呪術 | ナノ
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※みゃみゃみの続きのようなもの

「名前、馬鹿2人どうする」
「どうするって言われても…」

ねえ。と名前は白い猫と黒い猫を交互に見る。
後輩である七海が猫になる呪いを受けて世話をしたのは記憶に新しい。とても大人しく、賢くてとてもいい子にしてくれた。普通の猫のように接したい気持ちをぐっとこらえ、相手は人間、後輩、成人男性と言い聞かせ、でもちょっとだけ抱っこしたり撫でたりもした。

「なんで?」
「さあな」

ざっくり言えば名前の同期である特級2人が七海と同じ呪いを受けた、ということなのだろう。
低い声でにゃーにゃー鳴くのはいいがいい加減うるさい。
なんで特級がそんな呪いを受けるのか、と問い詰めたいが「七海にそれ言った?」と言われると面倒なので名前は言葉を飲み込む。

「名前面倒見てくれる?」
「硝子の頼みでも断る」
「だよな。しかし特級2人がコレだとさすがにアレだ、学長と相談するか」
「あ」
「どうした」
「硝子硝子、ちょいちょい」

医務室での相談だったが名前は家入の手を引いて廊下に出る。
ついてこようとする猫2匹に名前は「ここで待て」と命じてドアを閉め、声が聞こえないように数メートル離れてからあたりを確認して話を再開する。

「学長経由で五条くんは五条家に引き取って面倒見てもらおうよ」
「五条家に?当主が猫になったって?」
「そうそう。五条家は五条くんが当主だし、独身でしょ?ここぞとばかりにいいお嬢さんを当てがってくれるでしょ」
「まあ、それはあり得るな。当主だし手厚いだろう。夏油はどうする」
「美々子ちゃんと菜々子ちゃんが学生寮にいるでしょ?あの子らなら面倒見てくれるって」
「確かに。あの2人の親みたいなもんだからな夏油。よし、それでいこう」

面倒ごとは引き受けたくない。という2人の中での共通意識が通じ合い、固い握手を交わす。
そもそもだが、特級がそうやすやすと呪いを受けるなという話である。1級もだが。
特級2人が不在となれば名前は忙しく動き回ることになるだろうから最初から2匹の世話というものは除外されている。勿論七海も。補助監督に至っては全員が「無理」と音を上げるだろう。
私は学長に報告を兼ねて名前の案を相談する。学長は9割方その案に乗るだろうから名前はあの馬鹿の相手をしてくれ。あとあの2人に連絡をして準備させておけ。
と家入に言われて名前も自分のスマホに手をかける。
あの2人と名前はまあ夏油経由ではあるがある程度交流はあるし、一緒に出掛けたこともある。なので連絡先は交換しているし、何ならSNSでつながっている。スマホで事情を説明し、お願いしたいのだと送れば既読がすぐについて「OK!」とスタンプが。
ここからは名前が2匹にいかに気づかれないように接するか、である。
ガラリと医務室のドアを開けて素早く入る。猫はするりと抜け出てしまうので気を付けて。

「硝子は学長に事の報告に行きました。しばらく私とお留守番です」

間違いじゃない。嘘も言っていない。実際今家入は学長に報告に出向いたし、名前が提案した件を話すはず。学長ともなれば判断は早いし名前の案に乗らないはずはない。なぜなら名前が考えた案以上に楽なものはないからだ。
五条家は御三家のひとつでワンマン。六眼があって無下限。独身で虎視眈々と嫁の座を狙うものは多い。媚びは売れるときに売れ、ではないが恩を売る絶好の機会だ。それに五条悟が教師をしているのが面白くない面々がいるのも確かだ。守ってくれるのもまた家だろう。

「白いほうが五条くん、黒いほうが夏油くん?かな?」

あ。と名前は家入が使っているメモ帳から2枚紙を取って「五条悟」「夏油傑」と書いて床に置き、「お名前のほうに座って」と言えば猫は大人しく紙の前に座る。

「しろちゃんが五条くん、くろちゃんが夏油くんだね。2人とも大きいね、メインクーンとかノルウェージャンフォレストキャットみたい」

2人して長毛種だね。と名前が笑う。
名前はスマホを取り出して写真を撮る。そして2匹に見せて「こんなだよ」と楽しそうにしてまた写真を撮る。

「あ、そうだ」

独り言をつぶやいて名前はスマホで家入に「段ボールと洗濯ネット。このデカ猫が入るやつ各1で。運搬と逃走防止で使う」と送れば数秒後に既読がついて「了解」とスタンプが付いた。
ついでにまたメモ帳から1枚取り、「立入前に必ずノック。現在取込中」と書いてテープで廊下から医務室のドアに張り付ける。うっかり逃走されては面倒だ。その際頼りになる夏油が猫なのだ、呪霊での捜査もできなくなる。

「さーて、あとは連絡待ち。コーヒー飲も」

インスタントコーヒーをカップに入れてお湯を注ぎ、家入が使っている椅子に座る。
猫2匹は名前の動きを見て、名前が座ると白い五条のほうが名前の太ももに前足を置いて「にゃー」と鳴く。

