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この人懐っこさは彼が元か持っていたものだろう。
ほぼ初対面である名前にこんなにも懐いてくれているのだ。人であったならかなりコミュニケーション能力が高いに違いない。むしろ塊だといってもいいくらいかもしれない。
結界術を使って虎杖(猫)の足場を作り、上に投げた小さなボールを追いかけさせる。
今更ではあるが、こうやって使っていれば七海のキャットタワーの代わりになったな、なんて名前は思った。

「に!」
「おお、すごいね」

ふんふんと興奮気味にボールを咥え、「とった!」と言わんばかりのキラキラの瞳。名前は偉いぞ、と頭を撫でるとゴロゴロと喉が鳴っているのがわかる。
聞いていた話は酷く断片的で、彼がこんなにもアクティブというかアグレッシブというのか、運動量が凄いとは思わなかった。
最初そこらへんの草を猫じゃらしの代わりにちょろちょろと動かした勢い余って食べそうになったし、七海のチーズを買った時のおまけのこのボールももうボロボロだ。

「あ、そういえばイタドリくんはご飯何食べるの?何貰った?」
「んに?にう、ににに」
「うーん、わからん。電話して聞こ」

ポケットに突っ込んでいたスマホを出して「五条悟」の名前をタップして電話をかける。
すぐに『もっしもーし』とご機嫌な声が大きくでた。

「もしもし?イタドリくんのご飯なんだけど」
『悠仁の?あー、昨日肉あげたけど。ほら、さすがにキャットフードってのもね、悠仁人間だし』
「それって用意してある?」
『食べあげたよ?』
「そっか…うーん、私も猫が食べられそうなのないから…どうしようね、お腹空いたよね、そろそろ」
「にう」
『あ、今の悠仁?』
「うん。スーパーにでも買いに行こうか…ササミ」
『悪いね』
「ほんとにね。ちゃんとご飯の事も考えてよ、トイレとか」
『てへ』
「可愛くない。じゃあね」
『悠仁の事よろしくね』

電話が終わり、一応は監視だと言われているので彼から離れていいのかと悩む名前。
確かに今は猫、いや人間であっても監視対象であったなら離れていいのか?監視である五条は任務だ出張だと一緒にいないからいいのか?うーん。と名前は悩まなくていいことで悩む。
そんなことを知らない虎杖(猫)は遊ぶ?それとも食べる?と鼻を鳴らしている。

「苗字さん?」
「あ、伏黒くん」
「あ、虎杖お前…苗字さんの世話なんてんのかよ」
「同級生、だっけ?」
「はい。五条先生が世話してるって聞いてたんですけど」
「ねえ、悪いんだけどちょっとイタドリくん預かってくれない?」
「え」
「イタドリくんのご飯用意したいの、五条くんに聞いたら用意してないっていうから。ついでに伏黒くんのご飯も買ってくるから、駄目かな」
「いや、いいですけど…まさかキャットフードですか」
「いやいや、それはさすがに。鳥のササミ湯がいたの持ってくるよ、スーパーで買ってちゃちゃっと作って」

お願いね。と遊んでいたボールを渡して名前は走る。一応共同とはなっている自転車を借りて近くのスーパーに走り、自分の昼、ササミ、伏黒の昼をかごに入れてまた急いで戻り、台所で湯がいてまたそこに戻った。

「ごめんね、待たせて」
「いえ。すみません、虎杖とか、俺まで」
「ううん、気にしないで」
「にー!」
「はいはーい、じゃあこれイタドリくんのご飯ね。ゆっくり食べるんだよ」

こっちは伏黒くんの分。とお総菜コーナーにあったお弁当とおかずの盛り合わせを渡す。
育ち盛りの男の子だ、これで満腹にはならないかもしれないが、それなりに腹の足しにはなるだろう。名前の高専時代の同級生の男子はもっと食べていたが、体格から見てこれくらいあれば足りるだろう、というのが名前の考えではある。実際は足りないかもしれないが、それでも彼であれば多少我慢できるはず。

