄な五条が割入って自販機で買ったと思われるミルクココアを片手に腰を下ろして、迷惑だと顔に出した2人を無視して話し出した。

「可哀想に、苗字さん被害者側ですよね」
「まあ名前は意味もなく暴力に訴えるタイプではないからね」
「でさ、僕目覚めたんだ、たぶん」
「失礼します」
「逃げんな七海。僕ね、名前にお尻叩かれてめっちゃ気持ちよかったんだよね…」
「…ん?」
「最初の1発目、次の2発目…また名前叩いてくれないかな…ねえどうやったらまた叩いてくれると思う?」
「なんで君2回も叩かれたの」
「最初は忘れたけど、2回目は『無下限切ってんじゃねえよ!』って叩かれた」
「わかりました、今後一切苗字さんの半径2メートルに近づかないでください」

深刻な雰囲気を出しながら何を言うのかと思えば、というのが七海の心情である。
いや、この場合名前が被害者(仮)となるのだろう。どういった経緯でそんなことをしたのかは気になるが、それによって新しい扉を開いた五条に狙われてしまうのはあまりにも可哀想だろう。ましてクズと名高い五条に、だ。名前が五条家の嫁の座を狙っているのであれば話は別だが、本人は全くその気はないし、むしろ嫌いな部類だろう。

「…で、また叩いてほしいんだけど」
「本人に相談したら?私も七海も、伊地知だって名前を怒らせてそんなことしないし、させないよ」
「相談したよ」
「相談したんですか!?嘘でしょう…?」
「名前可哀想に…」
「そしたらなんて言ったと思う?『私SM嬢してる知り合いは…いないので…ちょっと』って言われてさ、名前に叩いてほしいって改めて言ったら逃げられた」
「それは逃げるだろ、名前」

はあ。と大変深刻に溜息をつくが、内容は同期の苗字名前に尻をまた叩いてほしいのだがどうしたら叩いてくれるか、である。
これには五条の親友である夏油でさえ溜息をつく。これは呆れだろうか、それとも名前に対しての哀れみだろうか。

「………」
「なんだよ七海」
「いえ、そんな性癖の開示していいんですか」
「僕だって悩んでんの!女の尻叩くことはあっても叩かれることはなかったし。叩かれて喜んでる女意味わからなったし。でも、ちょっと気持ちわかったし…」
「はははは、それ学生の前で言うんじゃないよ」
「傑も七海も名前に叩いてもらえばわかるかも…!」
「いや、『僕って天才』みたいな顔するな、私も七海も叩かれないから」
「どんな理由で叩かれか知りませんが…苗字さんが知ったら怒るのでは?」
「…それだ!」
「あーあ、七海、君名前に怒られるよ?なに悟に余計なことをって」
「僕今から名前に七海と傑に相談したって言ってくる!」

大柄ながら身軽にひょいと立ち上がり、持っていたココアを飲み干して飛び出ていく。
学生の時から名前を揶揄って遊んだこともある五条だが、何度か名前に本気でブチ切れられたりしながら今でもいい友達だと思っている。しかし、その名前に尻を叩かれるなんて何をしたのか、という疑問が2人の頭にあるが藪蛇であるのは確実なので口にはしない。

「…私実はこれから苗字さんと任務なんです」
「わあ、それは大変だ。名前によろしく。まあでも名前後輩と同性には基本優しいから大丈夫じゃないかな」
「それ遠回しに苗字さんは自分らには厳しいって言ってますけどいいんですか」
「私名前にブチ切れられたことはないよ。まあ一緒に酒飲むと名前の口の悪さのターゲットにされることはあるけど、親愛だと思っているし」

私悟よりクズじゃないし。と夏油はコーヒーに最後の口をつける。
確かにまだ夏油のほうがクズではないがドングリの背比べ、五十歩百歩。
七海は学生時代に名前を玩具にしているのを見ているので、それに対しては口をつぐむ。無駄に刺激して被害を受けたくはない。これもクズかもしれないが保身だろう。

