呪術 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

苗字さんの手が気になる。
別段人が気になるような手をしているわけではない。言えば普通の女性の手だと思う。
呪術師なので綺麗か、と言われれば誰かの命を救っている手です、というだろう。
猫の呪を受けるまでは気になることはない、怪我があれば気にはなるが、そうでなければ何もなかった。

「なんだ七海。名前を熱心に見て」
「家入さん」
「猫の時に名前に世話になったのが恋しいのか?」
「どうしたんです、こんなとこで」
「この前の解剖の結果の報告だよ。ちょっと面倒でね、説明がてらさ」

大きな封筒をぺらぺらとふり、家入さんは酷いクマで不気味に笑う。疲れているのだろう、顔色がよくない。
小さくお疲れ様ですと挨拶をすれば「ああ」と返事が来る。

「猫ライフはどうだった?」
「それ五条さんと夏油さんにも聞かれました」
「で?どうだった七海」
「そうですね、不自由でしたよ」
「それだけ?」
「家入さん、お2人に似てきましたね」
「やめてよ」

おい名前。と家入さんが苗字さんに向かって声をかけると新しい補助監督と打ち合わせをしていた苗字さんが手を振る。
これから任務なのだろう、その新人の補助監督は比較的優しいであろう1級の苗字さんが充てられた。癖の強い呪術師の入門編としては妥当だとは思う。

「硝子顔色悪…大丈夫?」
「大丈夫に見えるか?」
「見えないね…で、どうかした?」
「名前がまた飼いたいって言ってたな」
「うん」
「七海と生活して猫が恋しいのか」
「恋しいー!猫抱っこしたいし吸いたいし一緒に寝たい」
「スグルとそうやって過ごしたんだ」
「止めて。硝子がスグルっていうと夏油くんみたいだから。私の可愛い猫ちゃんなので」
「でもスグルじゃん」
「間違いはないけど。で?それが私呼んだ理由じゃないよね」

あったりー。と家入さんはケラケラと笑う。
同期だけあって仲はいい。同性というのも大きいのだろう。私も灰原と2人きりだったこともあってよくつるんでいた。

「名前、七海の猫どうだった?」
「えー、五条くんと夏油くんに散々言われたの硝子も言うの?」
「七海にも同じこと言われた」
「あの2人は七海くんにも言ってたんだ…」
「で?」
「七海抱いた?吸った?一緒に寝た?やだー名前ちゃんてば。とか色々。さすがに七海くん相手にそこまでの事はしないよ。ちょっと抱っこはしたけど」
「ほんとに?」
「後頭部のにおいは嗅いだ。猫のにおい…」
「まさかあの時ですか」
「だって可愛い後頭部なんだもん…本当はもっと抱っこしたかったし膝の上にも乗せたかったし頭なでなでしたいし顎もなでなでしたかったの。一緒に寝たかった………」
「スグルにはそういう事してたんだ」
「硝子」
「あっはは」

猫になった本人の前でなんという無神経な。とは思うが、今更そんなことを言っても何もならない。持っていたコーヒーをまた一口飲み込む。
家入さんとも苗字さんとも学生来の知り合いで先輩ではある。ここまで2人には色々と世話になっているし、あの2人と違ってまだ良識はある方だ。ただあの2人とは同期という事もあってあまり変に刺激はしたくない。

「もしかして本当にそれだけで呼んだ?」
「ああ」
「私これから新人の補助監督と任務なんですけど」
「頑張れよ」
「うっわ、酷い。七海くんは?」
「私ですか?」
「七海が名前を熱心に見てるから声かけたんだよ」
「家入さん」
「食べ物持ってないよ」
「なんで七海が見てて食べ物なんだ」
「いや、何かあると猫の時におやつあげたりしてたから。その癖がでてるのかと」
「へえ?」

にい。と嫌な笑いをする家入さん。
目線をそらし、あらぬ方向を見て私は誤魔化す。確かにちょこちょこと猫用のおやつをくれていた。それでは私が苗字さんからのおやつを欲しがっているみたいではないか。
今私は別段空腹ではないし、それほど食い意地が張っている方でもない。