「すみません、こんなに」
「足りるかな」
「いただきます。苗字さんこれから昼ですか」
「うん。そこらへん適当に座って食べるよ」
「じゃあ一緒にいいですか。虎杖こんななんで」
「いいけど…いいの?」
「釘崎は他の呪術師のサポート実習ですし、あの双子は1日任務。俺は午後から任務で」

じゃあ、そうしようか。とベンチがあるところまで移動する。勿論虎杖(猫)に声をかけ、少しばかりご飯を中断してもらう。
移動して再度ササミの入った紙皿を降ろし、並んで座って食事を開始する。
最近どうだ、とお互いに報告したり、虎杖という学生がどういう人間かを聞いたりした。

「に!!」
「あ、食べた?お水飲む?」
「にう!」
「………お前、なじんでるな」
「七海くんはここまでなじんでなかったね、確かに」
「七海さんも?」
「うん。七海くんは私が面倒見たんだよ。五条くんと夏油くんは特級2人分の穴を埋めるために1級が飛び回ったから私は夏油くんを学生寮に運んで終わったけど」
「五条先生が本家に送還になったやつですね」
「文句言われちゃった。でも特級がそんな呪い受ける方が悪いよね、夏油くんはまだしも五条くんはアウトでしょ」
「夏油先生もアウトですよ」

まあ、確かに。と笑う。
少しの雑談の後、任務の準備があるからと去る伏黒に虎杖(猫)が元気よく「またな!」と言わんばかりに鳴き、ポンポンと頭を撫でてから行ってしまった。

「さて、イタドリくん。どうする?遊ぶ?」
「……にー…う」
「お、欠伸。仮眠室使わせてもらおうか」
「うに」

おいで。と案内しようとするが虎杖(猫)はその場でぐぐぐーっと伸びてからコロンと横になる。
猫、まさしく猫である。確かにここはちょうどいい日当たりで猫でなくともごろんと横になりたい。しかし、しかしである。一応は人間、未成年ではあるが青年である。
ここで寝ない?なんて誘うように目をポチポチとさせるが、さすがに一緒にここで寝るわけにはいかない。
ちょっとゴメンね。と虎杖(猫)を抱き上げて仮眠室に向かう。
抱いて歩けばゴロゴロとご機嫌に喉が鳴る。逃げられたり暴れられたりするより断然にいいが、思春期の男の子がこれでいいのだろうかと名前は心配になる。

「あれ、名前…虎杖抱っこしてる」
「にう?」
「夏油くんお疲れ。眠たいみたいだから仮眠室にって思って」
「え、なんで?」
「だって…イタドリくん、人だし…?」
「なんで抱っこしてるの!?」
「だって、床で寝ようとしてたから…?」
「私抱っこしてもらってない!」
「夏油よ、お前もか」

思わず真顔になる名前。
お前女子高生(高専生)に抱いてもらっただろ、と思わず呟く。
相変わらず虎杖(猫)はゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らし、反対に夏油は不満そうにして名前の前に立つ。

「まあいいや」
「よくない」
「夏油くんにイタドリくん預けるわ」
「……え、なんで?」
「夏油くんも先生、そして特級だから。私1級、この子宿儺の器」
「にう…」
「ほら、虎杖が寂しそうだよ名前」
「眠いだけでしょ。はい、パス」
「パス返し」
「やめろ。先生でしょ、教師!」
「虎杖は受持ちじゃないんだよ」
「暴論だ…!イタドリくん可哀想…」

よしよし、と抱きなおすと夏油の機嫌が少し悪くなる。
あからさまにムスっとしているのだ。いや、特級で教師なのだから学生である虎杖(猫)の保護を優先してほしいというのが名前の本心である。まして特級呪物を取り込んでいる学生だし、ついでに言えばつい最近まで一般人でごく普通に過ごしていたであろう青年だ。

「夏油くんさ…いい加減私で遊ぶのやめな?大人でしょ?」
「遊んでない、真面目だよ」
「あっそ。じゃあね、私イタドリくんを仮眠室運ぶから」
「一緒に寝るの?」
「まあ、そうするけど」
「……七海と虎杖狡い…私だって名前と寝たかった」
「うわ」

ヤベえやつがいる。と名前は虎杖(猫)を抱えて逃げるように仮眠室に走った。

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