呪術 | ナノ
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「あれ?名前さん指輪してんね」
「…本当だ」
「今日は報告書だけ出したらオフだからー」
「なになに?恋人からの指輪ってやつ?」
「彼氏いたんですか?」
「婚約指輪だよ」

名前さーん、ちーっす。と高専の廊下で名前の姿を見つけた虎杖が声をかけ、一緒に居た伏黒も挨拶をする。
仕事柄黒い服装の方が何かと都合のいい呪術師である名前が珍しくモノトーンではない服装をしているのでどうしたのかと会話している際に名前の指に光る金属を見つけて聞いてみた。
普段指輪を始め装飾品はあまり身に着けておらず、あるとしたらごくたまにシンプルなピアスをしていたような気がする。という程度のモノだ。任務での怪我の元になったりなくす心配があるのだから用心した事に越したことはない。

「え………」
「こ、ん、やく、ゆび、わ…?」
「その反応は…なに?」
「俺…名前さんが、婚約してたなんて…知らない…」
「ふ、伏黒ー!」

まるで風船が萎んだがごとく、ふしゅるるると伏黒は膝をついてショックを受けている。
名前と伏黒恵は五条悟経由であるが関係はある程度長い。
伏黒の学校行事や進路相談、面談、卒業式、入学式と色々と参加してくれたし、それなにり親交があったつもりだった。
しかしそれは伏黒の一方的なものだった、と言われたようなものだ。
婚約という一大事の報告を受けていないのだから。

「え、あ!!ごめん…恵くんに言ってなかったっけ……」
「………」
「声ちっさ!はい。だって」
「ごめんねえ…色々あって忘れてた……そうだ、私言ってなかったわ…」

ぐず。と普段の伏黒では考えられないが鼻をすする音さえ聞こえた。
それには名前も焦ったのだろう、膝をついて「ごめんね、恵くん。言わなかった私が悪いよね」と背中をさすったり頭を撫でてみたりと子供をあやすようである。
一緒に居た虎杖には二人の関係は「ま、齢の離れたお姉さん。って感じかな」という担任の言葉の感覚であったし、虎杖自身には兄弟姉妹がいないから余計わからない。
でも、確かに自分に親しい人間が知らない間に婚約していたら多少なりともショックだろう。良くも悪くも。

「…誰ですか」
「え?」
「相手です…まさか五条先生だなんて言いませんよね」
「それはないわ」
「そうですよね!」
「伏黒、めっちゃ先生否定すんじゃん…」

お前はあの人の滅茶苦茶なところをあんまり知らないんだよ。と伏黒は不満そうに立ち上がりながら言い捨てる。
それに対して名前も「まあ…五条くんは、五条くんだからねえ…」と否定ともとれない事を言いながら同じく立ち上がる。
確かに二人から見れば五条悟という人間との付き合いは短いだろう。しかしその短さの中でも滅茶苦茶である、というのはわかっているつもりだ。

「おや、何をしているんですか」
「ナナミン!なあなあ、ナナミン知ってた?名前さん婚約してるの」
「ええ」
「え!じゃ、じゃあ七海さんは名前さんが誰と婚約したか知ってるんですか!!」
「ふ、伏黒、くん…?」
「伏黒ね、めっちゃショック受けてんの。名前さん婚約したの知らなくて」
「伏黒くんに言ってなかったんですか?」
「色々あって…特に五条くん関連で」

ああ。という男性の声が3人分重なる。
全員が「まあそうなら仕方ない」という思いからだ。
五条と名前の弟は親友で、その関係の延長で五条は名前を慕っていた。
その弟の件で居場所をなくした名前に居場所を提供したし、それが縁で今では五条家ではある意味欠かせない人間になっている。五条家の当主へのクレームは名前へ、という不文律さえできているとの噂である。
実際本家からの当主である五条悟への見合いやら面倒な件は名前に連絡が来て、それから当主という変な経路ができている。