「七海くーん、君、名前からおやつ貰ってたんだ」
「名前ちゃーん、僕もおやつほしいー」
「「げ」」

背後からの衝撃と嫌な声が2つ。特級の2人である、どうして今の時間にここにいるのか。
今の時間は一応は教員である2人は授業中のはず。通常の学校と違うといわれればそれまでではあるが、まだ一応は授業中なのだ時間は。

「七海ってば僕らの可愛い女子たちに囲まれて何してんのー?」
「女子って年じゃないな」
「ねえ。お姉さまにしてほしいね」
「それで七海は名前からおやつ貰ってたの?あーんして?」
「そこまでしてないよ。掌に載せてた」
「苗字さん!」
「猫の話でしょ?今現在七海くんにあーんするわけじゃなし」
「ですが」
「なんだ七海。お前名前に可愛がられてたくせに可愛くないぞ。元保護主なんだから」
「家入さん!」

おっと、私そろそろ行かないと。と言って苗字さんが「それじゃ」と言って新人の補助監督と姿を消した。
そして今私の背後には恐らくニヤニヤした五条さんと夏油さん。目の前にはニヤニヤする家入さんがいる。

「名前の胸は柔らかかったか七海」
「なにそれどういうこと硝子」
「名前に抱っこされたそうだ、あと後頭部にキスしてるなアレは」
「は!?」
「名前はスグルの後頭部のにおいを嗅ぎつつキスしていたからな」

ばっと素早く後頭部を抑える。
いや、確かにあの時柔らかな感覚はあったが、あれは鼻か何かで。
抱っことはいえ、あれは運ばれただけで。

「へえ…私が君らの代わりに任務行ってる間良い思いをしていたんだね七海…」
「不可抗力です」
「本当はお膝抱っこもあっただろ七海。名前の膝は柔らかかったか?」
「されてません」
「名前の裸は?あいつ脱衣所に服持って行かないだろ?油断して忘れてるだろ」
「………」
「どういうこと?」
「名前んとこ泊まるとよく名前のやつ着替え忘れたってよくバスタオルで出てきてたんだよ」
「………」
「七海……」
「ちょっと話そうか」
「嫌です。話すことはありません。そもそもお2人は苗字さんの彼氏でもなんでもないんですから問題ないでしょう?」

そうだ。苗字さんは善意で私を助けた。
そしてこの2人は苗字さんの彼氏でも何でもない、ただの同期である。この2人が苗字さんを取り合っているという話は聞かないし、どちらかと言えば苗字さんが迷惑している方だろう。
ここまではっきり言えばもう飽きて散ってくれるだろう。まあ家入さんは面白半分で言っているのはわかるのでしばらくは続くかもしれないが。

「七海。確かに私たちは名前の恋人じゃない。でも名前はこの同期の中で一番弱いんだ、気にかけるのは当然だろう?」
「…は?」
「そーそー。なんたって呪具持って走って転んで血だらけになってた名前だからね。七海を信用してないわけじゃないんだよ、名前ってば非力だから」
「五条にカップ麺奪われて火傷する位にな」
「な、なんですそれ」
「それ言わないでよ硝子…」
「悟は学生時代名前のカップ麺奪おうとして名前に火傷させた過去がある。名前のガチギレは良かったよね」
「あれは面白かったな」
「五条さん…あなた…」
「あ、いや…」
「それで名前に謝れなくて暫く名前の後ろついてまわってたな。名前も無視してたし。七海も名前を怒らせるなよ、後に引くぞ」
「夏油さん。私よりも五条さんをどうにかした方が絶対に、格段にいいですよ」
「うーん、なんか私もそう思って来た」

他に苗字さんに危害を加えた過去はないんですか!と思わず言ってしまったが、わんさか出てくるのでやはり夏油さんは私よりも五条さんを警戒すべきだろう。

/