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「名前さんて、凄い後輩ばっかすね」

補助監督の新田明が言ったその言葉。
今回も任務にサポートはつかず、付いてくれたのは補助監督だけ。
補助監督もサポートではあるが戦闘面でのサポートではなく、言えば現場の雑用だ。
名前にサポートが付く事自体が少ないのだ。上の人間は弟が離反した事を酷く不愉快に思っているらしく、あの事件から仕事の割にサポートをつける事をしていない。
時たまついたと思えば後輩の五条関連の仕事ばかり。
正規ルートの仕事ではどのくらいついていないか覚えていない程だ。

「んー?」
「ほら、特級の五条悟とか、1級の家入さんとか七海さんとか」
「五条くんだけフルネームの呼び捨て」
「あ、ほら。なんつーか、別格すぎて。ははは」
「確かに五条くんは別格だもんね。なんて言ったって五条家の御当主で六眼持ちだもんね」
「そーそー!名前さんの後輩なんですっけ?」
「うん。五条くんも硝子も七海くんも伊地知くんもね」
「伊地知さんも?へー」
「伊地知くんは3つ下で私あんまりかかわりなかったんだけど、補助監督で顔合わせるかな」

上は呪術師のサポートをつけてくれない。しかし補助監督はつける。サポートはしてやっているという体なのだろう。
話に出た伊地知に名前は何度迷惑をかけただろう。
祓ったはいいが怪我をして血まみれになって何度叫ばれた事か。恐らく10本の指では数えきれないだろう。最近は減ったと言っても怪我はする。
七海に会って顔を青くさせたことは記憶に新しい。

「名前さんの知る皆って、どんな感じですか?」
「皆大体今と変わらないよ。あ、でも硝子は隈が今酷いかな。あと五条くんは今以上にクズだった、今はマイルドクズ」
「マイルドクズ!あっははは!なんすかソレ」
「昔は思った事言ってたからね、一人称は俺。はー?とか、うざ!とか口癖のように出てたよ」
「じゃあ今は大人なんすね」
「いや、あれは大人のフリをしているクズ。基本クズだからね」
「言いますねー。ま、私なんてそんな特級様と関わる事なんてないんで」
「階級関係なく基本呪術師はクズだからね。私も例にもれずクズだよ」
「えー?そうっすか?」
「うん。こんな仕事してる時点でね」

車に揺られながら名前は外を眺める。
運転をしないで良いのはとても楽ではある。怪我を気にしなくていい、怪我で動けず誰にも発見されず死亡という事態は避けられる。
意識がなくても高専で家入硝子の処置が受けられるのは有難い事だろう。
ある意味温情なのかもしれない。
車の外では人が多く出歩いている。家族であったり友人であったり、恋人だったり、仕事関係だったり。呪術師ではない人の世界がそこにあって、名前にはなかった世界だ。
後悔してはいない。
そこでは名前には居づらい世界だった。同じ世界が見える弟が仲間だった。
その弟はいなくなってしまったが。

「新田さんは、弟がいるんだっけ」
「ああ、はい。京都の高専にいますよ」
「どうして一緒の高専にしなかったの?」
「あー、んー、なんでって言われると、なんででしょうね。なんとなく、ですかね」
「そっか。なんとなく、か」
「弟は見える側で私はそうじゃないから、ですかね。あと普通に身内が近いの嫌かなって思って」
「そんなもんか。そっか」

そっか。と名前は自分を納得させる様に繰り返す。
そうだよね、一緒だと、ちょっと、アレかもね。と苦笑しながら。




「え、新田さん名前さんにそんな事言ったんですか…」
「何かありました?」
「あ、いえ………」

その話を聞いた伊地知が不味いぞ、と言わんばかりの表情で仕事の打ち合わせをしに来た新田を見た。

「名前さんて普段そういう話しないから珍しいなって」
「まあ、そうですね…」
「なんか不味い事聞いちゃいました?それとも言っちゃいました?」
「…いえ、名前さんが何も言われてないのであれば問題はないでしょう」
「そ、そうっすか」
「その前に新田さんはその喋り方をどうにかした方がいいですね。名前さんは気にしていませんが一応は年上の方ですし」
「すんま…すみません」
「気難しい方もいるので。たまに当たり散らす人もいるので、用心としてのアドバイスです」

伊地知と名前は高専時代に1年だけ交流がある。あると言っても学生として在籍していた期間が被っているだけで名前が4年の時に1年だった伊地知がいた、というだけだ。
特に4年と1年ではほぼ交流はなかったし、ないといってもこの少ない人数なのでお互いの顔も名前も知っているので会えば挨拶くらいは交わした。
その年に名前は弟に裏切られて大変な思いをしている。裏切られたという表現が適切かはわからないが、伊地知にはそう思えた。
事件があってからは名前は外出も任務も暫く許されなかった事を覚えているし、普通を装っているのが子供ながらに心苦しかった。

「名前さんは、色々と心が広いですからね」
「あー、確かに。優しいですね、あと美人」
「………そうですね、はい」
「え、」
「いえ、そういう事はセクハラになりかねませんので」
「ああ」
「私もお世話になっているので、わかりますよ」

別に夏油名前という人間の事が秘匿されているわけではない。調べることを禁じられているわけでもない。
ただ周りは過去の事を他の人間に言おうとしないだけである。
名前は実際に上からよく思われていない。補助監督が付くだけマシだろう。呪術師がサポートに入った事は稀。伊地知の知る限りでは五条が絡んだ件くらいだ。

可哀想な人、というのが適切かはわからないが、おそらく名前の周りで五条以外の多くがそう思うだろう。
だから何も知らない人間が名前の過去をどうこう知らなくていい。それが多分、名前の過去を知る人間の大多数がそう判断している。
こうして若い人間は名前の過去を資料か何かで知らないかぎり知らないのだ。


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