「七海く…あれ、夏油くんも一緒?」
「あれ?悟と一緒じゃないの?」
「ん?うん。七海くん、車準備出来たから行こ」
「すみません、わざわざ」
「名前」
「うん?」
「悟の尻、叩いたんだって?」
「え」
「悟が目覚めたかもって言って、名前にまた叩いてもらいたいってさ」
「えー…やだ…」
「頑張って逃げな?私は忠告したよ」
「忠告じゃなくて楽しんでいるの間違いでしょ。七海くん、行こ」

そうですね。と名前が頷いて立ち上がろうとした瞬間、名前の背後に大柄の五条の姿。
風圧で気が付いたのだろう、名前が思わず振り返ると不敵な笑みを浮かべた五条がいて名前は「うひゃ!」と悲鳴を上げる。
その五条の挙動には七海も夏油も思わず寒気を感じ、鳥肌になる。

「名前ちゃーん」
「え、…な、なに?怖いんだけど…え、」
「ねえ名前ちゃん。僕、君に尻を叩かれて目覚めたかもしれないって七海と傑に相談したんだ」
「今聞いた…私ね、人の性癖に興味はないけど、そういうことはあまり人に言わないほうがいいと思う。まして五条くん『一応』教師でしょ?」
「一応ってなに、一応って。ちゃんと教師してますけど僕」
「私これから七海くんと任務なので。七海くん、行こ」
「はい。それでは失礼します」
「ねーえー!もう1回、もう1回叩いて?」
「い、や!しつこいよ」
「悟ー、そんなにしつこいと七海のお尻叩かれるんじゃない?」
「叩かないよ!なんで私が七海くんのお尻叩かないとなの」
「じゃあ僕が名前の尻叩く」
「は!?」
「五条さん…貴方って人は…」

さっと五条と名前の間に入って名前を庇う体勢をとる七海。
名前が五条の尻を叩くのと五条が名前の尻を叩くのでは意味も力も違うだろう。

「嫌なら僕の尻を叩いて!早く!」
「悟」
「何!?…あ、が、学長……」
「お前、こんなところで何をしている」
「あ…」
「何をしている」
「え、えっと……」
「名前、七海。任務に行け、伊地知が待ってる」
「はい、失礼します」
「失礼します」
「傑、説明しろ」

名前と七海は急いでその場を去り、残された五条と夏油、そして夜蛾学長。
ソファに座ってゲラゲラと笑っていたが、夜蛾の登場によってスンと黙っていた。
そして室内に五条を入れ、夜蛾も入って戸を閉める。

「人の往来があるところで何をしている」
「あっと…」
「名前に尻を叩かれて目覚めて、また叩いてほしいって名前に強要してましたー」
「す、傑!?」
「最後には名前の尻を叩こうとしてました」
「ほう?」
「私と七海は止めていましたが悟の暴走は止まらず名前に迫っていました」
「傑、お前笑ってたよな」
「あ」

ガチンガチンと教育的指導が炸裂。
その制裁を受けた2人は頭を抱えてその場に蹲ってうめき声をあげる。
学生時代の担任という事もあってこの2人は特級という階級でありながらも学長には頭が上がらない。

「いいか、いい年して女性に対して馬鹿なことをするな。ガキだと許される歳じゃないんだぞ」
「だって……」
「なんだ」
「名前に、尻、叩かれたら……気持ちよかったんですよ……」
「おい悟、学長ドン引いてるぞ…」
「悟、人の性癖に口を出すつもりはないが、そうやって口に出すの止めなさい。そういうのは店か彼女、もしくは結婚した相手にしてもらいなさい。同期の名前を困らせるな」
「……!」
「どうした」
「じゃあ、名前を僕の彼女、ゆくゆくは嫁にしたらいいって、こと…?!」
「どうしてお前はそういう事に対して思い切りがいいんだ…」

その言葉に夜蛾は小さな声で名前に謝った。

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