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「結婚する運びとなりました」

その後に小さく「なりましたぁ」と続く名前の声。
名前の腰には七海の大きな手が居座り、引き寄せている。
その報告を受けた五条家当主、五条悟は持っていたアイスを落としかけたが何とかこらえ、空いている方の手でアイマスクをグイッとたくし上げる。

「え…今日ってエイプリルフール?」
「いいえ」
「え…な、んで?」
「聞こえませんでしたか?結婚するんです」
「誰と誰が」
「私と名前さんが」

ええ………。とあからさまに困惑している五条。
それもそうだろう、片や堅い性格の後輩、片や親友の姉。同じ呪術師としては1級であって実績も実力も信頼もある。
二人は確かに親しかった。高専時代から交友があったし、今現在も同僚として働いている。
それは五条悟だって知っている。
個人的なお願いだってした事があるし、まあ頼まれることはあまりないが。
名前が七海を可愛がっていたもの知っているし、勿論五条だって可愛がってもらっていたわけだ。
ただ納得できない。
どうして七海なのか。何故七海なのか。何時から付き合っていたのか、とかだ。
いや、問題である。
名前が結婚する、というのだ。
今まで親友の姉だから、と面倒を見てきて、色々甘えていたあの名前が、だ。
勿論名前自身も五条に甘えていた部分はあるが、大半は五条が名前に甘えていた部分がある。名前も世話になっていた部分があるので強くでる事が出来ないし、なにより弟の件がある。
お互いに甘えていた部分がある。
しかしそれにしても、である。
五条家に世話になっていたのに、その当主である五条悟に知らせずに付き合って結婚だなんて言語道断である。

「え、だめ」
「は?」
「結婚は許しません」
「どうして貴方の許可が要るんですか」
「だって僕五条家当主だし」
「名前さんの両親でもないでしょう」
「でも名前さん五条家預かりだし」
「昔の話でしょう」
「……一応、五条家側の人間だし」
「名前さんは夏油です」
「てか、いつから?いつから付き合ってたの?僕全然知らなかったんだけど」
「別に貴方にいちいち報告する事でもないでしょう」
「することだね。」

はぐ。と持っていたアイスを大きな口で頬張る五条。
今までずっと黙っていた名前は愛想笑いをしてしている。
それは五条が怒っているから、なのか、こうなっているから、なのかはわからない。
その様子を見て五条はますます機嫌が悪くなる。
名前が何も言わないからだ。
五条は名前を大変気に入っている、親友の姉だ。親友はその姉を大切にしていた、だから大切にしているつもりだ。
だから名前も五条悟を当然大切だと思っているはず、そう思っていた必然的に。
だから何かあれば直ぐに相談、報告があると思っていた。
しかし現実そうじゃない、と突きつけられている。

「名前さん、七海に弱みでも握られてるの?」
「どうして私が名前さんの弱みを握って結婚するんですか」
「今名前さんに聞いてんの」
「ちゃんと付き合って、一番に五条くんに報告してるよ」
「………だって七海と付き合ってるなって言ってないじゃん」
「言う必要ないでしょう、私と名前さんの関係なんて」
「ある!大いにある!」

がつがつがつ。と残っていたアイスを口に押し込め、その長い足でまるで動物が威嚇行動をするかのようにダンダンと大きな音を立てる。
地団駄、というよりも本当に威嚇行動である。
付き合いの長い二人でなければ、この不機嫌であるという行動はわからず、新人の外部から来た補助監督であれば五条悟の機嫌を害したと顔を青くするだろう。

「いつ!?いつから!?」
「……七海くんが、復帰したくらい、から」
「はあ!?んな前から!?」
「別にいつからだっていいじゃありませんか。大人なんですし」
「………っ、僕、全っ然知らなかったんだけどさ」
「私も七海くんも言ってないもんね」
「なんで、七海なの…名前さん」
「な、なんでって……」
「僕に言えないワケ?やっぱり弱み握られてるんでしょ」
「五条さんじゃあるいまいし……」
「弱みなんて握られてないよ。ちゃんと付き合って、お互い納得して結婚するんだよ」
「……やだ」
「やだって貴方…子供じゃあるまいし」
「やだからやだって言ったんだよ!なんで?なんで七海なの名前さん…」
「じゃあ逆に誰なら良いんですか」
「え…………だ、れ、だろ」

そこは自分じゃないんだ。と五条以外の二人は思ったが、五条としては最初から自分はカウントしていない。
この呪術界がどれだけ腐敗しているか、どれだけ辛く苦しいものか、清廉潔白ではいられない、綺麗な死に方なんて夢を見る程度にしか望めない。そんな世界の御三家と呼ばれる家の当主の一人である自覚はある。
たった一人の為になにか出来る事なんてあるはずもない。できるのはたった一人を殺して犠牲者を最小限にする事だけの存在でしかない。
でも、それでも。
親友の姉であっても、今まで色々甘えていた人間が誰かの隣に立ってしまうのは酷く寂しい。
ただただ「やだ。やだ。結婚しないで」と繰り返した。

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