「で、誰なんですか」
「俺も気になる!あ、その前に婚約おめでとうございます!いつしたか知らんけど」
「あ、おめでとうございます」
「はい、ありがとうございます」
「…ん?なんでナナミンが応えるん?」
「七海さんも婚約したんですか?」
「ええ」
「マジ!?誰と誰と?俺知ってる人?知らん人?」

すると名前の腰に手を回し、引き寄せる七海。
そしてスッと筋張った左手を見せる。

「え、」
「あ、ま、」
「私達婚約しました」

男子高専生の声が重なって「うあーーーーーーーーー!!!!」という絶叫となった。
名前はあまりの声量に耳を押さえ、七海も顔をそむけている。
しかし、いや流石、というのだろうか。そんな大声をあげても誰一人として様子を見に来るという事をしない辺り呪術高専である。
叫びのひとつやふたつでは警戒音には程遠い、ということなのだろう。
なにより訓練やらしてたらどこかで轟音が聞こえても基本無視されるのだから普段通りと言えば普段通りである。

「じゃ、名前さんナナミン!?いや、ナナミンがナナミンじゃなくなったパターン?」
「まだその点については相談中です。任務に関してはお互い、といっても私の姓が変わっても七海を使うよう予定なので」
「名前さんの苗字って何?俺そう言えば覚えてないや」
「夏油だよ」
「げとーげとー…うーん、」
「どうして虎杖くんが悩むんですか」
「いや、なんか聞き慣れなくて。名前さんは名前さんだし、ナナミンはナナミンだし」
「七海です」
「七海さん!」
「はい?」
「名前さんを、名前さんを、よろしくお願いします…」
「め、恵くん!?」

深々と頭を下げる伏黒に名前が今度は困惑した。
確かに年の離れた弟という感覚ではあるが、実の弟よろしくその態度は違うと思うからだ。

「はい、勿論です」
「名前さんも呪術師なんて辞めて幸せになってください…」
「呪術師辞めないよ」
「辞めていいですよ、蓄えは十分ですし。名前さんだって十分あるでしょう?」
「なんですか、五条先生関係ですか、俺も協力するので黙らせましょう」
「伏黒どったん…おかしいよ、さっきから」
「俺は名前さんに幸せになってほしいだけだ。相手が七海さんなら文句はない、名前さんの幸せの障害になりそうなものを排除したいだけだ」
「や、やるき〜…」
「本家いくなら付き合います。いや、付き合わせてください」

名前が「そんなことしないよ!」と焦れば隣にいた七海が「落ち着いてください伏黒くん」と窘める。
そしてこう続けたのだ。

「いいですか?今や名前さんは五条家にとってかなり重要なポストにいます。それを呪術を辞めて家庭に入って金輪際関わりません。なんてことを許すはずがありません」
「五条家怖っ!てか名前さんてすげーんね」
「五条家の大旦那様とか大奥様にはお世話になったからね」
「じゃあ潰しましょう五条家」
「物騒な事言わないの」
「いいですか?ここは五条家本家を利用するんです」
「こっちでも物騒な事言ってる!」
「ナナミンまで!?」
「利用…?」
「馬鹿みたいな金持ちなんです、当主が言う事を聞く相手なんですから名前さんには権限がかなりあるんですよ」
「そうなの!?私知らなかったんだけど!?」
「当たり前じゃないですか…そうじゃなければ本家からいちいち名前さんに連絡なんて来ませんよ。まあお目付け役になってはいますが」

確かに今まで結構本家から連絡結構あったけど…と名前の声がだんだん小さくなる。
本人はそう思っていなかったのだろう、「えー、えー」と小さな悲鳴を上げている。

「それに変に刺激して五条さんと結婚させようなんてなったら大変じゃないですか」
「確かに…!!」
「名前さん、色々大変だと思うけど頑張ってな?なんていうか…伏黒とか、五条家、とか色々…」
「う、ん…まさか、こんな事になるとは思ってなかったよ…」
「まあ五条さんには大変ごねられましたからね、ご祝儀くらいはたんまりもらいます」

あれは…酷かったねえ…と名前が疲れた顔で言ったが、虎杖はそれが今の話も含まれてるんだろうな、となんとなく察した。

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