「猫はコーヒー飲んじゃダメでーす」

まあ五条くんはブラック飲まないしね。と名前は気にせずにコーヒーに口をつける。すると次の瞬間に五条が名前の膝の上に飛び乗ったのだ。
見た目よりは軽いが、見た目よりというだけであってやはり重い。

「五条くん。降りて」
「にゃう」
「お り て」
「にゃおう」

もう。と名前はコーヒーを置いてから五条の脇に手を入れてから降ろす。
すると今度は黒い夏油が名前の膝の上にひょいと乗る。

「夏油くん」
「にう」
「おりて」
「にう」
「夏油くん」

もう。と同じように降ろせば次は五条、夏油、五条、夏油…と終わらないゲームの様だ。
左右に猫を抱きかかえ、名前は立ち上がってから降ろす。
乗る膝がなければ乗れない。座ってゆっくり猫になった同期の写真でも撮ろうかなと思ったのが間違いらしい。そういえば元に戻った七海に散々「ねえ抱っこされた?」「お膝抱っこは?」と聞いていたのを思い出した。

「同期を抱っこする趣味はありません」
「にゃう」
「にう」
「七海くんはいい子だったのに」
「………」
「………」
「七海くん抱っこしてなんてねだりませんでしたけど」
「……」
「……」

抱きたかったけど。というのは名前は飲み込む。
名前が猫が好きなのは同期だけではなく知っている者も多い。それこそ夏油が養父になっている双子は名前の猫の優をよく知っている。幼い頃に優に遊んでもらっていたのだ。猫でも相手が子供だというのはわかるのだろう、多少乱暴にされても黙って耐えていた。その反動かはわからないが子守りが終わると夏油に噛み付くこともあった。

「おい名前、私だ。入って大丈夫か、学長も一緒だ」
「ちょっと待って…はい、どうぞ」
「よう馬鹿ども。名前に捕まっているな」
「名前待たせたな。頼まれていた段ボールと洗濯ネットだ。悟、傑。これからお前たちは安全なところでの保護となる。まずは洗濯ネットに入れてから段ボールだ」
「一緒じゃないのは運ぶのが大変だから。猫になっても大きいからね、2人」
「大人しくしておけよ馬鹿ども」

じゃあ手分けして。と洗濯ネットの口を開けて、入れて、閉めて、今度は段ボールと入れていく。
大人しくしてくれたのは有り難いが、逆に何か企んでいないだろうかという疑ってしまう。まあ学長がいる手前あまり暴れると拳骨が飛んでくるというのもあるだろう。
学長に関しては基本的に特級の2人には容赦がない。

「これでいいか?」
「はい。ばっちりです。じゃあ先に五条くん運びますか」
「いや、悟のほうは大丈夫だ。私が運ぶ。傑を頼んでいいか」
「はい」
「にゃう」
「ははは。五条の奴学長が運ぶのに文句言ってる」
「硝子わかるの?」
「なんとなくな。多分夏油は勝ち誇ってると思うぞ」
「お前ら2人とも戻ったら始末書だ。特級2人が何してるんだ」
「そうだそうだ。これから私ら1級は特級の任務あるから休みなしだよ」

コンコン。と段ボールを叩いて不満を言う名前。1級が1人抜けるのとはワケが違うと言いたいのだろう。
学長が五条の入った段ボールを持ち上げ、すたすたと出ていく。
暫くすると名前のスマホが震え、「準備OK!」と連絡が来たので名前も夏油に声をかけて持ち上げる。




「はい、ついたよ夏油くん」
「夏油様かわいいー!」
「本当に夏油様?」
「硝子が言うし、名前書いた紙をちゃんと認識しているから大丈夫でしょ」
「に…?」
「夏油くん、貴方の世話は美々子ちゃんと菜々子ちゃんにお願いすることにしました」
「に!?」
「うわーデカい猫!これ夏油先生なん?」
「大型猫ですね…」
「特級も猫になるのね…五条先生は?」
「五条くんは五条家だよ」
「に!?」
「では、あとはヨロシクね。私これから特級の2人が抜けた分の任務があるから」

はーい!頑張ってね。という学生たちの声。
学生寮の共同スペースに置かれたダンボルール箱の蓋が開き、洗濯ネットに入れられた大型の黒い猫。
名前は簡単に説明を終わらせて「じゃ。」と手を振って出ていった。

「ねえ菜々子。今日夏油様と一緒に寝ようよ!」
「…うん!」
「………に」
「てかさ、夏油先生洗濯ネットから出してやらねえの?」
「逃走対策だろうしな。ここまで来て逃げねえだろ先生も」
「しばらく授業とか任務とかどうするのかしらね」

きゃあきゃあと喜ぶ双子とは反対に植物トリオはもう猫になった夏油には興味がないようで、菓子を貪りながらテレビを見始めていた。

「あ、夏油様洗ってあげようか!」
「に!?」
「それいい!さらさらのふわふわにしよう美々子」
「決まり!新しいトリートメント買ったんだ」

「猫に人間の使っていいの?」
「でももとは人間でしょ?いいんじゃない?」
「今は猫だけどな」

にゃー!!??という猫の叫び声が聞こえたが、誰一人として動じない。
相手は特級の呪術師(仮)だからだ。

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